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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)1553号 判決

《目次》

主文

事実

第一章 当事者の求めた裁判

A 昭和六一年(ネ)第一五五三号事件

第一 被告ら

第二 別紙目録(一)ア、イ記載の原告らおよび原告中村松子

第三 不出頭原告ら

B 昭和六一年(ネ)第一五九九号事件

第一 別紙目録(一)ア、ウ記載の原告ら

第二 被告ら

C 附帯控訴事件

第一 別紙目録(一)イ記載の原告ら

第二 被告ら

第二章 当事者の主張

第一 原告ら(不出頭原告らを除く。)の主張

一 原告らの変更

二 侵害状況等

1 自動車の交通量の増加

(一) 自動車一般

(二) 大型車

2 騒音・振動

(一) 騒音

(二) 振動

3 排ガス

(一) 排ガス測定局の測定数値

(二) 本件国道沿道の排ガス測定局の二酸化窒素測定数値

(三) まとめ

三 原告らの被害

1 睡眠妨害

(一) 把握の在り方

(二) 睡眠妨害

(三) 鈴木庄亮の研究結果について

2 二酸化窒素の生体への影響

(一) 有害性

(二) 健康影響濃度

(三) 原告らの症状との因果関係

3 本件道路の排ガスと大気汚染との因果関係

四 違法性と瑕疵

1 設置の瑕疵

(一) 計画交通量の見通しの誤り

(二) 住居地内に五〇m道路を設置した誤り

(三) 本件道路の二階建構造の誤り

2 管理の瑕疵

3 まとめ

4 公共性について

5 受忍限度について

五 差止請求

1 環境権

2 差止基準

(一) 騒音

(二) 二酸化窒素

(三) 請求の特定

(四) 被告適格

六 損害賠償請求

1 公共性との関係

2 一律請求

3 後住原告の請求の正当性等

4 損益相殺

七 結論

第二 被告らの主張

一 侵害状況、被害及び因果関係について

1 騒音

(一) 本件道路端における騒音の実情

(1) 実測値

(2) 全国の他の道路端との比較

(3) 室内騒音の重要性

(4) 騒音曝露条件の多様性と曝露量の個別性

(二) 原告らに対する騒音曝露の実情

(1) 夜間における屋外騒音レベル

(2) 夜間における室内騒音レベル

(三) 本件道路騒音の睡眠への影響

(1) 鈴木庄亮らの研究

(2) その他の国内の研究

(3) 国外の研究

(四) 本件道路騒音と睡眠妨害との因果関係の不存在

(五) 騒音の精神的影響

(六) 会話等の聴取妨害

(七) 環境基準と要請限度

2 排ガス

(一) 原告らの被害の実体

(二) 大気汚染物質の有害性

(1) 窒素酸化物

(2) 浮遊粒子状物質

3 大気汚染疫学調査の限界

4 最新の知見からみた新環境基準の安全性

5 本件沿道の二酸化窒素濃度とその安全性

(一) 排ガス測定局の昭和五八、五九年ころからの測定数値

(二) 一般局の前同測定値

(三) まとめ

6 本件沿道の浮遊粒子状物質濃度とその安全性

(一) 排ガス測定局の測定数値

(二) 一般局の測定数値

(三) まとめ

7 本件道路周辺における大気汚染と排ガスの関係

8 被害把握の在り方について

(一) 共通する最低限度の被害の不存在等

(二) 本件道路からの距離による線引き認定の不当性

(三) 感覚重視の不当性

二 違法性と瑕疵について

1 設置・管理の瑕疵の内容

2 道路管理者の法律上の権限と回避可能性

3 道路管理における社会的、財政的、技術的諸制約と管理可能性

4 本件道路の設置又は管理の瑕疵の不存在

5 本件道路における受忍限度の検討

(一) 本件道路供用行為の特質

(二) 本件道路の騒音及び排ガスの程度

(三) 被侵害利益の性質と内容

(四) 本件道路の重要性・公共性

(五) 環境対策

(六) まとめ

三 差止請求について

四 損害賠償請求について

1 一律請求

2 損害額の認定について

(一) 防音工事助成の評価

(二) 後住性の判定基準時

(三) 転居した原告ら

五 民訴法一九八条二項の申立

六 結論

第三章 証拠

理由

第一 書証の成立

第二 当事者

一 転出原告

二 原告らの変更

三 承継の対象となった請求権に関する疑義

第三 差止請求について

一 差止請求の根拠

二 民事訴訟による差止請求の可否

三 差止請求の趣旨の特定

第四 損害賠償請求について

一 本件道路の設置・管理の瑕疵

二 将来の不法行為に関する賠償請求の適法性

第五 本件道路の沿革及び現況等

一 本件道路建設の経緯等

1 地域特性

2 本件道路の沿革

(一) 本件国道

(二) 本件県道神戸線

(三) 本件県道大阪線

3 本件道路の構造等

(一) 本件国道

(二) 本件県道神戸線

(三) 本件県道大阪線

4 維持、管理

(一) 本件国道

(二) 本件県道

二 一日当たりの交通量

三 交通量の時間変動及び大型車の利用状況

1 昼夜の割合

2 大型車混入率

3 まとめ

四 交通特性

第六 侵害状況等

一 交通の実情

二 騒音

1 日常生活騒音と騒音レベル

2 道路騒音と航空機騒音、新幹線騒音との比較

3 生活時間別騒音曝露量

4 本件道路端における騒音量及び他の道路端における騒音との比較等

5 原告ら居住地における騒音の実情

三 排ガス

1 窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質の位置付け

2 環境濃度

3 環境基準

4 測定値

(一) 昭和五六ないし五八年までの測定値

(二) 右の時期以降の二酸化窒素及び浮遊粒子状物質の測定値

(1) 二酸化窒素

(2) 浮遊粒子状物質

5 尼崎市内の交通量の増減と二酸化窒素濃度の変化

四 振動

1 振動の一般及び高架道路における特徴等

2 検証の結果

3 測定値

五 まとめ

第七 被害

一 被害把握の観点

二 因果関係把握の手法に関する評価について

三 騒音による被害

1 睡眠妨害

(一) 一般的知見

(1) 睡眠の特徴と定義

(2) 睡眠時間の把握

(3) 睡眠に対する騒音の影響

(二) 他の地域における睡眠時の平均的騒音レベル

(三) 従来のアンケート調査、実験研究等について

(四) まとめ

2 聴覚障害(難聴と耳鳴り)

3 その他の身体的被害

4 精神的被害

5 生活妨害

(一) 原告らの訴え

(二) 一般的知見、各種アンケート調査及び勧告、実験等

(三) その他

(1) 会話、通話等の聴取妨害等

(2) 読書、思考、学習等の妨害

(3) 子供が交通事故に遭う危険性

(4) 窓を閉ざしたままの生活を余儀なくされること

四 排ガスによる被害

1 昭和五三年ころまでの窒素酸化物に関する調査、研究等

2 その後の調査、研究

3 東京都衛生局による「複合大気汚染に係る健康影響調査総合解析報告書」

4 中央公害対策審議会環境保健部会の大気汚染と健康被害との関係の評価等に関する専門委員会報告

(一) 大気汚染の推移と現状

(1) 二酸化硫黄

(2) 二酸化窒素

(3) 大気中粒子状物質

(二) 大気汚染の生体影響に関する知見の現状

(三) 大気汚染と健康被害との関係の評価

(1) 人への実験的負荷研究

(2) 疫学的研究

(3) 動物実験及び人への実験的負荷研究の結果の評価

(4) 疫学的知見のまとめ

ア 持続性せき・たん(成人)

イ ぜん息様症状・現在(児童)

ウ ぜん息様症状・現在(成人)

(5) 現状の大気汚染と慢性閉塞性肺疾患との関係の評価

(四) 今後の課題

5 まとめ

五 振動による被害

六 その他の被害

七 総まとめ

第八 違法性(受忍限度)

一 公共性

1 道路の公共性一般

2 本件道路の重要性

二 対策

1 発生源対策

(一) 騒音及び排ガスに対する法律による規制、その経緯及び効果

(二) 道路の側における対策

(1) 交通規制

(2) 道路構造面の対策

2 道路沿道の側における対策

(一) 住宅防音工事及び移転の助成

(二) 日陰及び電波障害対策、住環境整備モデル事業

三 行政指針(環境基準、要請基準)

四 地域性

五 まとめ

第九 差止請求

第一〇 損害賠償請求

一 被告らの責任原因

二 被告らの責任の態様

三 危険への接近

四 消滅時効

五 将来の損害賠償請求の適法性

六 損益相殺

七 具体的な額の算定

八 まとめ

九 民訴法一九八条二項の申立について

第一一 結語

目録 (一)ア〈省略〉

目録 (一)イ〈省略〉

目録 (一)ウ〈省略〉

目録 (一)エ

目録 (一)ア、ウのA第一表〈省略〉

目録 (一)ア、ウのA第二表〈省略〉

目録 (一)ア、ウのA第三表〈省略〉

目録 (一)ア、ウのA第四表〈省略〉

目録 (一)ア、ウのB第一表〈省略〉

目録 (一)ア、ウのB第二表〈省略〉

目録 (一)ア、ウのB第三表〈省略〉

目録 (一)ア、ウのB第四表〈省略〉

目録 (二)〈省略〉

目録 (三)〈省略〉

目録 (四)

目録 (五)

目録(六)ア〈省略〉

目録(六)イ〈省略〉

目録(六)ウ〈省略〉

損害賠償認容額一覧表(一)

損害賠償認容額一覧表(二)

第一五五三号事件控訴人・第一五九九号事件被控訴人・附帯被控訴人

右代表者法務大臣

田原隆

右同

阪神高速道路公団

右代表者理事長

豊藏一

右指定代理人及び訴訟代理人弁護士

別紙目録(二)記載のとおり

第一五九九号事件控訴人・第一五五三号事件被控訴人

浜村こと

濱村和子

ほか一〇九名

(別紙目録(一)ア記載のとおり)

右訴訟代理人弁護士

別紙目録(三)記載のとおり

附帯控訴人・第一五五三号事件被控訴人

濱田長次

ほか三名

(別紙目録(一)イ記載のとおり)

右訴訟代理人弁護士

別紙目録(三)記載のとおり

第一五九九号事件控訴人

藤川美代子

ほか一二名

(別紙目録(一)ウ記載のとおり)

右訴訟代理人弁護士

別紙目録(三)記載のとおり

第一五五三号事件被控訴人

中村松子

ほか二名

(別紙目録(一)エ記載のとおり)

右中村松子訴訟代理人弁護士

別紙目録(三)記載のとおり

(以下、別紙目録(一)アないしエ記載の当事者を「原告」

第一五五三号事件控訴人・第一五九九号事件被控訴人・附帯被控訴人を「被告」という。)

主文

一  別紙目録(一)ア、ウ記載の原告らのうち、同目録(一)ア、ウのA及びB各第一、第三表記載の原告ら(原告番号2、65、70、78及び121の各1の原告を除く。)の控訴に基づき、原判決主文一項のうち、同原告らの一般国道四三号、兵庫県道高速神戸西宮線及び同大阪西宮線の供用の差止請求にかかる訴えを却下した部分を取消し、同請求を棄却する。

二  別紙目録(一)ア、ウ記載の原告らのうち、同目録(一)ア、ウのA及びB各第一表記載の原告ら(原告番号2、65、70、78及び121の各1の原告を除く。)の控訴に基づき、前同一項のうち、同原告らの将来の慰謝料請求にかかる訴えを却下した部分を、「平成三年七月二〇日以降の将来の慰謝料請求にかかる訴えを却下する。」と変更する。

三  別紙目録(四)記載の原告らの控訴及び当審において拡張した請求を、いずれも棄却する。

四  別紙目録(一)エ記載の原告らに対する被告らの控訴をいずれも棄却する。

五  別紙目録(一)ア、ウ記載の原告ら(同目録(一)ア、ウのA第一ないし第三表及びB第一ないし第四表記載の原告ら。ただし、同目録(四)記載の原告らを除く。)の控訴及び当審において拡張した請求、被告らの控訴(ただし、同目録(一)エ記載の原告らに対する被告らの控訴を除く。)並びに別紙目録(一)イ記載の原告らの付帯控訴及び当審において拡張した請求に基づき、原判決主文二、三項を次のとおり変更する。

1  被告らは、各自別紙損害賠償認容額一覧表(一)記載の原告らに対し、それぞれ同表総額欄記載の各金員とそのうち慰謝料額欄の及び弁護士費用欄の各金員に対する昭和五一年九月一四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

右原告らの平成三年七月一九日以前の損害にかかるその余の賠償請求を棄却する。

2(一)  被告国は、別紙損害賠償認容額一覧表(二)記載の原告らに対し、それぞれ同表総額欄記載の各金員とそのうち慰謝料額欄の及び弁護士費用欄の各金員に対する昭和五一年九月一四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告公団は、別紙損害賠償認容額一覧表(二)記載の原告ら(ただし、同表備考欄にアと記載のある原告らを除く。)に対し、それぞれ同表慰謝料額欄のの各金員を支払え。

(三)  右原告らの平成三年七月一九日以前の損害にかかるその余の賠償請求を棄却する。

六  別紙目録(五)記載の原告らは、被告らに対し、同目録記載の金員及びこれに対する昭和六一年七月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

別紙目録(六)アないしウ記載の原告らのうち、被告らの同目録(五)記載の原告らに対するその余の申立及びその余の原告らに対する全部の申立を棄却する。

七  訴訟費用(後記申立費用を除く)中、別紙目録(四)記載の原告らの控訴に基づく費用は同原告らの負担、同目録(一)エ記載の原告らに対する被告らの控訴に基づく費用は被告らの負担とし、その余の原告らと被告らとの間に生じたものはこれを四分し、その三を原告らの連帯負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

被告らの民訴法一九八条二項の申立によって生じた費用は、別紙目録(六)アないしウ記載の原告らのうち、同目録(五)記載の原告らと被告らとの間に生じたものはこれを八分し、その七を被告らの連帯負担として、その余を原告らの連帯負担とし、その余の原告らと被告らとの間に生じたものは全部被告らの連帯負担とする。

事実

第一章  当事者の求めた裁判

A  昭和六一年(ネ)第一五五三号事件につき

第一  被告ら

一 原判決中、被告ら敗訴部分を取り消す。

二 当審において拡張した請求を含め、別紙目録(一)ア、イ及びエ記載の原告らの請求を棄却する。

三 別紙目録(六)ア記載の各原告(ただし、原告番号46の1、70、97、113の1の各原告については、別紙目録(一)ア各該当番号記載の承継人)は、被告国に対し同目録①欄記載の、被告公団に対し同目録②欄記載の各金員及びこれらに対する昭和六一年七月一九日から支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

四 別紙目録(六)イ記載の各原告は、被告国に対し同目録①欄記載の、被告公団に対し同目録②欄記載の各金員及びそのうち①②各欄記載の各金員に対する昭和六一年七月一九日から、同欄記載の各金員に対する昭和六二年三月二六日から、各支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

五 別紙目録(六)ウ記載の各原告承継人は、被告国に対し同目録①欄記載の、被告公団に対し同目録②欄記載の各金員及びこれらに対する昭和六二年三月二六日から支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

六 訴訟費用は、第一、二審とも別紙目録(一)ア、イ及びエ記載の原告らの負担とする。

七 右三ないし五項につき仮執行宣言

第二  別紙目録(一)ア、イ記載の原告ら及び原告中村松子

一 本件控訴を棄却する。

二 控訴費用は被告らの負担とする。

第三  不出頭原告ら

原告佐々木八重は適式の呼出を受けながら、また原告後藤欣康は公示送達による適式の呼出を受けながら、いずれも当審における本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。

B  昭和六一年(ネ)第一五九九号事件につき

第一  別紙目録(一)ア、ウ記載の原告ら(同目録(一)ア、ウのA第一ないし第三表及び同B第一ないし第四表記載の原告ら)

一 原判決主文一項を取消す。

二 被告らは、本件道路を走行する自動車によって発生する騒音及び二酸化窒素を、

1 騒音については中央値において、午前六時から午後一〇時までの間は六五ホン、午後一〇時から翌日午前六時までの間は六〇ホンをそれぞれ超えて、

2 二酸化窒素については、一時間値の一日平均値において0.02ppmを超えて、

いずれも、同目録(一)ア、ウのA第一、第三表、同B第一、第三表記載の各原告ら(原告番号2、65、70、78及び121の各1の原告を除く。)肩書地所在の各居住敷地内に侵入させて、被告国は本件国道を、被告公団は本件県道を、それぞれ、自動車の走行の用に供してはならない。

三 原判決主文二、三項を次のとおり変更する(1ないし4につき、いずれも当審において請求拡張)。

1 被告らは、各自、同目録(一)ア、ウのA第一表記載の原告らそれぞれに対し、各五三七万九二五八円及び各内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から各支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告らは、各自、同目録(一)ア、ウのA第二表記載の原告らそれぞれに対し、同表記載の各金員及び各内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から各支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

3 被告国は、同目録(一)ア、ウのB第一表記載の原告らそれぞれに対し、各五三七万九二五八円及び各内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から各支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

4 被告国は、同目録(一)ア、ウのB第二表記載の原告らそれぞれに対し、同表甲欄記載の各金員及び各内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から各支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

5 被告公団は、同目録(一)ア、ウのB第一、第二表記載の原告らそれぞれに対し、同第一表記載の原告らについては各一四〇万六二五八円、同第二表記載の原告らについては同表乙欄記載の各金員を支払え。

四 原判決主文第四項中、同目録(一)ア、ウのA第三、第四表、別紙B第三、第四表記載の原告らに関する部分を取消す(1ないし4につき、いずれも当審において請求拡張)。

1 被告らは、各自、同目録(一)ア、ウのA第三表記載の原告らそれぞれに対し、各五三七万九二五八円及び各内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から各支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告らは、各自、同目録(一)ア、ウのA第四表記載の原告らそれぞれに対し、同表記載の各金員及び内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

3 被告国は、同目録(一)ア、ウのB第三表記載の原告らそれぞれに対し、各五三七万九二五八円及び各内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から各支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

4 被告国は、同目録(一)ア、ウのB第四表記載の原告に対し、同表甲欄記載の金員及び内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

5 被告公団は、同目録(一)ア、ウのB第三、第四表記載の原告らそれぞれに対し、同第三表記載の原告らについては各一四〇万六二五八円、同第四表記載の原告については同表乙欄記載の各金員を支払え。

五 被告らは、各自、同目録(一)ア、ウのA第一表、同B第一表記載の原告ら(原告番号2、65、70、78及び121の各1の原告を除く。)に対し、昭和六〇年五月二四日以降、本件道路を走行する自動車によって発生する騒音及び二酸化窒素を、騒音については中央値において、午前六時から同八時までの間及び午後六時から同一〇時までの間はそれぞれ五五ホン、午前八時から午後六時までの間は六〇ホン、午後一〇時から翌日午前六時までの間は五〇ホンをそれぞれ超えて、二酸化窒素については、一時間値の一日平均値において0.02ppmを超えて、いずれも右原告ら肩書地所在の各居住敷地内に侵入させることをやめるまでの間、一か月につき各三万円の割合による金員を支払え。

六 訴訟費用は、第一、二審とも被告らの負担とする。

七 仮執行宣言

第二  被告ら

一 本件控訴を棄却する。

二 控訴費用は原告らの負担とする。

三 仮執行免脱宣言

C  附帯控訴事件につき

第一  別紙目録(一)イ記載の原告ら

一 原判決主文二、三項を次のとおり変更する。

1 被告らは、各自、原告濱田長次に対し、三四〇万七〇〇〇円及び内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え(当審において請求拡張)。

2 被告国は、原告野上正樹に対し、六三万〇二二二円及び内金五〇万円に対する昭和五一年九月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 被告国は、原告森田裕子に対し、一二六万〇四四四円及び内金一〇〇万円に対する昭和五一年九月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4 原告李南述に対し、

(一) 被告国は、五一四万二〇〇〇円及び内金二二五万円に対する昭和五一年九月一四日から各支払済みに至まで年五分の割合による金員を、

(二) 被告公団は、一一六万九〇〇〇円を、

それぞれ支払え(当審において請求拡張)。

第二  被告ら

一 本件附帯控訴をいずれも棄却する。

二 附帯控訴費用は附帯控訴原告らの負担とする。

第二章  当事者の主張

当事者双方の主張は、当審に継続していない原告(原告番号27、42、53、59、99、100、103、105、107、117、118、119、130、133、142、144、145、146、147、148)らの関係部分及び国賠法一条に基づく請求部分を除き、次のとおり補充ないし敷衍するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。第一 原告ら(不出頭原告らを除く。)の主張

一  原告らの変更

原審において継承等がなされた後に生じた原告らの死亡による変更は、次のとおりである。

前原告    原告

番号 氏名 死亡年月日

番号 氏名 承継分

1  濱村直太郎 昭52.12.19

1の1 濱村和子 全部

2  福本マサ子 平元.9.1

2の1 福本英晴 全部

46の1 加尻芳 昭63.11.6

46の2 後藤修 全部

65 雑古ノブ 昭61.2.26

65の1 雑古清子 全部

70 坂本友次郎 昭62.4.27

70の1 坂本修一 全部

78 關川せきの 昭63.6.12

78の1 關川勇 全部

97 南條みちえ 平2.5.20

97の1 南條孝一 全部

113の1 天野芳江 平2.9.6

113の2 天野惠太 全部

121 堅田秀弘 昭61.5.21

121の1 堅田志げ子 全部

124 小野春樹 昭53.4.29

124の1 小野リクヨ 三分の一

124の2 森田裕子 九分の四

124の3 野上正樹 九分の二

125 磯俣トセノ 昭57.5.26

125の1 有田ミサカ 全部

137 森嶋千代子 昭55.9.4

137の1 櫻井嘉子 全部

二  侵害状況等

原告らは、昭和五八年までの資料に基づき、本件沿道における環境破壊(侵害状況)の様相を示す諸指標については、既に詳述した。ところが、以下にみるとおり、その後、これらの諸指標は一層の悪化を示しており、環境破壊は、さらに確実に進行していることが明らかである。

1  自動車の交通量の増加

(一) 自動車一般

(1) 尼崎市

尼崎市内における本件国道及び本件県道大阪線の一日当たりの交通量のその後の推移をみると、本件国道では、右県道が開通した昭和五六年以後増勢に転じ、昭和五九年には一日当たり九万台を超えて、過去最高を記録し、それ以後その高い水準が持続して、平成二年には実に一日当たり一〇万台を超えるに至っており、一方、右県道では、年々飛躍的に増加し、平成元年になると一日当たり八万台を大きく超えて、同県道が開通した年の二倍近くに達している。

(2) 西宮市

西宮市内における本件道路の一日当たりの交通量のその後の推移をみると、本件国道では、昭和五九年以後増加傾向にあり、平成二年には一日当り八万台を大きく超えており、一方、本件県道でも、年々増加し、平成元年になると一日当たり一〇万台を超え、昭和五六年の二倍に達している。

(3) 芦屋市

芦屋市内における本件国道及び本件県道神戸線の一日当たりの交通量のその後の推移をみると、本件国道では、昭和五五ないし同五七年に減少傾向を示したものの、その後増勢に転じ、平成二年には昭和四八、四九年当時の最高水準に近づいており、一方、右県道では、一貫して増加し、平成元年、二年には一日当たり一一万五〇〇〇台を超え、昭和四八、四九年当時の二倍の水準にある。なお、平成二年の右両道路の総交通量は、一日当たり約二〇万台弱である。

(4) 神戸市

神戸市内における本件国道及び本件県道神戸線の一日当たりの交通量のその後の推移をみると、本件国道では、昭和五〇年後半から増勢となり、昭和六三年には一日当たり九万台弱で、過去最高を記録し、その後も増勢が続いている。一方、右県道では、年々増加し、平成元年には一日当たり一一万五〇〇〇台を超え、供用開始した昭和四五年の二倍を優に超えている。なお、平成元年の右両道路の総交通量は、一日当たり二〇万台を超えるに至った。

(二) 大型車

本件道路の交通量は、右のとおりであるが、そのうちの大型車の混入率が特に重要である。何故なら、大型車、とりわけディーゼルエンジン搭載のコンテナトレーラ等のそれは、乗用車に比べて排ガスの量が格段に多く、大気汚染に寄与する比重が高い移動発生源として、環境破壊を押し進める要因となるからである。そこで、その混入率の径年変化を、神戸市を除く(同市には適切な資料がない。)各市についてみると、各年度で多少の変動はあるものの、平成二年六月の調査資料によると、尼崎市26.5%、西宮市24.0%、芦屋市28.4%、高い水準でほぼ横這い状態とみてさしつかえないところ、全体としての交通量が著しく増えているのに、大型車の混入率に変化がないということは、大型車の交通量も著しく増加していることを意味し、計算上一日当たり五万台を超えているのである。したがって、大型車一台で乗用車五台の換算率によると、本件道路の容量を遙かに超える自動車が走行していることになる。

2  騒音・振動

(一) 騒音

本件沿道において、道路端からほぼ五〇mの距離の範囲内に居住する原告らに本件道路の騒音が顕著に及んでおり、その状況は、他の幹線道路沿道の騒音レベルと比較して深刻であるが、その後、尼崎市では夜間の騒音レベルがやや増悪傾向を示しており、その余の各市では全般的に増悪傾向を示している。殊に、前述のとおり本件道路では、大型車の混入率が異常に高いところ、建設省の報告書の騒音予測に関する車種別乗用車換算係数によると、車体総重量二ないし四t種クラスのトラックが乗用車を一台として7.1、六ないし八t種クラスのトラックが20.0、一一t種クラスのトラックが25.7となっていることから明らかなように、大型車一台当たりの騒音レベルは大きく、それだけ周辺住民がより騒音被害を受けていることになる。

以上によって本来原告らが日常的に曝露されている騒音の程度は、充分に明らかになっており、さらに原告ら個別の状況まで明らかにする必要は、全くないと考える。しかし、その点の鑑定が当審においてなされた経緯があるので、念のため鑑定の対象にされた関係原告ら各居宅の騒音曝露の状況を分析し、その騒音レベルに則して原告らが曝されている騒音レベルを明らかにする。

ただ、騒音曝露の状況を把握するに当たっては、次の点に留意しなければならない。

(1) まず、騒音レベルの数値の大小は、人間の騒音に対する感覚と、必ずしも一致するものではない。換言すると、騒音レベルは、物理量であって、人間の感覚への被影響度を表す心理量ではない。正しく把握するためには、現場で直接騒音を体験した感覚を、第一の資料としなければならない。もとより、このことは、原告ら各居宅の騒音曝露の程度を評価するについても妥当する。

(2) 次に、騒音の測定値については、騒音計のマイクロホン周辺の状況を充分に吟味し、同一の立地条件にある測定値をも対照するなどしながら、総合的に評価しなければならない。

(3) さらに、騒音レベルには、屋外値のほか、居室内の窓開け、窓閉めのそれがあるが、本件に即して言えば、屋外値が決定的に重要である。その理由としては、元来、占有する敷地への一定量以上の騒音の侵入の差止を求めているのであるから、その敷地内で測定される最大の騒音レベルを代表値とすることは、いわば当然というべきであるが、さらに実質的な根拠を示すと、次のとおりである。

ア 原告らが道路騒音の曝露を環境破壊の一指標と措定していることからすれば、屋内の騒音レベルではなく、当該地域の騒音を代表すると考えられる地点の騒音レベルを問題とすべきは当然であるところ、それは屋外値以外にありえない。

イ 原告らの生活の場は、屋内だけに限られず、かなりの時間を屋外で過すのが通常であるから、屋内の騒音レベルのみを俎上に乗せるのでは、日常生活からかけ離れた議論となる。

ウ 原告らがその敷地をどのように利用するかは本来自由であるから、たまたま騒音に対する自己防衛として防音構造の家屋を建てた場合には、そうでない家屋に比べて屋内の騒音レベルが相対的に低いことになる。しかし、その工事の実効性に疑問があるから、過大評価は避けるべきであり、また、同工事がなされた部屋に閉じ籠もることを前提とする発想も、非現実的であって、被害の実情を無視するものというほかなく、被害が少ないとみるのは不当であり、むしろ屋外値を基準に同程度の被害と評価すべきである。

以上の見地を総合して検討した原告らの居宅の騒音レベルは、別紙Cのとおりである。

(二) 振動

本件沿道における振動曝露による被害の実情を把握するには、次の諸点に留意しなければならない。

(1) 振動レベルは、L10やL50、ましてやL90によるのではなく、最大値で評価されるべきである。

(2) しかも、振動レベルという物理量ではなく、五感により感得される振動感覚こそ重視されなければならない。

(3) 日常生活において、道路振動の曝露を感じるのは屋内であり(ただ、その被害が感覚的に捉えやすいのは、結果として顕在化する建物被害である。)、地表値に比べて屋内レベルは、五デシベル程度増幅することなどから、屋内の振動レベルが重視されるべきである。

(4) 本件各市で測定されている振動レベルは、具体的に苦情のあった地点で測定されたものではない。苦情のあった地点で測定されれば、右のレベルを上回る可能性が高いことに留意すべきである。

なお、本件沿道市域について、L10で表示された振動レベルでみると、最近増悪傾向にある神戸市の測定値の推移が、よく実情を反映しており、その余の各市も同様の傾向にあると考えられる。殊に、本件道路では、最近五軸、六軸といった超大型車がかなり走行しており、それだけに地盤振動も大幅に増加し、路面の亀裂が目立つぐらい生じているのであるから、周辺住民が建物のひび割れなどの振動被害を訴えるのは当然である。

3  排ガス

本件国道を走行する自動車から生ずる排ガス中には、一酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素、鉛化合物、硫黄酸化物、粒子状物質等の有害物質が含まれ、粒子状物質のうちの粉じんには発癌性のアスベストが含有され、これらは単体でも有害であるが、相互の有害性が相加ないし相乗して、原告らに対し計り知れない健康被害をもたらしている。

ところで、前記のように本件道路を走行する車両の交通量は、増加の一途を辿り、一日当たり二〇万台であり、そのうち大型車の混入率も高いのであるが、近年経営効率の点で優れているディーゼル車、とりわけ直噴式の保有台数の増加が著しく、大気汚染に寄与する比率も高くなっている。例をあげると、2.5t以上の直噴式ディーゼル車が排出する窒素酸化物は、ガソリン、LPGを燃料とする乗用車の八五倍にも及ぶのである。そのため本件沿道の汚染状況は、日々深刻の度を増していることが判るはずである。

(一) 排ガスの測定局の測定数値

同測定局の測定数値は、本件沿道における汚染物質の曝露の実態を忠実に反映するものでない。殊に、右測定数値は、本件沿道汚染の高い峰のうち、最も低い部分の状況を示すもので、汚染の全体像を反映するものでないことが、その後の調査により裏付けられたことに留意する必要がある。

(二) 本件国道沿道の排ガス測定局の二酸化窒素測定数値

右で指摘したように同測定局の測定数値は、汚染の全体像を示すものではないが、二酸化窒素に焦点を絞って昭和六三年度における一時間値の最高値をみると、西宮市0.146ppm、芦屋市0.152ppm、神戸市0.118ppm(五局平均)である。尼崎市については、同年度の測定数値が明らかでないものの、昭和六二年度0.153ppmであった。これらは、身体に悪影響を与える驚異的な数値である。

一般に、年平均値が汚染状況のバロメーターとされているが、その年平均値がさしたる数値を示していなくても、右のように最高値が相当高い数値を示しているときの大気は、必ず身体に重大な悪影響を与えているのである。加えて、尼崎市における窒素酸化物の日平均値の年間九八%値の推移をみると、昭和五八年0.204ppm、同六〇年0.176ppm、同六一年0.221ppm、同六二年0.218ppmであり、その一時間値の最高値は、0.597ppmという高い数値を示しているのであって、本件沿道の大気汚染による被害の深刻さが窺える次第である。

なお、同様にして本件県道沿道で測定された二酸化窒素についても、短時間であるが、断続的に高濃度の値がみられる。

(三) まとめ

以上排ガス測定局の測定数値をみただけでも、本件沿道の住民は、汚染された大気に曝されており、しかも悪化傾向にあることが認められる。加えて、右以外にも有害性が指摘されている粒子状物質、その他の汚染物質も予測を遙かに上回って増加しているから、それらの相乗効果を考慮すると、本件沿道の汚染の悪化は、一段と加速していると言えるのである。このことは、排ガス規制が自動車の走行において、効果を発揮していないことを意味する。

三  原告らの被害

1  睡眠妨害

(一) 把握の在り方

これまでの各種の調査、勧告値及び研究等を総合すると、本件道路から少なくとも五〇mの範囲内の住民が、前記騒音・振動により恒常的に睡眠妨害を受けていることや、これまで原告らの主張している睡眠妨害の態様が、それぞれ裏付けられただけでなく、それらの被害把握の在り方を、次のとおり要約することができる。

(1) 睡眠確保の基準値を設定する場合には、L50の値よりも、むしろLeqと最大騒音レベルに配慮する必要がある。

(2) 睡眠妨害の有無の認定に当たっては、屋内窓閉めの値だけでなく、室内窓開けの値はもとよりのこと、特に屋外値を考慮すべきである。

(3) 老人、病人及び幼児等の弱者を考慮に入れた閾値を、設定する必要がある。

(4) 道路交通騒音は、振動を伴い、しかも交差点での停車及び発車時の急激な騒音、サイレン、ブレーキ音、雨天の際にタイヤが発する騒音等、いずれも睡眠妨害を生じ易い変動騒音であることを考慮すべきである。

(5) 騒音の睡眠に対する影響は、主観的側面が大きく作用するのであるから、主観的睡眠感を考慮しなければならず、そのためには周辺地域のアンケート調査の結果や関係者の陳述書を重視する必要がある。

(二) 睡眠妨害

以上の見地からすると、本件道路から五〇mの範囲内に居宅をもつ原告らは、一般人が睡眠を確保できる最低値を遙かに超えた騒音に日夜曝され、睡眠妨害に苛まれていることが明白である。

(三) 鈴木庄亮の研究結果について

鈴木は、もともと騒音公害が問題となったのを契機に、個々の公害裁判で問題とされた騒音発生源を管轄する省庁の外郭団体の要請を受けて、研究を開始したものであり、その研究結果も被告国の責任を否定する内容となっている。そして、その後の一連の研究も、建設省の外郭団体である道路環境研究所からの委託に基づき、そこからの研究費により行われたものである。このように、鈴木の研究は、本件訴訟を念頭に置き、被告らの責任を否定することを目的として、行われた疑いが強い。しかも、その研究の基礎になった実験には、次に指摘する問題がある。

(1) 鈴木の行ったコンピューターでの脳波解析システムには、左記の問題点が内在し、信用できない。

ア 一分間に一回、毎分〇秒から二〇秒までの間のデータを抽出し、その余の約四〇秒間についてはデータが採取されないから、その間に発生した脳波の変化、すなわち睡眠段階の変化を認知できず、分析の対象とすることができないという、脳波判定方法の問題がある。

イ 〈書証番号略〉の表2―1及び表2―2によると、視察判定でステージWと判定される脳波の五〇%前後がコンピューターでは、ステージ1、2と判定され、また視察判定でステージ1と判定される脳波の四〇ないし五〇%がステージ2と判定されている。このことは、浅い眠りがコンピューター解析によると、深い眠りの脳波と判定される可能性を示している。この点について鈴木は、視察法による修正を施しているかのように証言(当審)しているが、論文にはそのような内容の記載がないから、本当に修正したのか判断する方法がなく、にわかに信用できないという、視察判定との一致率の問題が残る。

ウ Kなる人物が何回も被験者になっているところ、一連の研究で同一人が何回も被験者になること自体、データの偏りを招く危惧を内在させるほか、Kを対象とする実験には、左記の難点が指摘できる。

a 対照夜のデータ自体が不安定である。しかも、対照夜のデータを採る実験から開始しており、その後、騒音を曝露して行う実験までにかなりの実験を経験していて、実験への慣れが生じた可能性が高い。そして、非曝露時の睡眠脳波への影響が殆どみられないとしても、それは対照となる非曝露時のデータが不安定で、相対的に曝露時の脳波への影響が顕著に現われなかった可能性、及び実験への慣れにより騒音曝露時の脳波に、非曝露時と比較して悪影響を示す変化が顕著に現われなかった可能性が大きい。

b Kは、もともと鈴木の一連の研究グループの一員であり、それまでの研究を通じて、どのような仮説に基づいて研究が進められて来たかを熟知している立場にある。それだけに、意識的、無意識的を問わず、実験データが仮説に沿うような形で現われてくる可能性が強い。

c Kは、もともと睡眠のパターンが変則であり、ステージ4が全く現われず、ステージ3も殆どなく、その平均睡眠深度や勾配、切片が総てステージ2という、本来浅い睡眠に属する睡眠段階の増減によるのである。しかし、騒音による睡眠妨害の指標としては、深い睡眠であるステージ3、4に対する悪影響こそ重要であるところ、Kの脳波データでは、この点が調べられない。鈴木も証言中(当審)でこの問題点を認めている。

エ 鈴木は、何の根拠も示さないまま、あくまで仮説として、レム睡眠が減少しても、ステージ2というノンレム睡眠が増加したことで補っているとするが、これは跳ね返り睡眠を肯定する現在の一般的な考え方からは、特異な見解である。

オ 鈴木の一連の実験の結論は、総てレム睡眠の睡眠段階をステージ1と2の間と位置付け、レム睡眠に1.5という数値を代入したことを基礎としている。しかし、このようなレム睡眠の位置付けは、左記のようにこれまでの同種の研究の中では、極めて特異な考え方である。

a 従来の研究では、レム睡眠をステージ2か、それ以上の睡眠深度として位置付けており、又睡眠妨害の指標としても、レム睡眠の減少が重視されてきた。

b レム睡眠に1.5という数値を代入する合理的根拠がなく、コンセンサスも得られていないし、他の研究例では、レム睡眠とノンレム睡眠は全く質が違うということで、同じ数直線上の数値をあてはめて平均睡眠深度を出すというようなこともしていない。

カ 鈴木の一連の実験では、飲酒などの条件の把握、処理が不十分で、実験結果を一般化できないし、仮説に合わないデータを恣意的に排除しているのではないかと疑われる処理がなされている。

キ ティーセン実験(〈書証番号略〉)では、六〇デシベル(A)の自動車通過音(一時間にトラック約三〇〇〇台)を終夜連続曝露したところ、睡眠深度が増加したが、同時に目覚めの回数も一二%から三六%も増加しており、決して鈴木の実験と同一の結果になったのではない。その他、最近の外国の研究例も、鈴木の研究とは異なっており、騒音曝露による睡眠への悪影響を確認し、WHOの勧告値を妥当な値だとしている。

以上のように、鈴木の研究結果は、脳波解析の方法、被験者、レム睡眠の把握、その他に多くの問題が存し、内外のこれまでの研究からみても特異な見解に属し、採用すべきでない。

2  二酸化窒素の生体への影響

(一) 有害性

二酸化窒素は、呼吸刺激物質であって、それへの曝露により呼吸器系に対してさまざまな障害をもたらすことは、既に主張したところであり、その基本的影響像は、気道を刺激することによって起こる生理学的、生化学的変化、それらの結果から発生してくる形態学的変化であり、また、これらの変化に関連して発生すると考えられる感染的抵抗性の減弱も重要な影響像であって、これらのことは、疫学的知見及び動物実験的知見によって裏付けられている。殊に、後者の実験によると、二酸化窒素は、0.2ppm位から動物に様々な質の影響を与える可能性のあることを示しているが、それよりもさらに低い濃度で生理学的、生化学的及び形態学的変化がみられたとする報告さえあるほどである。

(二) 健康影響濃度

二酸化窒素の短期及び長期各曝露を通じて、維持されるべき健康影響濃度については、既に主張したところであるが、それらは、決して安全性が証明された数値ではない。さらに一段の有害性について、未知数の点があるものの、現段階の知見として、それら以上の濃度であれば、危険であることが証明されている数値として、位置付けるべきである。

なお、ここで右の「健康」に関する生理状態を強調しておく必要がある。この点について、二酸化窒素に係る判定条件等についての専門委員会は、大気汚染の影響度の観点から、①現在の医学、生物学的方法では、全く影響が観察されない段階、②医学、生物学的な影響は観察されるが、それは可逆的であって、生体の恒常性の範囲内にある段階、③観察された影響の可逆性が明らかでないか、あるいは生体の恒常性の保持の破綻、疾病への発展について明らかでない段階、④観察された影響が疾病との関連で解釈される段階、⑤疾病と診断される段階、⑥死、と以上のように概念的に分類し、③を健康な状態からの偏りと判断しているのであり、この見地からすると、それ以前の状態を「健康」の指標と措定すべきである。したがって、右③の段階に達すると、健康への侵害があるということになる。

(三) 原告らの症状との因果関係

原告らは、右の趣旨での健康の保持を前提として、各種の粘膜刺激症状を主張しているところ、被告らは、これを主観的な感じの域を出ない愁訴と評するのである。しかし、この粘膜刺激症状に代表される本件沿道住民の自覚症状の多発という客観的事実は、既に主張しているように、排ガスに含まれる汚染物質の性状と、それに対する生体反応についてのこれまでの医学研究の進展から得られた知見と合致しており、疑問の余地のないところである。

3  本件道路の排ガスと大気汚染との因果関係

幹線道路沿道の大気汚染が、それらの道路に集中する自動車の排ガスによるものであり、そのため沿道住民が、日夜多彩な健康・生活の危険に曝されて、急性または慢性的影響を受けていることは、疑問の余地がないところであり、今や関心方向は、動物実験を経て、排ガスに含まれている癌原性をもつ物質の癌を含む遅発的影響に向けられている次第である。

殊に、本件沿道は、これまで指摘した諸調査や研究の対象となった幹線道路を遙かに凌ぐ自動車の集中と、自動車排ガスの元凶であるディーゼルエンジン搭載の大型貨物自動車の混入率が格段に高いのであるから(さればこそ、幹線33の沿道の整備に関する法律に基づく第一号の沿道整備指定道路に指定されたのである。)、ここに集積する二酸化窒素を主体とする汚染物質の量も膨大で、多の幹線道路の比肩するところではなく、これまでの調査・研究で明らかにされたどの健康影響をも、被ることを免れえない状況である。しかも、それらの諸調査・研究等によれば、後背地に比して相対的に汚染の程度が酷い沿道から五〇mの範囲内の原告らの大気汚染による被害は、完全に立証されている。

四  違法性と瑕疵

我が国の巨大な道路投資による急激な道路拡張整備は、一〇次に及ぶ道路整備五か年計画により推進されてきたもので、自動車台数の急激な伸びとの相関関係は、なお続いており、しかも産業道路優先、幹線道路中心になされた道路建設の結果、昼夜にわたり自動車の走行量が増加するとともに、地域社会を分断し、沿道の騒音、振動、排ガス及び粉じんによる公害を激化させる原因になっている。かくして、第七次五か年計画(昭和四八年から同五二年)に至って、漸く交通安全対策とともに道路環境対策の充実が俎上にのぼることになった。しかし、道路公害に対する場当たり的な対策に終始し、抜本的な対策がなされないまま、道路公害をますます悪化させたのである。この点について、環境庁大気保全局に設置された窒素酸化物自動車排出総量抑制方策検討会は、平成二年一一月に提出した「中間とりまとめ」において、大都市地域を中心とした自動車排ガスの環境濃度の改善がはかばかしくなく、現行の対策のみでは将来にわたって環境基準の全般的な達成は困難な状況になっているとの認識に基づき、自動車交通の在り方にまで遡った施策の確立が必要であるとし、具体的施策としては、自動車の交通量自体の抑制を図るため、公共交通機関の整備等、自動車に過度に依存しない都市構造の構築、大都市集中を抑制する方策の推進が求められ、さらに利便性のみを追求したジャストインタイム方式の見直し等、物流構造についての検討が必要であると指摘している。このことは、政府部内においてさえも、自動車公害対策について、従来の対策を根本的に改める必要性を指摘したものとして注目に値し、同時に原告らの主張の正当性を裏付けるものである。

1  設置の瑕疵

(一) 計画交通量の見通しの誤り

被告国側では、本件国道の計画交通量を、昭和五〇年当時、一車線一〇〇〇台/時を予想して、当初一〇車線を設置したが、昭和五〇年度以降上下各一車線を削減したのであるから、残りの交通容量は一日当たり八万台になる筈であるのに、現実には増え続けた。殊に、前記のとおり一台で乗用車五台分に換算される大型車の混入率が、異常なまでに上昇したのであって、右により換算すると、さきにも触れたように本件道路の現実の交通量は、計画交通量を遙かに超えている。このことは当然予想されていたことであり、本来、公害対策として本件道路の設置に当たり、現状を予測し、本件国道を地下化し、本件県道をシェルターで覆うなど、技術的に可能な施策をすべきであった。これを要するに、大型車の増加対策を含めて、交通量の見通しの甘さを露呈するものである。

(二) 住居地内に五〇m道路を設置した誤り

本件国道は、戦災復興の区画整理を悪用して、住居地域に全国に例をみない幅員五〇mを、総て道路として貫通させた。道路環境対策として有効な環境施設帯については、「道路環境保全のための道路用地の取得及び管理に関する基準について」(昭和四九年四月一〇日付建設省都市局長、道路局長通達)に規定されているが、その要点は、良好な住居環境を保全する必要がある地域を通過する四車線以上の幹線道路については一〇mを、自動車専用道路については二〇mを、それぞれ道路端から道路用地として取得するというものである。ところで、本件国道の実情は、各種自転車が安心して走行できるような状態ではなく、自動車専用道路に近い使用状況であるから、もしも、本件国道の設置当時、このような道路環境の保全の観点に立った通達が出ていたならば、五〇m全部を道路として使用するというような、道路環境を全く無視した道路作りができなかったことは明白であり、欠陥道路という指摘は正鵠を射ているというべきである。

(三) 本件道路の二階建構造の誤り

本件県道は、その一部が本件国道の上を走るいわゆる二階建構造になるところ、このような構造にすると、当然騒音、排ガスなどが複合的になり、周辺住民に与える影響が大となることは、素人でも判ることである。だからこそ、本件県道の設置について、強い反対運動があったのに、複合的な公害発生の危険性について何らの検討もされず、ただ既存の本件国道の上に作れば、費用が節約できて便利であるとの理由で、建設が強行されたのである。

2  管理の瑕疵

本件道路の大型車を含む自動車の交通量が増加し、騒音、振動、排ガス等の公害が激化しているのに対し、被告らは、交通管理面の対策として少なくとも超大型車の通行規制をするとともに、通常の大型車についても夜間の通行を禁止するとか、走行車線を制限する等の措置をとることができたのに、何ら抜本的な対策を取らなかったため、被害を激化かつ拡大した。

3  まとめ

要するに、本件道路の設置に当って、環境アセスメントが実施されなかったのはもとより、発生する公害の的確な予想も行われず、その防止のための方策も殆ど考慮されていない。しかも、公害が年々激化し、沿道住民や関係の地方自治体から公害防止の強い要求が出されるに至っても、被告らは、何ら適切な防止手段を講じることなく、自動車交通量の増加に任せ、公害を野放しにして来たのであるから、本件侵害の違法性は極めて高いというべきである。

4  公共性について

被告らが、原告らに被害受忍を押しつける法理として主張する公益性は、要するに、僅かに認められる本件道路の社会的有用性と同義であり、本件道路の主たる機能は、通過交通としての物資輸送道路ないし産業道路であって、特定企業等の需要がある限り公共性があるというに尽きる。もとより有用性も公共性の一翼を担う要素であるが、それだけでは国民生活の維持存続に不可欠のものではないから、優先順位はそれほど高くないと解すべきである。厳密な意味における公共性とは、少なくともその施設の設置が、周辺住民の福祉に繋がるものでなくてはならない。この観点から本件の周辺地域住民が必要とする道路は、せいぜい上下二ないし四車線程度の規模で十分である。道路一般の有用性として被告らが主張するアクセス機能や都市空間としての役割等も、この程度の規模の道路によって充分賄うことができるのである。かりそめにも、厳密な或いは優先順位を主張できる公共性という限り、周辺住民の基本的人権、殊に生存権、生活権を侵害するものであってはならないという最低限の保証が内在的に要請される。したがって、被告らの主張する公共性は、右の要請を満たさないだけでなく、それを踏みにじるための論理に過ぎず、本件道路につき公共性を主張することは、失当というべきである。

5  受忍限度について

既に主張しているとおり、本件沿道における騒音、振動、排ガス等の曝露レベルは、人の健康に影響を及ぼす閾値を優に超えており、原告らが訴えている様々な健康被害が、これと相当因果関係を有することはいうまでもない。しかも、それらの公害による被害は、相互に影響し合い、相乗的に悪効果を拡大している。このため、病人、子供、老人等の身体的弱者に強い影響を及ぼすし、日頃は健康な成人に対しても精神的・心理的状態によっては堪え難い苦痛をもたらし、その連続が生理機能の変調、ひいては自律神経失調症、その他の健康被害を招く危険性を否定できないのである。このようにみてくると、仮に受忍限度の判断が必要であるとしても、その限度を遙かに超えることが明らかである。

五  差止請求

既に詳述したように、本件道路を走行する自動車によってもたらされる公害に曝されている沿道住民の長年にわたる被害は、極めて深刻である。これに対して、被告らは、被害の抜本的解消に繋がるような効果的な措置を、殆ど採っていない。このため、被害は、さらに深刻かつ拡大する傾向を示していることは明らかである。この事実だけからしても、原告らに対する救済は、損害賠償のみでは足りず、それらの公害のうち、少なくとも騒音と二酸化窒素を、原告らが請求している基準値以内に差止めることにより、抜本的に被害の救済を図ることが急務である。

なお、原告らが二酸化窒素を差止の対照としたのは、それが自動車排ガスの構成要素として、沿道の汚染状況の指標となること、二酸化窒素が既述のように単独でさえ人の健康に危険な役割を果たすところ、その健康影響濃度が明らかにされているからである。

しかも、後にも触れるように、右の基準値以内に差止める方途は、被告ら内部で各種の選択が可能であろうが、例えば、歩道側の車線を少なくとも上下各一車線削減して、自動車の交通量自体を減らすとともに、音源を原告ら居住の敷地から遠ざけることにより容易に達成することが可能である。

1  環境権

確かに、原判決が指摘するとおり、環境の保全は、第一次的には、「国民や住民の多数決原理による民主的な選択に基づく立法及びこれを前提とする行政の諸制度を通じ、総合的な視点に立って実現すべき」ものであることは明らかである。しかしながら、環境の破壊が地球規模で進行しつつあり、我が国においても大気汚染、水質汚濁、アスベスト、農薬、その他の多様な有害物質による被害等、深刻な環境の汚染、破壊が跡を絶たない現状に加えて、国や公共団体自身が環境破壊の推進者であることさえ少なくないという事実を踏まえると、環境の保全を立法及び行政のみに委ねることは到底許されない。

また、実定法上環境権が明定されていないことは事実であるが、公害防止、環境保全にかかわる諸立法、裁判例、学者の研究等により、汚染者負担の原則、無過失責任、差止請求の権利等の諸原則が確立されつつあり、、かつ、環境の破壊を示す諸指標や許容限度等についても、おおむね科学的知見が明らかにされている現段階では、裁判実務を通じて環境権の成立要件、内容、法律効果等を明確にしていくことは、法的安定を害することなく充分に可能であり、その実践に踏み切るべきである。

2  差止基準

この種の基準値として、公法上の基準を斟酌するとすれば規制基準値と環境基準値とが考えられるが、前者はいわゆる排出基準、即ち発生源側において外部に排出することが許容される基準であり(公害対策基本法一〇条)、当然のことながら公害の曝露を受ける側において現実に曝露されるレベルとは異なるのであるから、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準」(同法九条)である後者によるべきである。

(一) 騒音

右の見地から原告らが主張している騒音の差止基準値は、生活環境審議会公害部会騒音環境基準専門委員会が、睡眠の確保、騒音の生理的・心理的影響の防止、日常生活に対する妨害や住民の苦情の排除等の見地から、「維持することが望ましい騒音レベル」として示した夜間四〇ホン、朝夕四五ホン、昼間五〇ホン(環境基準の基礎指針値)の数値よりも相当抑えたものであるし、相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域のうち、二車線を超える車線を有する道路に面する地域の環境基準とされている数値とも合致した妥当な数値である。

(二) 二酸化窒素

同様にして原告らが主張している二酸化窒素の差止基準値は、中央公害対策審議会窒素酸化物等に係る環境委員会が提案し、その後、積み重ねられた知見により、それが人の健康への影響の出現する可能性を示す最低の濃度レベルであることが確認された次第である。したがって、この基準値は、人の健康を守るために維持されなければならないものであり、当初の環境基準値とも合致していた。ところが、被告国は、その後、右の環境基準値を不当に緩和したけれども、これによって差止基準を改める必要がないばかりか、その後の知見の積み重ねを前提とし、環境基準に安全係数を用いるとすれば、右の値より厳しいものとならなければならないのである。

(三) 請求の特定

本請求は、抽象的不作為請求であるところ、その特定としては、「してはならない作為」を特定することで充分である。この趣旨からすると、原告らの本差止請求が被告らの「してはならない作為」を一義的に特定していることは明らかで、批判されるいわれはない。これによって、既判力の客観的範囲等の判断に混乱を生ずる虞はないし、もとより審理の対象や範囲が不明確になることもないから、民訴法上これを適法としても、被告らの防御権の行使に不都合を生ずることもない。

さらに、実質的な観点からいうと、本訴のごとく基準値を超える騒音と二酸化窒素の差止を求める請求にあっては、原告らは、侵害行為がなくなるという結果にこそ利害関係を有しているが、それをなくする方法・手段には関心がない。つまり、そのための方法・手段は、被告らが多様な方法・手段の中から自由に選択すればよいのである。そうであるから、防止措置の内容を特定して作為を求める差止請求は、原告らに過ぎたる権利の行使を容認する結果となり、むしろ過大請求の誹りを免れないであろう。

また、別の観点から原告らに、差止を求める侵害行為を防止するための具体的措置を特定明示する義務があるとすれば、原告らに過大な負担を強いる結果にもなる。何故なら、原告らは、「被告の支配領域内の発生源に踏み込んで詳細な技術的検討をしなければならず、かつ、被害防止ないし軽減の方法は、複数の措置の総合的な組合せによるのが有効である場合が多いだけに、具体的措置の明示は困難」だからである。

(四) 被告適格

本請求は、特定の行政庁に対して、特定の行政行為を求めるものではなく、不作為を求める私法上の請求であるから、被告らを相手方とすべきは当然である。ただ、被告らとして、本件侵害行為を防止するために、特定の行政庁の行政行為を必要としたとしても、それは、被告らが差止義務を履行する上での内部行為にしか過ぎず、原告らとの関係で侵害行為が公権力の行使ないし不行使と目されるいわれはない。

六  損害賠償請求

1  公共性との関係

本件道路の公共性の位置付けについては、前述したとおりであるうえ、採りうべき抜本的被害防止策を採らないまま、被害を発生させている以上、被告らは、いずれにしても損害賠償責任を免れることができない。

仮に、被告らが主張するように本件道路の公共性が高く、多数の国民の生活や福祉に不可欠というのであれば、本来、周辺住民に被害を及ぼさないように、公害対策に万全を期すべきである。しかし、それができないために生ずる損害は、受益者である国民全体で負担するというのが、公平の原則に合致するとともに、国民の常識にもかなうものであって、少なくとも原告らに皺寄せされ、その損害賠償が否定ないし減額されることがあってはならない。

2  一律請求

原告らが被っている被害は、共通の公害に基づき、原告らの日常生活、家庭生活、社会経済生活のあらゆる面に及び、それらの被害が複雑かつ相互に絡まり、被害を相乗的、累積的に拡大・深刻化して、原告らの人間らしい生活を奪い、その人生を破壊するなど、全生活的、全人格的なものであって、基本的には同質且つ同程度の非財産的損害として把握されるべきものである。

そこで、原告らは、各自の受けた具体的被害のうち、原告ら全員が被っている右の非財産的損害、つまり精神的苦痛の一部に対する慰謝料として、一律に、しかも極めて控え目に定額を請求しているのであるが、原判決の認容額は不当に低額である。

殊に、前述のように家屋に防音工事がなされたことを理由に、騒音による被害を低く評価するのは、被害の実情を無視し、同工事の効果を過大評価する誤りを犯しているものというべく、仮に減額するとしても、一ないし二割にとどめるべきである。

3  後住原告の請求の正当性等

まず、「先住性の理論」を本件に適用することの誤りについては、既に主張したところである。しかし、仮に、同理論の適用を認める場面があるとしても、本訴提起の日である昭和五一年八月三〇日を、その基準日とすべきである。なお、次の原告三名について、同理論を適用することは、明らかに誤っている。

(一) 9藤川美代子

同原告は、昭和二二年四月に出生したときから、現住所の親の家に住んでいたのであるが、昭和四三年に藤川勲と婚姻し、右住所から南約一〇m離れた同じ沿道の魚崎南町四丁目一〇番八号(昭和四五年六月一日の住居表示変更前の魚崎町魚崎五〇七)のアパートに転居した。そして、昭和四六年七月に夫婦で右親の家に戻ったのであるから、後住原告ではない。

(二) 33杉浦昭弘

同原告は、昭和二〇年御影本町四丁目三号に居住していた。被告らは、住民票に昭和四七年一二月二〇日神戸市須磨区に住所を定めた旨の記載後、翌四八年三月一四日の御影本町への住居変更の記載があるのを捉えて、この日を居住開始日と主張するのであるが、右の転居というのは、勤務先の寮が須磨にあり、その寮生の面倒をみるため三か月足らずの間、単身須磨に移ったというだけのことであるから、後住原告というのは当たらない。

(三) 68瀧上六義

同原告は、昭和二三年七月一七日西宮市荒井戎町五四番地で出生し、同所に居住していた。ところが、本件国道が建設されて、荒井戎町が南北に分断され、同原告の居住地域は市庭町に組み入れられた。その後、本件県道が建設されることとなり、夙川ランプウエイ建設のため、同原告の住居は立ち退きとなり、昭和四五年三月一一日に現住居に転居したという経過であって、後住原告と言うのは当たらない。

4  損益相殺

公害病認定患者である原告青木真治郎ら一〇名が、仮に公害健康被害補償法所定の障害補償費の給付を受けているとしても、それは財産上の損害の填補としてである。ところが、本訴の各金員請求は、精神上の損害の顛補を目的とする慰謝料請求であるから、相互に補う関係にないのであるから、損益相殺をすることは許されない。

七  結論

よって、原告らは、控訴(附帯控訴を含む。)の趣旨とおりの判決を求める。

第二 被告らの主張

一  侵害状況、被害及び因果関係について

1  騒音

(一) 本件道路端における騒音の実情

道路交通騒音は、自動車その他の車両が道路を走行することにより、道路及びその周辺に発生する騒音である。そのうち自動車音の主な構成要素は、エンジン音、排気音、タイヤ音である。

ところで、道路騒音の実情を明らかにする資料の観点からして、人間の感覚は、正確なようで実際は非常に曖昧であり、しかも人により受け取り方が多種多様であって、客観性に乏しいから、人間の耳の聴感に類似しているとされる騒音計の測定値によるほかない。

また、住民への被害の実情を把握するためには、車道端の騒音レベルではなく、主として、住民が生活の本拠としている住所のそれでなくてはならない。この観点から、原判決添付別紙Cないし(全国道路騒音レベル上位測定点等の昭和五五ないし五八年度測定値)に示されている環境庁の騒音測定地点は、実際に住居等がある場所であって、沿道住民が現実に曝露されている騒音レベルを測定しているのである。したがって、同様の条件下で沿道住民が現実に曝露されている騒音として、原判決添付別紙Cないし(本件各市の道路端における騒音の昭和五五ないし五八年度値)とCないしとを比較することに、何ら問題はない。

(1) 実測値

本件各市内の本件道路端における騒音レベルは、原判決理由第四、二、2(一六八丁表六行目から一七〇丁表三行目)に認定のとおりである。また、当審の騒音鑑定の結果によると、同じく本件各市内の本件道路端の騒音レベルのL50の平均値は、朝七三ホン(A)、昼間七三ホン(A)、夜間六七ホン(A)である。

なお、本件各市の測定地点について、昭和四七、四八年以降六三年までの騒音レベルの経年変化によると、原告らの主張と裏腹に殆ど変化がないのである。それにもかかわらず、防音工事が進められたのであるから、原告らが実際に曝露されている騒音は、減少していることになる。

(2) 全国の他の道路端との比較

昭和五八年までの資料にも基づいて、本件道路が全国の他の道路端の騒音値と比較しても、極端に高いものといえないことは、既に明らかにしたが、その後の資料によっても、全国ではなお多くの道路端で、本件道路騒音を超える騒音レベルにあることが判る。

また、昭和六〇ないし六三年の騒音の環境基準及び要請限度の達成状況をみると、まず平成元年の環境基準の達成度は、四つの時間帯(朝、昼間、夕、夜間)のいずれかが達成している割合は34.4%、その総てが超過している割合は51.1%であり、要請限度の超過度は、四つの時間帯のいずれかが超過している割合は24.9%、その総てが超過している割合は3.1%であって、いずれにしても本件道路端の騒音は、他に比して格段に高いわけでは決してないといえる。

(3) 室内騒音の重要性

さきにも触れたように、本件道路騒音による被害の有無ないし受忍限度を論ずるうえで重要性をもつのは、原告らが居住している居室内の騒音レベルである。現代社会において、好むと好まざるとにかかわらず、ある程度の騒音は不可避である。殊に、都市部における戸外での騒音は、会話妨害を典型として、日常生活のごく限られた時間的、空間的側面であることからしても、相当程度のものまでは受忍すべきものと考えられる。都市生活者にとって、できうる限り静かな環境の中で生活するという利益は、基本的には睡眠等を含めて大部分を過ごす室内における生活について、検討されるべきである。

(4) 騒音曝露条件の多様性と曝露量の個別性

本件道路を走行する自動車による騒音は、既に詳細に主張しているように、道路構造や交通量、さらに環境対策の違い等によって各地点で相当異なる。殊に、室内騒音は、道路からの距離、居住建物の敷地と建物の配置の関係、介在物の存否等の複雑に組み合わされた要因により多様性を帯びて、曝露量も異なる。それに、原告らの生活実態が個別的であるのに応じて、騒音曝露の条件や曝露量も個別的である。

(二) 原告らに対する騒音曝露の実情

以上の観点からすれば、原告らの騒音被害の把握は、各自の室内を中心として、個別かつ具体的にすることが不可欠である。当審で実施された騒音鑑定は、本来そのような問題意識に基づくものであったが、その点の立証責任を負う原告らの協力が得られないまま、室内の騒音レベルを測定できたのは四七戸であり、しかも測定時間は各二時間にとどまるものであった。そこでまず、これらの鑑定結果から千差万別の鑑定対象外の原告らの室内騒音レベルを推定することはできないのであり、被害の立証がないことに帰する。ただ、鑑定結果の数値と各種の騒音レベルの変化をもたらす重要な要因を通じて類型化することにより、鑑定対象外の原告ら宅の室内騒音レベルのおおまかな傾向は把握できないことはないが、その場合でも控え目の原則に従い、鑑定結果から判断できる最小値、或いはそれに近い値を採用するほかないのである。それにしても、そのようにして得られた数値も、憶測の域を出るものでないことに変わりがないから、鑑定対象外原告ら宅の室内騒音レベルは、所詮確定できないことに帰する。そこで、以下では右の鑑定結果に基づき、夜間の騒音レベルに触れることにする。

(1) 夜間における屋外騒音レベル

鑑定結果によると、夜間の屋外騒音レベルは、L50で最大七三デシベル(A)、最小五三デシベル(A)となっている。しかし、屋外騒音レベルは、各種の要因により差があるので、それらの要因により類型化すると、別紙Cのとおりとなる。これによると、最も高い騒音レベルを示す類型化群は、標準部の道路沿道の原告ら宅であり、L50では六八デシベル(A)、Leqでは七二デシベル(A)を示しており、他方、最も低い騒音レベルを示す類型化群は、ランプ部の二列目以降で本件国道を見通せない原告ら宅であって、L50では五五デシベル(A)、Leqでは五七デシベル(A)を示している。なお、騒音レベルは、交通量によってもある程度相違するところ、それを考慮した分類によると、交通量の多い深江交差点から西宮インターチェンジまでの区間で騒音レベルが高い傾向にあることが窺われる。

(2) 夜間における室内騒音レベル

鑑定結果から調べた建物自体による騒音の減衰状況によると、窓開時の屋外と室内の騒音レベル差の平均値は一〇ないし一二ホン(A)で、防音工事の有無、建物構造は余り影響していない。それよりも、部屋が奥側にある場合の方が大きく減衰している。また、窓閉時では防音工事の有無の影響が大きく、木造住宅で同工事ありの場合が平均値で二九ホン(A)、なしで部屋が前面にある場合に二三ホン(A)、奥側の場合で三〇ホン(A)となっており、防音工事の効果は六ホンとなっている(もっとも、防音工事の効果は、一般に八ホンとされており、これが正しい。)。そして、鉄筋コンクリート住宅の場合では、屋外と室内の騒音レベルの差は、平均値で三二ホン(A)である。

次に、具体的な夜間の室内騒音レベルをみると、窓閉時では最大で四三デシベル(A)、平均で三五デシベル(A)となっていて、大半が環境基準を下回っており、三五デシベル(A)を下回る原告らも多数いるのである。これを防音工事実施の有無で区別すると、防音工事が実施されている家屋では平均値で三六デシベル(A)、未実施では平均値が三四デシベル(A)である。

さらに細かく分類した結果の数値を総合していえることは、要するに平均値でみた室内騒音レベルは、窓開時で四一ないし五四デシベル(A)、窓閉時で三一ないし三七デシベル(A)であり、道路交通量で分類した結果でも夜間の窓開時では四〇デシベル(A)を下回っており、原告らが主張するような睡眠妨害が生ずるとは考え難いものであることが明らかである。

しかも、原告らの夜間室内騒音レベル(Leq)は、他の地域に居住する者の睡眠時の平均的騒音レベルに比べても、同程度ないしそれ以下であることが銘記されなければならない。

(三) 本件道路騒音の睡眠への影響

これまで述べたところで、原告らに対し、本件道路を走行する自動車の騒音による睡眠妨害のないことは明らかであるが、なお、科学的知見の側面から睡眠妨害のないことを考察することも重要である。というのも、原告らがいくら主観的睡眠感の悪化を訴えても、客観的に確認し難い性質のものであるだけに、睡眠妨害の有無、程度の判断の指標として、本件道路騒音が一般的にどの程度の影響を与えるものかという観点からの考察が不可欠だからである。

そこでまず方法論的な前提として、一般的にいかなる騒音レベルであれば、睡眠妨害が生ずるのかということが明確にされなければならないところ、この点の原判決の説示は明確でない。しかし、少なくとも各種勧告の推奨値の騒音レベルをもって、睡眠妨害が生ずる最小値と考えるべきではない。何故なら、推奨値の騒音レベルは、健全な環境の質を維持し、改善するための行政上の長期的な努力目標(環境基準値)、或いは人間の純粋な生物学的影響から考えて、全く影響の考えられないレベル(EPA)だからである。しかも、これらの数値は、現在の水準からすると、信頼性に問題があるばかりでなく、少なくとも現実の生活の場における睡眠妨害との間の因果関係を是認できる限界値とみることはできないからである。

次に、睡眠妨害の有無を判断するに当って重要なのは、夜間における開口部閉鎖時の室内騒音レベルである。何故なら、さきにも触れたように我が国においては夜間、窓等を閉めて就寝するのが通常だからであり、この状態で睡眠妨害がなければ、基本的に睡眠妨害はないものといって差し支えないからである。それでも、窓を開けた状態では睡眠妨害があるというのであれば、わざわざそのような状態で睡眠することによる被害が、果たして受忍限度を超えるといえるのか、或いはそもそも賠償を求めうるほどの損害といえるのかが、問われるべきである。右の観点からすると、さきにみた当審の鑑定対象原告らの夜間室内騒音レベルは、L50でおおむね三〇ホン台であり、最高でも四〇ホンをやや超える程度に過ぎないし、いずれもさきにみた他地域の睡眠時の平均騒音レベル以下である。

(1) 鈴木庄亮らの研究

騒音の睡眠に及ぼす影響に関する研究は、まだ諸についたばかりで、未だ定説というべきものは存在しない。鈴木らの従来の研究も、意識調査的なものにとどまったが、最近では睡眠脳波研究等により、各種の睡眠指標を検討して、騒音による睡眠への影響の有無、程度、或いはその実態を精密かつ客観的に明らかにしており、この分野では最新のものであって、信頼に値する。それによると、Leq五九デシベル(A)程度の道路騒音であっても、格別の睡眠妨害を生じないか、仮に生じたとしても相当軽微なものである。したがって、真に睡眠妨害といえるような睡眠影響の閾値は、この付近にある可能性の高いことが認められる。そうだとすれば、さきに指摘した原告らの室内騒音レベルでは、いずれも睡眠妨害が生じるとは到底考えられないところである。

(2) その他の国内の研究

鈴木ら以外の我が国で行われた騒音の睡眠影響に関する研究は、いずれもそれなりの意義を有するが、現在の研究水準からみると、方法に疑問があるなどの問題点があるといわざるを得ず、鈴木らの研究に比し、信頼性において劣るものであることは明らかである。

(3) 国外の研究

また、国外における研究についてみても、大部分の結果は鈴木研究のそれと一致し、その正しさを裏付けこそすれ、矛盾するものではない。

ただ、J・L・エバーハートらは、「睡眠に対する連続及び間歇的交通騒音の影響」という実験結果において、Leq四五デシベル(A)程度をもって睡眠妨害が生じるとし、Leq三五デシベル(A)を超えてはならないというWHOの推奨値と一致すると結論付けており、同実験の結果及び他の実験結果から、ピークレベルで最大四〇デシベル(A)を超える騒音は避けられなければならないとしている。しかし、同人らの実験等には、次のような問題点が指摘できる。

ア まず、その実験では、I四五(背景騒音二七デシベル(A)で、最大騒音四五デシベル(A)、Leq二九デシベル(A)のトラック通過音を四ないし一八分間隔で不規則に曝露したもの)の条件下で、深睡眠の減少を認めているが、I五五(背景騒音二七デシベル(A)で、最大騒音五五デシベル(A)、Leq三六デシベル(A)のトラック通過音を四ないし一八分間隔で不規則に曝露したもの)の条件下では、逆に深睡眠は減少していない。このように、騒音レベルと深睡眠の減少に量―影響関係がみられず、跛行的な結果を生じていることは、I四五における深睡眠の減少が騒音以外の何か別の要因で生じた疑いを抱かせるものであり、少なくともさらに検討を要するものである。もともと、深睡眠の減少は、それほど感度の良い睡眠指標ではないから、I四五での深睡眠の減少については、さらに慎重な検討が必要であるといわざるを得ず、その睡眠への悪影響についても疑問があるというべきである。

イ 次に、実際の道路交通騒音に近いC四五(連続交通騒音四三ないし四七デシベル(A)、Leq三六デシベル(A)の連続交通騒音)の条件下で、レム睡眠の減少が認められているが、この現象が睡眠の質にどのような影響をもたらすかは難しい問題であり、一応は悪影響と考えるとしても、その他の客観的睡眠指標と総合的に検討しなければならないところ、深睡眠の減少が認められていないことは、その悪影響がさほどのものでないことを示唆しているといえよう。

ウ 主観的睡眠感については、C四五及びI五五の条件下で悪化を認めているが、間欠音であるI四五や、より刺激的な騒音であるC四五とI五五では悪化を認めていないことからすると、右の主観的睡眠感の悪化という結果を過大に評価すべきでない。加えて、主観的睡眠感自体のもつ曖昧さをも考えると、レム睡眠の減少と主観的睡眠感の悪化との間に何らかの因果関係を想定することには疑問がある。

エ 要するに、本実験は、睡眠指標の一つにでも変化があれば、直ちに睡眠に悪影響ありとする従来の立場から脱し切れておらず、望ましいレベルを設定するという公衆衛生学的な見地からは評価しうるとしても、さきの結論は極端に過ぎるというべきである。

(四) 本件道路騒音と睡眠妨害との因果関係の不存在

これまでの被告らの論証を総合すると、防音工事実施の前後を通じて本件道路の騒音により、原告らに睡眠妨害が生じる余地のなかったことが明白である。

(五) 騒音の精神的影響

原告らの主張する精神的影響の多くは、一般的に不定愁訴といわれているものであるが、騒音以外の原因によるものが多い。したがって、不定愁訴を短絡的に本件道路騒音によるものと考えるのは相当でない。しかも、仮に騒音による精神的影響を肯定するとしても、その程度は千差万別であるし、極めて主観的、個別的な性格の強いものであるだけに、その裏付けも主観的な方法に依存せざるをえない面があるものの、その信用性の判断は、特に慎重でなければならない。その点、原判決がアンケート調査の結果を無批判に採用して、事を肯定しているのは不当である。しかも、本件道路の騒音程度では、原告らが主張するような精神的影響が生ずるという確実な知見はないものというほかないのである。

(六) 会話等の聴取妨害

原判決は、原告らの中に、その時間帯や居宅の条件いかんでは、本件道路騒音によって、会話等の聴取に支障を生ずる者があるという、極めて漠然とした認定をして、一部の原告らにつき被害発生の事実を認めている。しかし、原判決が会話等の聴取妨害をどのようなものと捉え、どのような基準によりその有無を判断しているのか、必ずしも明らかでない。

この点については、環境基準の設定資料、日常生活の騒音とか、六五ホン程度の新幹線の車内で十分会話が可能であることなどに照らし、対話者間の距離が一mで、普通の大きさの声であれば、騒音レベルが六五デシベル(A)程度であっても、十分に会話は可能であるから、これを上廻る値をもって真に損害賠償の基準となるべき会話等の聴取妨害を生じうる騒音レベルとすべきである。そうだとすれば、原告ら宅の室内騒音レベルは、夜間の窓閉時で最大四三デシベル(A)、平均で三五デシベル(A)に過ぎず、昼間の窓閉時でも最大四九デシベル(A)、平均で四一デシベル(A)にとどまるから、結局のところ会話等の聴取妨害が生じることはない。

(七) 環境基準と要請限度

環境基準と要請限度の意義については、既に明らかにしてあるが、補足すると、日常生活の場における騒音は、人の健康に影響を与える以前の段階で生活妨害が生じることから、騒音環境基準は、音によって日常生活に支障をきたさないことを基本として設定されたのである。このように騒音環境基準の達成・維持は、聴力損失など、人の健康にかかる器質的及び機能的な病理的変化の発生を防止するだけでなく、音による妨害、支障を防止できる望ましい日常生活の確保につながるのであり、終局的な行政上の目標なのである。そのことは、測定結果の評価に中央値を採用し、その低下により個々人が曝露されている騒音レベルを低下させようとしていることに反映している。原告らは、自動車騒音の評価方法には九〇パーセントレンジの上端値を指針とすべきであると主張するが、地域の環境騒音を全体として低減させることを目的とする環境基準には、右の趣旨からも中央値が最適の評価方法である。騒音規制法で、騒音計の指示値が不規則かつ大幅に変動する場合等に、九〇パーセントレンジの上端値を採ることとされたのは、同法が直接個別発生源の規制を目的としているためである。

次に、要請限度は、私的利益と公共的利益との調整、道路交通騒音対策の実行可能性、その他関連する諸事情を検討し、現実的基盤を踏まえて設定されたものであって、道路周辺地域のあるべき環境基準を指向しつつ、しかも環境基準が定める総合的施設を推進する一つの契機となる働きをするのである。

したがって、要請限度が著しく環境基準とかけ離れており、実質上これを骨抜きにするものである、との原告らの主張が当たらないことはもとよりであるし、要請限度の数値を引き合いに出して、これを上回る騒音があるならば、当該道路周辺の地域住民が、一般的に健康被害や環境被害を受けていると推認したり、さらには具体的個別的に、それらの者総てが一律に右の被害を被っているなどと推断することは、到底許されないものというべきである。

2  排ガス

本件道路を中心とする大気汚染は、著しい都市化現象に伴う都市型、生活型複合大気汚染といわれるものに属し、汚染物質の排出過程が生産過程のみならず、消費活動、文化活動等の社会生活のあらゆる分野にわたっていること、そのため、多種多様な排出源が極めて広範囲に存在すること、しかも、個々の排出源からの多様な排出物自体は、社会的に問題視されるほどの量ではないにしても、それらの複合的、広域的な全体としての大気汚染が問題とされること、したがって、汚染及び被害発生に至る過程が複雑であり、そのメカニズムが十分に解明されていないことに特質がある。このような現象の要因は、帰するところ近代文明のもたらすもろもろの利便を享受する生活そのものにあるといって過言ではない。それだけに本件道路を走行する自動車の排ガスと原告らの主張する健康被害とか、原判決が認めた精神的被害との因果関係の有無を検討するについては、右の特質を十分考慮しなければならない。

(一) 原告らの被害の実体

原告らは、本件道路を走行する排ガスに依る被害として、持続性せき・たん、気管支炎、喘息等の呼吸器系の症状、そして目、鼻、咽喉等の炎症性の症状及び易感冒の主張をするが、原告ら自身の陳述書とか、一部の原告ら本人の供述以外に客観性のある証拠は提出されていない。このことは、被害の不存在を裏付けるとさえいえるのであって、必要にして十分な立証を尽くさないことの不利益は、原告らにおいて甘受すべきは当然である。

仮に、一部の原告らにつき、いうところの被害が存在するとしても、それらはいずれも気管支炎等の呼吸器系の疾病とか、その前駆症状である。これらの疾病やその前駆症状に対する大気汚染物質の影響を考える場合、その影響の度合いには、種々の段階があることに注意する必要がある。一般に刺激物質等の外因性因子(異物)が呼吸器系に入り込んだ場合には、生体の防御作用が働き、生体機能を維持しようとする。せきやたんは、その種の防御作用であるから、これをもって直ちに健康障害があるということにはならない。要するに、原告らが主張する被害は、その殆どが生体の防御作用として疾病の前駆症状にとどまる。仮に、疾病の段階に至ったものがあるとしても、気管支炎のように短時間のうちに可逆的な変化が生じるに過ぎないものである。しかも、それらの生理的変化は、社会において通常どこにでも見られる現象であり、気候、体調、生活様式、年齢、既往歴、食生活、精神的状況、アレルギー等の遺伝的素因など、様々な原因により引き起こされる非特異的なものであって、前記都市型・生活型複合大気汚染に起因するとさえ、断定できないのである。

ところで、原判決は、本件道路を走行する自動車の排ガス中の粉じんによって洗濯物などが汚れたとして、それによる不快感等の精神的被害を肯定する。しかし、洗濯物の汚れがあったとしても、粉じんによるのかどうか、仮に粉じんが寄与しているとしても、本件道路を走行する自動車によるのかどうかさえ明らかでない。さらにまた、関連性を肯定するとしても、本件道路の公共性等に鑑みると、洗濯物の汚れを中心とする排ガスによる不快感は、後述するところからも明らかなように受忍限度の範囲内というべきである。

(二) 大気汚染物質の有害性

自動車排ガスの健康への影響を考えるとき、問題とすべきは二酸化窒素であり、これに付け加えるとしても浮遊粒子状物質のみである。

(1) 窒素酸化物

窒素酸化物は、生物界における窒素の循環サイクルの重要な一環をなす一方で、人間の生産活動に伴って人為的にも生成されており、工場等の固定発生源及び自動車等の移動発生源から排出されるほか、一般家庭内の厨房施設や暖房器具、或いは喫煙等からも相当な量が発生している。そして、生理学的液体に溶解性の低い二酸化窒素は、全気道に影響を及ぼし、さらに深部気道に進入し、細気管支や肺胞領域に影響を与えることが、形態学的研究からも示されている。二酸化窒素は、細胞膜の不飽和脂質を急速に酸化して過酸化脂質を形成するが、他方では、ゆっくり加水分解して亜硫酸や硝酸を生成し、気道系から吸収される。二酸化窒素曝露により肺の形態学変化が引き起こされる基本機構として、過酸化脂質の形成による細胞膜の障害が考えられているのである。

(2) 浮遊粒子状物質

浮遊粉じんとは、大気中に浮遊している総ての粒状の物質の総称であって、粒径一〇ミクロン以下のものを浮遊粒子状物質という。この物質は、粒径によって空気中の滞留時間が異なり、一〇ミクロン以上のものは速やかに、一〇ミクロン未満から一ミクロン以上のものは空気の動きとは異なる動きをする程度で沈隆するが、一ミクロン未満のものは沈隆速度が非常に小さく、空気の動きに従って移動すると考えられている。他方、一〇ミクロン以上のものは鼻孔及び咽喉頭で殆ど補捉されるが、五ミクロン未満までは九〇%が気道及び肺胞に沈着し、それ未満では0.5ミクロンで二五ないし三〇%の沈着率を示す。これより小さい粒子の沈着率は、再び増加する。そして、浮遊粒子状物質又は浮遊粉じんの環境大気中のバックグラウンド濃度は、0.02ないし0.03mg/m3程度で分布している。

ところで、この物質の発生源も多様であって、化石燃料、廃棄物の燃焼過程及び生産過程、堆積場、コンベア、篩い等、自動車の走行、風による土壌粒子の舞い上がり等の自然環境、硫黄酸化物や窒素酸化物などのガス状物質が大気中で他の物質と反応して生成する場合もある。

これが人体に与える影響は、その物理的ないし化学的性状に依存しているところ、影響の機構の分類としては、ガス状物質と基本的に類似しているといわれているものの、なお不明な点が多い。

都市型・生活型大気複合汚染の人体に対する影響を考える場合、個々的な検討のみならず、原告らも強調する各物質が混合した状態、共存による相加・相乗作用についても考えなければならないことは確かである。もっとも、この点については未だ不明な点が多いものの、一般的に動物実験等の結果から、複数汚染物質の作用は必ずしも相乗するとはいえないが、環境濃度に比べて高濃度の条件下だと、相加作用はあるものと考えられている。したがって、本件のように環境濃度程度では、相加作用により人の健康に悪影響を及ぼすことはないのである。

ただ、いわゆる六一年報告では、主要大気汚染物質と生体への影響の関係に様々な知見が列挙されており、その中には従来行われたことのない低濃度曝露でも、呼吸器に変化を起こさせる等の知見も含まれており、注目すべきであるとされているけれども、未だ確立されたものとはいえない。

3  大気汚染疫学調査の限界

いわゆる四日市判決以後、環境汚染状況及び社会経済情勢の変化や医学的知見の進歩等を背景に、疫学的因果関係に対する考え方が見直されるようになり、昭和五一年に東京で開かれたWHO窒素酸化物にかかる環境保健クライテリア専門委員会、五二年から五三年にかけて開かれた二酸化窒素にかかる判定条件等専門委員会の各検討結果、さらには同専門委員会後の研究を通じて、疫学は国際的な研究動機も受けて、飛躍的に進歩を遂げ、漸くその研究方法における限界が十分認識されるようになった。かくして、被告らがこれまでに述べてきた疫学の方法論の限界、特に大気汚染疫学による因果関係究明の限界は、まさに右疫学研究の進歩により到達した成果であるということができる。

4  最新の知見からみた新環境基準の安全性

我が国の環境基準は、あくまでも将来に向かっての行政上の政策目標、努力目標としての性格をもつものであり、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」として定められたものである。その指針を導き出すに当たっても、単一の知見に基づいて導き出されたのではなく、当時明らかにされていた総ての知見によって解明された部分を明確にし、さらになお残された不確定要素をも考慮した上、人の健康を保護するという観点に立って安全側に寄った考え方を基本に、各知見に医学的考慮を加え、総合判断をして導き出したものであり、大気汚染の程度が当該基準値を超えたからといって、直ちに人の健康に影響が現われるというものではないのである。しかも、現在の最新の知見によって、その安全性はますます確信させられるに至っている。

なお、二酸化窒素濃度が環境基準をどれほど上回れば、人の健康に悪影響を及ぼすかを確定することは、現在の科学的知見をもってしては不可能であるが、二酸化窒素に関する諸外国の環境基準、厨房器具及び暖房器具のために室内においては相当高濃度の二酸化窒素濃度を示すことを明らかにした室内汚染及び個人曝露濃度の研究成果並びにガスストーブ研究の成果を併せ考えると、人の健康に悪影響を及ぼす濃度は、少なくともカナダが定めている受容水準や米国の現在の環境基準である年平均値0.05ppm(日平均値0.1ppm)以上に求められるべきであって、原告らのこの点の主張は失当である。

5  本件沿道の二酸化窒素濃度とその安全性

(一) 排ガス測定局の昭和五八、五九年ころからの測定数値

(1) 神戸市東部

一日平均値の年間九八%値についてみると、昭和六二、六三年は0.06ppmを超えているが、五九ないし六一年度は、六〇年度の0.054ppmをはじめ、いずれも0.06ppm以下で、新環境基準を達成している。

一日平均値の年間九八%値が0.07ppmを超えたのは、六二年度のみで、他の年度はいずれも新環境基準を達成している。

次に、九八%値評価による一日平均値が0.06ppmを超えた日数は、五〇年度には五一日(15.8%)であったのに比べて、五四年以降では六二年度のみ四%台で、その余は〇ないし二%台と大きく減少しているのである。

(2) 芦屋市打出

一日平均値の年間九八%値は、昭和五〇年度以降いずれも0.06ppmを超えているが、最高でも六二年の0.081ppmであり、他の年度はいずれも0.06ないし0.07ppm台である。

九八%値評価による一日平均値が0.06ppmを超えた日数の割合は、最近では六二年度以外は一〇%に満たない。

(3) 西宮市津門川

一日平均値の年間九八%値は、昭和六一年度のみ新環境基準を達成しており、他の年度はいずれも0.06ppmを超えている。

九八%値評価による一日平均値が0.06ppmを超えた日数の割合は、四九年度(18.3%)、六一年度(〇%)以外はいずれも一〇%に満たない。

(4) 西宮市甲子園

昭和五七年度から測定が行われているところ、一日平均値の年間九八%値は、五九、六〇年度に新環境基準を達成しており、他の年度はいずれも0.06ppmを少し超えている。

九八%値評価による一日平均値が0.06ppmを超えた日数の割合は、最も多い六三年度で僅か九日(2.5%)に過ぎない。

(5) 尼崎市武庫川

一日平均値の年間九八%値は、昭和六二、六三年度0.067%で、他の年度は0.06ppm台未満である。

九八%値評価による一日平均値が0.06ppmを超えた日数の割合は、六二年度で一二日(3.4%)、六三年度で一三日(3.6%)であった。

(二) 一般局の前同測定値

一般局五局のうち、九八%値評価による一日平均値が0.06ppmを超えた日数の割合は、芦屋市役所で昭和五八年度三日(0.8%)、尼崎市城内高校で六二年度で一日(0.3%)であるほか、いずれも新環境基準を達成している。

(三) まとめ

このようにみてくると、本件沿道における二酸化窒素濃度は、ほぼ新環境基準を達成していることが明らかであるうえ、この濃度は、他の大都市地域においてはもちろんのこと、全国的にみても多数存在する程度の濃度であって、原告らが主張するような特異な汚染実態は存在しないのである。

6  本件沿道の浮遊粒子状物質濃度とその安全性

(一) 排ガス測定局の測定数値

本件沿道の同測定局では、従来、浮遊粒子状物質の測定を実施していなかったが、昭和六二年から西宮市甲子園、また、六三年から芦屋市打出の各測定局が測定を始めた。

(1) 西宮市甲子園

昭和六二年及び六三年度における一日平均値の二%除外値は、0.120mg及び0.136mgであり、環境基準の長期的評価による一日平均値が0.1mgを超えた日数は、六二年度一八日(5.2%)、六三年度一九日(5.2%)に過ぎない。

(2) 芦屋市打出

昭和六三年における一日平均値の二%除外値は、0.128mgであり、環境基準の長期的評価による一日平均値が0.1mgを超えた日数は、二九日(8.2%)に過ぎない。

(二) 一般局の測定数値

(1) 神戸市深江

一日平均値の二%除外値は、昭和五二年度の0.120mgをピークに減少し、五五年度以降いずれの年も0.1mgを下回っているのであって、五七年以降は、環境基準を達成した年度が増加しており、達成されていない年でも長期的評価による一日平均値が0.1mgを超えた日数は、二ないし三日(0.5ないし0.8%)に過ぎない。

(2) 芦屋市役所

昭和五九年までしか測定されておらず、環境基準は達成されていないが、一日平均値の二%除外値は、最高値が五七年度の0.130mg、最低値が五八年度の0.086mgに過ぎず、長期的評価による一日平均値が0.1mgを超えた日数は、最高で二四日(6.6%)、最低では二日(0.6%)である。

(3) 西宮市役所

一日平均値の二%除外値は、昭和五一年度の0.125mgをピークに減少し、五四年度以降についてみると、毎年0.1mgを大きく下回っており、五八および六二各年度には0.068mgと過去最低値を記録し、六三年度においても0.077mgとなっている。なお、五四年度以降は、長期的評価による環境基準を達成している。

(4) 西宮市鳴尾公民館

一日平均値の二%除外値は、昭和五三年度の0.163mgをピークに年々改善され、五七年度以降は、毎年0.1mg未満に定着しており、六三年度には0.076mgで過去最低値を記録しており、長期的評価による一日平均値が0.1mgを超えた日数も、五三年度の四九日(13.8%)をピークに減少し、六〇年度以降長期的評価による環境基準を達成している。

(5) 尼崎市城内高校

一日平均値の二%除外値は、昭和五〇年度の0.194mgをピークに徐徐に改善され、六三年度には0.125mgで過去最低値になっており、長期的評価による一日平均値が0.1mgを超えた日数も、五〇年度五三日(16.9%)であったものが、六三年度には一二日(3.3%)になっていて、未だ環境基準を達成するに至っていないものの、明らかな改善傾向を示している。

(三) まとめ

浮遊粒子状物質の環境基準達成状況は、全国的にみても決して良好なものとはいえず、昭和六二、六三年度の達成率は、全国の排ガス測定局で三〇%に達していないし、一般局においてさえ五〇%前後にとどまっているところ、六二、六三年度に全国で実施された浮遊粒子状物質の有効測定の年平均値の分布は、六二年度が0.019ないし0.086mg、六三年度では0.027ないし0.086mgであるから、右に挙げた本件沿道の各測定値は、全国的にみても決して高い値とはいえないのであって、原告らが主張するような特異な汚染状態でないことは、二酸化窒素の場合と同様である。

7  本件道路周辺における大気汚染と排ガスの関係

一般的に道路周辺における大気汚染物質の環境濃度は、移動発生源、つまり道路を走行する自動車の排ガスのみをもって説明できるものではなく、他の発生源も当然考慮に入れる必要がある。

特に、本件道路においては、その地域特性に鑑み、固定発生源である阪神工業地帯に存在する多数の大小企業の工場群や事業所から排出される大気汚染物質の影響が強く、また、移動発生源のみに着目しても、本件道路以外に存在する多数の道路の影響を無視することはできない。さらに本件道路周辺には都市化現象に伴い、消費生活の過程や社会生活のあらゆる分野にわたって、多種多様な発生源が無数に存在し、それらの総てが大気汚染に深く関与しているのである。それに、これまで述べてきたところからも明らかなように、その汚染状況は全国の都市部に多数存在する程度のものに過ぎないのである。

8  被害把握の在り方について

(一) 共通する最低限度の被害の不存在等

本件訴訟は、原告ら各人の損害賠償請求訴訟が単純併合されたに過ぎない。したがって、各原告らごとに被害を特定し、それぞれその点の立証がなされなければならない。実際にも、騒音等の発生それ自体が本件沿道各地で一様でない。しかも、発生した騒音等が原告ら各自に到達する量は、家屋までの距離、その間の介在物の存否、居住家屋の構造とか、一日の在宅時間、行動など、各自の生活実体によって、その内容とか程度が千差万別の筈である。しかも、騒音等による被害の受け止め方が極めて主観的性格の強いものであるだけに、同様の曝露を受けていたとしても、個体差が非常に大きい筈で、被害の個別的な主張・立証が不可欠である。

ところが、原告ら各自の被害についての立証がないのであるし、共通する最低限度の被害なるものがそもそも存在しないのに、原告らが本件沿道に居住しているという共通の条件だけを基礎として、共通する最低限度の被害を認定することには無理がある。

(二) 本件道路からの距離による線引き認定の不当性

道路からの距離は、騒音レベルを規定する重要な条件の一つではあるが、数多くある重要な条件のうちの一つに過ぎないのであるから、原判決の説示のように防音工事施行の前後という条件のほか、本件道路から居宅敷地までの距離が、一〇m以内のグループと、それを超えて二〇m以内のグループに線引きして、その範囲内で、それぞれ共通する最低限度の被害なるものを認定する合理性はない。しかも、原告らの被害認識には、必ずしも共通性がないのである。してみれば、原告ら各自の被害の有無ないしその程度を適切に把握できる合理性のある基準に基づく認定ができない以上、原告らの各請求は、棄却されるべき筋合いである。

(三) 感覚重視の不当性

原告らが主張する騒音被害なるものは、主観的要素により左右されることが多く、受け止め方も様々である。かかる場合に、原告ら各自が曝露されている騒音レベルが、客観的に確定されて、初めて各自が訴える感覚の評価が適正にできるのであるから、客観的な確定の段階を抜きにして、いきなり感覚の供述、記述を偏重して被害を認定することは不当である。

二  違法性と瑕疵について

1  設置・管理の瑕疵の内容

国賠法二条の営造物責任も、違法性を帰責の根拠とする不法行為責任の一分枝であるから、営造物の設置または管理の瑕疵に損害賠償責任の根拠を求める以上、その規範的評価として、その設置・管理者に危害の発生につき、予見可能性及び回避可能性の存することが必要なことは、当然の事理というべきである。そして、このことは、いわゆる供用関連瑕疵の判断についても、当然に妥当するのであって、当該営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連における危害発生の危険性につき、これを防止するための特段の措置を講じるのに必要な権限を有し、或いは、その利用に適切な制限を加えるのに必要な権限を有し、かつ、その権限行使が具体的事情の下で可能であることが必要である。ところが、自動車騒音等にかかる道路環境問題については、既述のように、発生源対策の権限は環境庁長官及び運輸大臣に、交通規制権限は都道府県公安委員会に属している。これに対して公害防止との関係で被告ら道路管理者に付与されている道路行政権及び管理権並びにその延長線上に属する権限は、補充的なものとして位置付けられており、その範囲内で環境対策を推進することが期待されているに過ぎないのである。この見地に基づき、本件に即して若干主張を補足する。

2  道路管理者の法律上の権限と回避可能性

我が国の行政法体系を前提とするならば、本件道路の管理者について回避可能性の有無を判断するに際して、管理者の権限以外の他の行政庁の権限に属する事項を含めて、その法的な責任を問うということは、管理者に法的不能を強いることに帰し、およそ採りうる余地がないものである。このことを別の側面からいえば、本件道路管理者の権限の及ばない事項というのは、そもそも問題の所在が本件道路の設置・管理以外の点にあるのであり、それにもかかわらずこれを本件道路の設置・管理の瑕疵の問題として取り扱うならば、真の行政責任の所在を不明確にし、本来あるべき方策が尽くされないまま処理されることになり、真の問題解決を阻むことになる。

3  道路管理における社会的、財政的、技術的諸制約と管理可能性

国賠法二条一項に基づく責任は、営造物の設置・管理者に対する結果責任ではない。したがって、設置・管理者に財政的、技術的及び社会的制約を捨象して、不可能を強いるものであってはならないから、この見地からも考察する必要がある。

本件で道路の供用関連瑕疵として主張されている道路環境問題というのは、基本的には国民生活の向上により自動車を利用する機会が著しく増加するとともに、輸送手段が鉄道から自動車へ転換する等の社会的諸要因によりもたらされているものである。そこには、自動車の利便性と環境の保全をめぐる対立、既存幹線道路の供用ないし路線の廃止による他の道路への「車洪水」の波及の問題、新たな幹線道路の設置につき、用地取得の困難性といった社会的制約、道路の地下化やシェルター化など、道路新設工事及び道路構造面からする自動車騒音等防止の技術的困難性、さらに道路整備についての財政的制約等、程度の差こそあれ、解決困難な諸制約が内在する。これらの問題の解決は、国民的課題であって、ひとり道路管理者に求めるのは、不可能を強いることに帰するものである。

これを要するに、財政的、技術的及び社会的諸制約は、本件道路の供用関連瑕疵の要件である回避可能性の限界を画するものとして、極めて重要な考慮要素とされるべきであり、これらを正当に評価して、総ての道路を走行する自動車の騒音等を防止する具体的かつ現実的な施策の在り方を視点として、瑕疵存否の判断がなされるべきである。

4  本件道路の設置又は管理の瑕疵の不存在

以上の見地からすれば、本件道路について設置・管理者がこれまで採ってきた既述の対策は、付与された権限の範囲内で、右の諸制約を受けながら、可能な限りの最大限の措置といって過言ではなく、原告らが指摘する危害発生防止のため、それ以上の対策を採ることは、客観的に事実上及び法律上の両面において不可能というほかない。したがって、本件道路の設置又は管理には、原告らが主張するような供用関連瑕疵は、存在しないことに帰するのである。

5  本件道路における受忍限度の検討

既に述べたところから明らかなように、原告らが主張する本件道路の供用による被害なるものは、現実には存在しない。しかし、なにがしかの被害が存在すると仮定して、以下では主として騒音被害に即して、いわゆる受忍限度につき補足的に主張するが、この論は、他の被害が存するとしても、それについても妥当することはいうまでもない。

ところで、受忍限度の判断に当たっては、主観的感情を捨象した通常人において、その騒音に耐えられるか否かを論じなければならないし、その被害の発生する時間的、場所的要素を捨象してはならないのであって、仮に、会話、睡眠の支障、その他精神的不快感等があったとしても、それらの影響の発生する通常の時間及び場所を前提として、これを受忍すべきか否かを検討すべきものである。そこで、次に受忍限度の判断要素とされている事項について、順次補足する。

(一) 本件道路供用行為の特質

本件道路の供用に関連して原告らが何らかの被害を受けているとしても、本件道路の管理者である被告らは、直接の侵害行為者ではない。これに該当するものは、本件道路を自動車で走行する原告ら自身を含めた不特定多数の者である。このことは、本件で直接の侵害行為といわれるものが、極めて日常性を帯びた、通常の社会的行為であることを意味する。そして、道路管理者である被告らは、自動車の走行台数、走行速度の管理・制限、或いは大型車の走行制限とか、走行時間帯の制限などをなしえないまま、押し寄せるモータリゼーションの進展や貨物自動車の大型化等を所与のものと受け止めるほかない立場にあり、決してこれを助長したり、或いは防止可能なのに放置したということではないのである。したがって、本件道路の供用が侵害行為に当たるとされたとしても、間接的なものに過ぎず、しかも、侵害行為としての度合いは、極めて希薄なものというべきである。

原判決もこの侵害行為の間接性については、一応の理解を示している。しかるに、原判決は、個々の自動車の走行は侵害行為といえないが、これが集合・集結することにより、全体として侵害行為になるとの前提に立ち、本件道路が多数の自動車の走行を集合・集結される機能を果たしている点に問題があるとするもののようである。もとより、本件道路上を多数の自動車が走行していることは、まぎれもない事実である。しかし、既に述べたところからも明らかなように、道路交通需要は、本来、人口や諸機能の集積、社会経済的活動の活性度、所得水準等の道路外の要因により規定されるものであり、道路の整備により道路交通需要が新規に創出されるものではない。殊に、本件道路は、既存の需要に応ずるため、国道二号線を補完するための最善の措置として、阪神間の幹線道路の役割を担って計画され、供用されるに至ったことは、後述のとおりであり、相当程度の交通量があることは当然のことであった。以上の次第であるから、本件道路の供用により、自動車の走行を集合・集結させたとの認識・評価は、発想が逆であり、誤っている。

むしろ、このような所与としての趨勢の中にあって被告らは、車線の削減、緑地帯の設置、防音壁の設置、さらには防音工事の助成などの対策に取り組んできたのであるから、「影響を防止、軽減すべき相当の対策をあらかじめ講じないまま拡張等を行ってきた」といった批判的な見方は妥当しない。

(二) 本件道路の騒音及び排ガスの程度

本件沿道は、騒音レベル或いは排ガスに含まれる二酸化窒素及び浮遊粒子状物質の濃度が特に高い地域でないことは、前叙のとおりである。全国的にみると、本件沿道と同等或いはそれ以上の騒音或いは濃度の排ガスに曝されている地域は、少なからず存在しており、本件沿道が特に上位にランクされるということは、決してない。ところが、本件沿道と同等或いは上位の騒音や排ガス汚染が存在する他の地域の道路沿道の住民や、原告ら以外の本件沿道の大多数の住民が、本訴のような挙に出ないのは、何らかの被害が生じていたとしても、騒音や排ガスの程度が自動車や道路の利便に比べて、受忍限度の範囲内であることを示す重要な徴憑というべきである。

(三) 被侵害利益の性質と内容

これまで主張したところにより、原告らの主張する被害が生じていないことは、明らかになったというべきであるが、なお受忍限度の判断要素として、原告らの被侵害利益なるものの実体を把握する必要があるから、その主張に即して、いうところの被害を見極めておかなければならない。

ところで、抽象的な環境破壊なるものが、被侵害利益に当たらないことはいうまでもないし、難聴、呼吸器系疾患等の健康被害が生じていないことは、原判決認定のとおりである。

原告らは、睡眠妨害を初めとして、頭痛、肩凝り、眩暈、高血圧、心臓の動悸、胃腸障害、貧血、生理不順などの多様な身体的、生理的な影響を被害として主張している。難聴に至らない聴力損失も、この類型で捉えることができよう。しかし、これらを容認すべき証拠ないし知見はない。ただ、原告らが本件道路の自動車騒音により睡眠を妨害されていると感じているとしても、それは単なる思い込みによる不快感に基づくものに過ぎないのである。

さらに、原告らは、本件道路の騒音により会話妨害、思考妨害などの各種の生活妨害が生じていると主張するほか、「いらいらする」といった漠然とした不快感をも被害として主張しているが、後者は精神的影響として別個に検討するのが相当である。ところで、原告らの一部に会話妨害を訴える者がいるけれども、普通の大きさの声で、対話者間の普通の距離での対話であれば、本件道路の騒音程度の下では十分会話が可能であるし、若し騒音により会話内容が聞き取れないというのであれば、少し大きな声を出すとか、接近すれば、相当の騒音下でも会話は十分可能である。したがって、現実にはそれほど会話等の妨害が生じているわけではない。結局のところ、原告らの主張は、会話の際に、騒音が気になるという不快感の表明でしかなく、次に述べる精神的影響の問題に過ぎない。

先にも触れたように原告らは、本件道路の騒音により、「いらいらする」等の精神的影響が生じている旨主張するのであるが、いうところの精神的影響は、極めて主観的性格の強いものであり、内容的にも原告ら個々によって千差万別である。しかも、その厳密な意味の原因は、大半が騒音以外に帰せられるのであって、表面的に騒音が原因のようにみえても、それは単なるきっかけであったり、本人の思い込みにとどまるものである。確かに、本件道路の騒音について、これを煩いと感じる者はいるであろう。また、受け取る人によっては、その時の気分など、その置かれている条件によって、騒音が煩いというだけでなく、不快感にまで発展することもあり得よう。しかし、そこでいう不快感は、極めて主観的かつ不明確なものであり、損害賠償における被侵害利益としてみるならば、かかる精神的苦痛は、極めて軽微なものというべきである。

(四) 本件道路の重要性・公共性

元来、人間は、生存すること自体で環境に影響を与えているが、殊に、国民全体に恩恵をもたらす産業活動、経済活動は、程度の差こそあれ、常に多かれ少なかれ環境に影響を与えつつ遂行されることにより、今日の近代文明を形成したものであり、いずれにしても環境へのいろいろの影響は不可避である。かように、文明と環境をめぐる問題は、これに係わる人間を加害者と被害者に二分するというような単純な図式で割り切れるものではなく、影響を受ける者もまた、文明の恩恵を享受する受益者であるとともに、環境に影響を与える者でもある。もとより、少しでも良好な環境を維持すること自体は、何人にとっても望ましいことに違いないが、他方において、社会全体の生産力を高め、国民全体が近代文明のもろもろの所産を広く享受し得るように、生活水準の充実、向上を図ることについての根源的且つ当然の要求があるから、将来の展望をも踏まえて、全体的、総合的見地に立脚して、その間の調和点を見いだす必要がある。

これを本件に即して、自動車の国民生活に果たす役割の現状について考察すると、自動車は、随意性、機動性、速達性、快適性に優れた交通手段であって、移動及び輸送の目的ないし内容に応じて、高い評価を得ており、これなくしては、一日たりとも近代文明のもたらす諸利益を享受できないのが現状であって、鉄道、航空機、船舶等の他の輸送手段によっては、代替できないものである。この自動車の特性を十分に発揮させるためには、道路網の整備が不可欠であるし、その整備拡充に対する国民の要望は、強まる一方であり、自動車とそれが走行する道路は、国民生活の維持、存続に必要不可欠なものとして、国民各自に極めて大きな恩恵をもたらしている。もとより、自動車が発する騒音等は、好ましいものではない。しかし、これを嫌忌する余り、自動車や道路自体を否定する論は、採用できない。殊に、大阪と神戸を核とし、阪神間都市により形成されている阪神都市圏は、西日本における商工業の中心的地位を占め、大阪湾岸に配置されている重化学工業等と、港湾関連機能が極めて大きな役割を果たしており、一日当たりの総物資流動量も昭和六〇年度で一八二万三〇〇〇tにのぼるところ、貨物自動車の分担率が73.0%に上昇している。しかも、短区間の輸送は殆どが貨物自動車によって占められ、遠距離輸送でも約四〇%が貨物自動車に依存している状況である。そのほか、全国道路交通情勢調査によっても、阪神間都市と大阪及び神戸との間には、大きな道路交通需要のあることが明らかである。そこで、阪神間の幹線道路の利用実態を、昭和六三年度の神戸断面における三路線の一日当たりの交通量分担状況で示すと、国道二号線が三万五一〇〇台(一八%)、本件国道が六万七七〇〇台(三四%)、本件県道が九万四一〇〇台(四八%)であって、自動車交通が阪神都市圏の社会経済活動と市民生活にとって、極めて重要な役割を果たしており、特に本件道路は、莫大な需要に応えるために不可欠な存在であることが判明する。それだけに本件道路を、他地区に移すことなど、不可能である。結局のところ、環境問題の解決のためには、本件道路の果たしている役割と需要、代替輸送手段確保の技術的、経済的、社会的可能性、周辺環境対策の有効性とその限界、道路の位置、形状等の道路構造の改善による効果、道路新設による改善とその技術的、社会的、財政的限界等を総合的に考察して、対策を講ずることが必要不可欠であるが、このような総合的な対策の策定は、立法及び行政各部門が担当すべきことで、司法による処理に適するものではない。

さらに、沿革的に考察すると、第二阪神国道の必要性は、古く戦前から痛感されて来た。その原因は、大正一五年国道二号の建設後一〇数年で同国道の山手に、以前以上の人口を収容する市街地が形成され、局地的に交通量が著しく増加し、同国道の効用が減殺されたことなどにあった。そこで、戦後間もなくから、その実現の歩が進められて来たが、昭和二六年に国道二号が戦前の最大交通量を超え、殊に尼崎市内の混雑が甚だしく、第二阪神国道の早期建設が世論となり、その社会的ニーズを踏まえ、地元の熱い期待を担って本件国道は登場したのであった。なお、当時は、未だ大気汚染や騒音等が社会問題化する以前のことで、本件国道の建設が進められた昭和三〇年代に、自動車によって発生する騒音や排ガスが周辺住民に及ぼす影響について、事前の慎重な調査や予測を行うことは、到底無理な状況にあった。

本件道路のもつ高度の公共性については詳述したが、要するに本件道路は、阪神間の交通体系の中で中心的な役割を果しており、住民の生活に密接に関連し、阪神間の産業物資の流通に大きく寄与するもので、その供用を廃止した場合、社会的・経済的影響には計り知れないものがあることは、公知の事実である。なるほど、原告らが主張するように、本件道路を通過交通路とする見方も可能であろうが、これなくしては原告らの生活に密着した道路にまで車が氾濫し、生活物資の流通も阻害され、文化的な生活は、根底から破壊されることになる。このように本件道路の必要性ないし公共性は、空港に比してさえ絶対的な優先順位を主張しうる営造物であって、本件道路の公共的利益の実現は、原告らを含む周辺住民の利益にも直結する関係にある。このように本件道路の機能がもつ高度の公共性、公益性を正当に評価し、総合的、全体的な比較衡量を行うならば、本件道路を自動車の走行の用に供することによって、必然的に発生するある程度の騒音等は、周辺住民にとってやむを得ないものとして、受忍すべきことが社会的に要請されるというべきである。したがって、違法性の判断に当たっては、本件道路が有する高度の公共性が、十分に考慮されなければならない。

(五) 環境対策

急激なモータリゼーションの進展する中で、本件道路の騒音等を抑制することは、技術的にも、社会的にも極めて困難なことである。もとより、発生源対策として最も効果的なものは、より一層の規制強化と自動車の運行台数を激減させることであろう。しかし、このような対策の実施は、国民の合意なくしては、実現が不可能なことである。かかる情勢の中で道路管理者は、付与された権限の範囲内で可能な限りの対策を講じてきた。中でも本件国道の車道一〇車線を八車線に削減し、その部分に遮音築堤、植樹帯を設置したことは、限られた権限と諸制約の中で、できる限りの環境対策を実施していることの象徴である。しかも、これの環境対策によっても、騒音の抑制が十分でない本件沿道住民のために、被告公団は、住宅防音工事の助成を実施しているが、その総額は平成元年度までで約一四二億円に達し(一戸当たり平均約一四八万円)、約八ホン(A)の騒音低減となり、夜間窓閉時の室内騒音レベルは、L50で平均三五ホン(A)、大部分の居宅で四〇ホン(A)を下回るという結果を得ているのである。

それにもかかわらず、原判決は、本件について事前の環境影響調査及び騒音等防止対策の不存在を、受忍限度判断の大きな要素と受け止めているようである。しかし、前叙のように本件国道建設当時、環境影響調査は、法律上義務付けられていなかったのみならず、今日騒がれているような道路公害問題を予測することすら困難な状況であったから、環境影響調査の不存在をもって、道路管理者の責任を論じることは不当である。のみならず、右に挙げた被告らのその後の対応に鑑みるならば、原判決のように、被告らの環境対策を消極的に評価するのは、誤りというほかない。

(六) まとめ

以上のような点を総合的、全体的に考察すれば、仮に、原告らの一部に何らかの被害が生じているとしても、それは、当然受忍すべき範囲内のものというべきであり、したがって、本件道路の供用に違法性はないというべきである。

三  差止請求について

原告らは、差止として、抽象的不作為を求め、目的到達のための作為の内容の選択は、被告らに委ねるのが適切である、と主張する。しかし、この論旨からすると、被告に任意的履行を期待するにとどまることになる。この点の原判決の説示は正当である。

ところで、原告らは、人格的利益が侵害された場合の妨害排除権能を、人格権という本体的権利から流出し、派生する請求権として捉えているけれども、人格権なるものの権利としての法的性質ないし構造はもとより、その実体的内容がおよそ明らかでない。しかも、人格権の侵害により派生するという妨害排除請求権の成立要件、内容、効果等も不明確であり、これを許容することになると、総ての経済活動、社会活動、公共活動等に際しての行動の予測可能性が大きく揺らぎ、法的安定性を著しく損なうことになる。したがって、人格権は、実定法上の権利として承認できないというべきである。

四  損害賠償請求について

1  一律請求

被害認定の手法の在り方でも触れたところであるが、補足すると、本件では、原告らに一律請求を可能ならしめるような共通の損害は、発生していない。

2  損害額の認定について

(一) 防音工事助成の評価

原判決は、防音工事が実施された原告らについても、なお被害の発生を肯定し、その損害額の四割を減じたに過ぎない。しかし、仮に原告らの損害賠償請求が認容されるべきであるとしても、これまで述べたように、防音工事の実施によって、少なくとも平均約八ホン(A)の騒音低減効果をみ、騒音レベルは、おおむね環境基準を下回る低い水準に達しているのであるから、この時点以降に睡眠妨害等の被害が発生することはあり得ないし、受忍限度を超えるとは到底考えられないのである。原判決は、防音工事を不当に低く評価しているといわざるを得ない。

(二) 後住性の判定基準時

原判決は、危険への接近の一般理論自体は承認したものの、本件の具体的適用においては、後住性の判定基準時を本件県道大阪線の建設工事の差止を求める仮処分申請に対する決定のあった月の翌月である昭和四八年六月としている。しかし、その判定基準日は、本件沿道の騒音や排ガスが、昭和四〇年代前半には既に現在の状況にまで増大し、そのころからそれが公害として本件各市や住民団体などによって問題視され、新聞などでも頻繁に報道されていた事実や、そのころには交通量も著しく増大していたことを考慮すると、居住者において本件道路の騒音や排ガスが問題とされている事情、ないしそのことを十分に知ることができたのは、遅くとも本件県道が供用を開始した四五年二月二三日ころとすべきである。

(三) 転居した原告ら

原告らのうち、原審口頭弁論終結後に居住地の異動のあった者は、別紙H①のとおりである。

五  民訴法一九八条二項の申立

別紙目録(六)ア、イ記載の原告ら及び同ウ記載の原告ら承継人は、原審の仮執行宣言付判決に基づき、昭和六一年七月一八日及び昭和六二年三月二五日被告国から別紙目録(六)のアないしウの各①欄記載の、また被告公団から同目録各②欄記載の各金員(右各金員の内訳は、各目録の認容額欄及び遅延損害金欄のとおり)の給付を受けているから、民訴法一九八条二項の規定により、被告らは右原告ら及び原告承継人(ただし、原告番号46の1、70、97、113の1の各原告については、別紙目録(一)のア各該当番号記載の承継人)に対し、右給付した各金員及びこれらに対する給付の日の翌日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。

六  結論

よって、控訴の趣旨のとおりの判決を求める。

第三章  証拠〈省略〉

理由

第一書証の成立

原審の書証目録に記載の書証の成立は、原判決の理由第一(一五五丁表三行目から六行目)のとおりであり、当審のそれは、別紙A⑦に記載したものについては、いずれも同記載のとおりその成立を認めることができ、これに記載しなかったものについては、いずれもその成立(ただし、写しが提出されたものについては、原本の存在および成立)に争いがない。

第二当事者

当事者に関する説示は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の理由第二、一、1ないし5(一五五丁表八行目から一六四丁裏一行目)のとおりであるから、これを引用する(もとより既に係属していない原告らの関係部分を除く。以下の引用でも同じ。)。

一転出原告

1  後藤欣康(109)の転出時期は、〈書証番号略〉に加え、弁論の全趣旨(とりわけ、公示送達申立にかかわる一連の調査の結果)を総合すると、遅くとも昭和五八年一二月末日とするのが相当であると認められるから、原判決一六〇丁表末行目から同裏一行目にかけての同原告の転出時期を右のとおり訂正する。

2  左記原告らについては、次のとおり転出したことが認められるから付加する。

(一) 村上美信(6) 昭和六〇年八月七日 〈書証番号略〉

(二) 水戸辰巳(11) 昭和六三年九月一日 〈書証番号略〉

(三) 住吉隆(37) 平成元年一一月一五日 〈書証番号略〉

(四) 時岡三郎(43) 昭和六〇年一一月一日 弁論の全趣旨(原告からの上申書)

(五) 河野壽生(50) 昭和六三年九月二六日 〈書証番号略〉

(六) 平井清(91) 昭和六二年一二月一日 〈書証番号略〉

(七) 李南述(129) 昭和五九年九月二五日 (争いがない)

二原告らの変更

原告らが当審の主張第一、一で主張するとおり、相続を原因として原告らの変更があったことは当事者間に争いがないというべきであるから、これを付加する。

三承継の対象となった請求権に関する疑義

1  原告番号65、121の各1の原告の控訴の趣旨によると、同原告らは承継前原告の法益侵害に加えて、固有の法益侵害を理由とする差止並びに承継分及び将来分を含めた損害賠償を請求するものと理解できる文言であるけれども、固有の請求についての請求原因の欠落や弁論の全趣旨によると、同原告らの控訴の趣旨の真意は、承継前原告の法益侵害を理由とし、承継した損害賠償(したがって、死亡の日を終期とする)のみを請求するにあることが明らかであるから、右文言を誤記と認め、右の理解に則して審判する。

2  また、原告番号2、70、78の各1の原告は、当審において、承継前原告の死亡に基づき承継して本訴を追行しているのであるが、承継前原告の請求は、その法益侵害を理由とする差止及び将来分を含めた損害賠償請求であったところ、性質上、承継の対象となったのは、承継前原告の死亡の日を終期とする損害賠償請求権と解すべきであるから、これに則して審判する。

第三差止請求について

一差止請求の根拠

原告らの申立てにかかる差止請求は、当事者の求めた裁判の項B、第一、二記載のとおりであって、要するに、被告らに対し、被告らが本件道路を走行する自動車によって発生する騒音等を、一定数値を超え原告らの居住敷地内に侵入させて、自動車の走行の用に供してはならないという、いわゆる抽象的不作為による差止めを求めるのであるが、この請求が許容されるためには、まず少なくとも原告らに属する排他的な権利の違法な侵害がある場合でなければならない。

ところで、人は、平穏裡に健康で快適な生活を享受する利益を有し、それを最大限に保障することは国是であって、少なくとも憲法一三条、第二五条がその指針を示すものと解される。かかる人格的利益の保障された人の地位は、排他的な権利としての人格権として構成されるに価するというべきところ、原告らの主張する人格権も、右の趣旨と解されるのであって、本件差止請求の根拠となりうると解すべきである。

もっとも、人格権として保護されるべき法益は、生命、身体及び健康から日常の平穏かつ快適な生活まで多様であるが、それらの侵害に対して差止が容認されるのは、その侵害が基本的に違法と判断される場合でなければならない。

これに対して被告らは、人格権の法的性質をはじめとして、その侵害により派生する差止請求権の成立要件等に疑義を差し挟むのである。確かに、人格権には差止という強力な効果が付与されるだけに、その内容が明確であることを要するのはいうまでもないところ、一般論としてその外延になお不明確な部分がないわけではなく、それをどのように画すべきかは一箇の問題であることは否定できず、その点の論議が深められなければならないことは、指摘のとおりであろう。

しかし、原告らが主張する保護法益が、人格権の中心的内容となることは動かし難いところで、そこに疑義を差し挟む余地はないというべく、重要な法益の違法な侵害が存する限り差止請求権が派生すると解すべきであって、一般論として外延が不明確であるからといって、人格権の法的構成自体を否定してかかる論には左袒できない。

もっとも、原告らは、環境権なる権利をも根拠として差止を求めるというのであるが、原判決も説示するように環境権なる権利については、実定法上の根拠が認め難いうえ、その成立要件及び内容等も極めて不明確であり、これを私法上の権利として承認することは、法的安定性を害することになり、許容できないというべきである。

二民事訴訟による差止請求の可否

ところで、原告らが求める抽象的不作為としての差止は、その目的を達成する方法として、行政庁による道路の供用廃止、路線の全部または一部廃止及び自動車の走行制限といった交通規制等の公権力の発動によることを要する場合のほか、道路管理者による騒音等を遮断する物的設備の設置等の事実行為も想定できるところ、原告らは、公権力の発動を求めるものではない。いうまでもなく、本件は管理権の作用を前提とするところ、それにもかかわらず異別に解しなければならない特段の事由は認め難いというべきであるから、民事訴訟上の請求として許容されるというべきである。

三差止請求の趣旨の特定

原告らの差止請求については、その目的を達成するための作為を求めるに帰するとして、右に挙げたような多様な方途のどの方法を求めているのか特定できないから、訴えとして不適法であるとの見解がある。原審も執行方法とのからみもあって、右の見地に立つものである。

しかし、被害を受けている者が、その被害を将来に向けて回避するという観点から、直截に救済を求めるには、原因の除去を求めることが必要であると同時に、それで十分というべきである。そうだとすれば、まず原告らの差止請求は、その主張する保護法益、差止として被告らにおいて何がなされるべきかを明らかにしているのであるから、趣旨の特定に欠けるところはないといえる。

ところが、被告らは、原因除去の方法が特定していないというのである。しかし、右にみたように原告らの請求は、抽象的不作為の差止を求めるものとして、過不足なく特定しているところ、その原因除去の手段として、多様な選択肢が想定できるときに、そのうちのどれをどのように選んで有効適切ないし合理的かつ効果的(これらの基準は、基本的な行為準則であろう。)に目的を達成するかは、本来被告らの領域の選択の自由に属することであって、それが尊重されなければならないことはいうまでもない。のみならず、そのような選択に当たっても、被告らにとって広範な政策的判断を視野に入れた施策の一貫であることが要請されるはずであることからすれば、なおさらのこと、原告らの介入すべき余地はないというべきであろう。この点を捉えて被告らが、任意履行を期待するにとどまると評するのは、失当といわなければならない。

もっとも、原告らの請求が認容されて確定した場合の強制執行の方法については、いろいろと議論がなされているけれども、少なくとも間接強制(民執法一七二条)という最小限度の方法の裏打ちは存するのである。

第四損害賠償請求について

一本件道路の設置・管理の瑕疵

本件道路が国賠法二条一項にいう公の営造物に属することは、明らかであるところ、営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうのであるが、右にいう安全性の欠如を本件に即していえば、その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において、その利用者以外の第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合と解すべきである。すなわち、当該営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りでは危害発生の危険性がなくても、これを超える利用に供されることによって危害発生の危険性の存する状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて、右営造物の設置又は管理に瑕疵があるということになる。したがって、右営造物の設置・管理者において、かかる危険性があるにもかかわらず、これにつき特段の措置を講ずることなく、また、利用につき適切な制限を加えないまま、右営造物を利用に供し、その結果第三者に対して現実に危害を生ぜしめたときは、それが右設置・管理者の予測しえない事由によるものでない限り、国賠法二条一項の規定による責任を免れることができないと解すべきである(最大判昭和五六・一二・一六民集三五巻一〇号一三六九頁参照)。

そこで、右の見地に則って本件についていえば、本件道路を一般的に自動車の走行の用に供することによって発生する騒音、排ガス等の程度が一定の限度にとどまる限りにおいては、原告ら沿線住民に危害を生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用に供されることによって発生する騒音、排ガス等が危害を生ぜしめる危険性の存する常況にある場合にもかかわらず、これにつき被告らが特段の措置を講ずることなく、また、利用につき適切な制限を加えなかったとすれば、この供用につき利益衡量の結果として違法性を肯定することができる限り、本件道路の設置又は管理に瑕疵があるものと解すべきである。

二将来の不法行為に関する賠償請求の適法性

民訴法二二六条が、例外として将来の給付の訴えによる請求を許容した規定の趣旨に照らすと、継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権についても、請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、右請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変更としては、あらかじめ明確に予測しうる事由に限られ、しかもこれについては請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても格別不当といえない場合でなければならない。しかし、たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても、それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができるとともに、その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく、事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生として捉えて、その負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては、将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を認めることはできないと解するのが相当である(前掲最大判参照)。

第五本件道路の沿革及び現況等

一本件道路建設の経緯等

本件道路建設の経緯、規模と構造及び立地状況は、おおむね原判決の理由第三(一六四丁裏五、六行目)のとおりであるが、なお、当事者間に争いがない事実及び当審証人南部隆秋の証言並びに弁論の全趣旨を総合して、次のとおり認定して、敷衍及び付加する。

1  地域特性

原告らの居住する西宮市、芦屋市及び神戸市の南部地域(尼崎市を除く)は、北は六甲山系に、南は瀬戸内海にはさまれた幅員約二Kmの狭い帯状の平地ないし山麓地帯に位置しており、大阪市と神戸市を結ぶ交通路はもちろん、阪神間の住居、産業も右帯状地帯に集中せざるを得ないのであって、幹線道路としては、本件道路のほか、国道二号が、鉄道も、JR、阪急、阪神の各路線が、いずれもこの同地帯にひしめいている。

2  本件道路の沿革

(一) 本件国道

阪神間には幹線道路としてもと阪神国道(現国道二号)のみが敷設されていたが、被告ら主張のとおり昭和一三年ころにはその交通量が著しく増大し、新しい国道の必要性が強く望まれるようになっていたところ、昭和二一年特別都市計画法が施行され、地元の地方自治体が協議を重ねたうえ、新たな構想により大阪市東住吉区平野から神戸市須磨区に至る都市計画街路広路一号が計画決定され、同年五月告示された。そして、昭和二八年五月大阪市港区市岡元町から神戸市灘区岩屋南町に至る区間が二級国道一七三号に指定され、昭和三二年一〇月国の直轄施行の告示がなされ、本格的な建設工事が開始された。昭和三四年四月右国道は一級国道四三号に昇格し(昭和四〇年度からは一般国道)、昭和三八年一〇月から兵庫県下全線の約二〇Kmにわたって全幅一〇車線で供用開始された(ただし、新在家付近六六〇mは六車線で供用開始され、右部分の一〇車線が完成したのは昭和四三年三月である。)。

(二) 本件県道神戸線

同県道は、昭和三七年九月「神戸国際港都建設計画都市高速道路一号線」の都市計画が決定され、翌三八年一一月から工事が開始され、昭和四五年二月に全線が開通した。

(三) 本件県道大阪線

同県道は、尼崎市辰巳橋を境とする以西であって、昭和四五年四月から工事が開始され、昭和五六年六月に全線開通をみた。

3  本件道路の構造等

(一) 本件国道

同国道は、起点を大阪市西成区西四条三丁目に、終点を神戸市灘区岩屋南町一丁目におき、尼崎市、西宮市、芦屋市を通過するもので、起点において一般国道二六号に、終点において一般国道二号に接続する。

その延長は29.9Km、総幅員五〇mで、兵庫県下の部分の標準的な幅員構成は、上下一〇車線(現在は八車線に削減)の車道、幅員四mの中央分離帯及び両側に幅員各六mの歩道となっている。

(二) 本件県道神戸線

同県道は、起点を神戸市須磨区月見山町三丁目に、終点を西宮市今津水波町におく兵庫県道であり、かつ自動車専用道路であって、延長25.3Km、神戸市灘区大石南町三丁目付近から右終点までの間の標準幅員20.25m、中央分離帯により上下各二車線に分離された高さ一〇mの高架道路であり、本件国道の上に主として単柱橋脚で支えられた構造で建設されているもので、起点において第二神明道路に、終点において本件県道大阪線及び名神高速道路に接続している。

(三) 本件県道大阪線

同県道は、起点を尼崎市東本町一丁目に、終点を西宮市今津水波町におく兵庫県道であり、かつ自動車専用道路であって、延長7.3Km、標準幅員25.7m、上下各三車線(西宮市内の一部区間では、幅員20.25m、上下各二車線)、高さ一二ないし一五mの高架道路であり、おおむね本件国道の上に(ただし、尼崎市東本町交差点付近から同市五合橋交差点付近までの間は同国道の南側に、また同市武庫川交差点付近から西宮市鳴尾交差点付近までの間は同国道の北側に、それぞれ並行)、主として単柱橋脚で支えられた構造で建設されているもので、起点において大阪府道高速大阪西宮線に、終点において本件県道神戸線に接続している。

4  維持、管理

(一) 本件国道

被告国は、本件国道について、道路法一三条一項及び一般国道の指定区間を指定する政令に基づき、いわゆる直轄国道として建設大臣によりその維持、管理、その他の修繕を行うものである。

(二) 本件県道

被告公団は、阪神高速道路公団法及び道路整備特別措置法に基づき、大阪市の区域及び神戸市の区域並びにそれらの区域の間及びその周辺の地域において、有料自動車専用道路の新設、改善、維持、修理その他の管理を総合的かつ効率的に行うことを目的として設立された特殊法人であり、阪神高速道路公団法二九条一項一号に基づき本件県道の維持、修繕その他の管理を行うものである。

二一日当たりの交通量

1  尼崎市及び西宮市の昭和五七年度まで並びに神戸市及び芦屋市の昭和五八年度までの一日当たりの交通量は、原判決一六四丁裏九行目から一六五丁裏三行目までのとおりであるから、これを引用する(ただし、B⑤表の昭和四八年本件県道の「五万五八二四台」を「一〇万四五三八台」と訂正する。)。

2  右の時期以降については、尼崎市及び芦屋市については〈書証番号略〉、西宮市については〈書証番号略〉神戸市については〈書証番号略〉によれば、次のとおり認められる。

昭和五八年度

尼崎市

本件国道 八万三五二二台 (東本町)

本件県道大阪線 五万九七八七台(道意町)

西宮市

本件国道 七万四五九二台 (久保町)

本件県道 六万二六一二台 (池開町)

昭和五九年度

尼崎市

本件国道 九万〇九四六台 (東本町)

本件県道大阪線 六万六八八〇台(道意町)

西宮市

本件国道 七万八六一二台 (久保町)

本件県道 六万七八六一台 (池開町)

芦屋市

本件国道 八万一八七四台 (精道町)

神戸市

本件国道 六万九五一〇台 (東灘区青木)

本件県道神戸線 一〇万三九五〇台(東灘区深江南町の断面)

昭和六〇年度

尼崎市

本件国道 八万九一四八台 (東本町)

本件県道大阪線 六万七二六二台(道意町)

西宮市

本件国道 七万八〇九〇台 (久保町)

本件県道 六万七七五五台 (池開町)

芦屋市

本件国道 七万二八四一台 (精道町)

神戸市

本件国道 七万一七一〇台 (東灘区青木)

本件県道神戸線 一〇万一〇八五台(東灘区深江南町の断面)

昭和六一年度

尼崎市

本件国道 九万三二〇七台 (東本町)

本件県道大阪線 七万一六〇五台(道意町)

西宮市

本件国道 七万五九七二台 (久保町)

本件県道 七万二四五二台 (池開町)

芦屋市

本件国道 七万四七六九台 (精道町)

神戸市

本件国道 七万九三八〇台 (東灘区青木)

本件県道神戸線 一〇万六七六八台(東灘区深江南町の断面)

昭和六二年度

尼崎市

本件国道 九万〇三五二台 (東本町)

本件県道大阪線 七万六四三六台(道意町)

西宮市

本件国道 八万六六八二台 (久保町)

本件県道 七万四九四三台 (甲子園洲鳥町)

芦屋市

本件国道 八万〇五三一台 (精道町)

神戸市

本件国道 八万六六三〇台 (東灘区青木)

本件県道神戸線 一一万〇〇六〇台(東灘区深江南町の断面)

昭和六三年度

尼崎市

本件国道 九万二八五二台 (東本町)

本件県道大阪線 七万九〇五〇台(道意町)

西宮市

本件国道 九万〇〇六六台 (久保町)

本件県道 七万三四五九台 (甲子園洲鳥町)

芦屋市

本件国道 八万三〇二九台 (精道町)

神戸市

本件国道 八万八九八〇台 (東灘区青木)

本件県道神戸線 一〇万八八六九台(東灘区深江南町の断面)

平成元年度

尼崎市

本件国道 九万〇六〇三台 (東本町)

本件県道大阪線 八万四一四四台(道意町)

西宮市

本件国道 八万六八八九台 (石在町)

本件県道 一〇万七四八五台 (浜脇町)

芦屋市

本件国道 七万八七九四台 (精道町)

神戸市

本件国道 八万九四八〇台 (東灘区青木)

本件県道神戸線 一一万五六三二台(東灘区深江南町の断面)

平成二年度(六月五、六日の間の一昼夜)

尼崎市

本件国道 一〇万二二五五台 (西本町)

本件県道大阪線 八万三九一九台(道意町)

西宮市

本件国道 八万二九四二台 (鳴尾町)

本件県道 一〇万六九五八台 (浜脇町)

芦屋市

本件国道 八万四〇一三台 (精道町)

神戸市

本件県道神戸線 一一万五四〇九台(東灘区深江南町の断面)

3  当審における鑑定の結果によれば、平成元年五月から六月にかけての一日当たりの交通量の平均値は次の通りであったことが認められる(なお、平均値計算にあたっては、①平成元年五月一六日正午から翌一七日正午までの交通量は、他の日に比べ約三分の二程度であったので、計算から除外した。②鑑定の表は一〇分間当たりの台数なので、これを一日当たりの台数に換算するに際し、小数点以下は四捨五入した。③西宮市の本件県道の交通量は三日間の平均値、他はいずれも六日間の平均とした。)。

尼崎市

本件国道 九万三五二八台 (道意町)

本件県道大阪線 八万五八六〇台(道意町)

西宮市

本件国道 九万二一九〇台 (今津二葉町)

本件県道 九万六九一八台 (浜脇町)

芦屋市

本件国道 八万四〇七二台 (精進町)

本件県道神戸線 一一万六〇六四台(平田町)

神戸市

本件国道 七万二五六四台 (東灘区魚崎南二丁目)

本件県道神戸線 一二万六二六四台(魚崎南一丁目)

4  まとめ

以上によれば、本件沿道の交通量は、全体として、なお漸増の傾向を辿っていると評することができる。

三交通量の時間変動及び大型車の利用状況

1  昼夜の割合

〈書証番号略〉(昭和六三年一〇月に行われた調査結果)によれば、平日の昼夜別交通量及び昼夜率は、ほぼ次のとおりであったことが認められる(昼夜率とは、昼間(七時から一九時)交通量を分母とし、昼間及び夜間(一九時から七時)の合計交通量を分子とした割合をいう。)。

神戸市

本件国道 (東灘区御影塚町)

昼間交通量 五万一七〇二台

夜間交通量 一万六〇一八台

昼夜率 1.31

本件県道神戸線 (中央区新港町)

昼間交通量 六万三四〇六台

夜間交通量 三万〇六六二台

昼夜率 1.48

国道二号 (東灘区御影石町)

昼間交通量 二万四九八二台

夜間交通量 一万〇〇八三台

昼夜率 1.40

尼崎市

本件国道 (東本町)

昼間交通量 六万五六二二台

夜間交通量 二万八一五四台

昼夜率 1.43

本件県道大阪線 (南城内)

昼間交通量 五万六一五四台

夜間交通量 二万五三七三台

昼夜率 1.45

国道二号 (杭瀬)

昼間交通量 二万六四七一台

夜間交通量 一万三七六四台

昼夜率 1.52

右の昼夜率は、〈書証番号略〉により認められる阪神地区の他の主要道路の昼夜率と殆ど同じ割合といえるのであって、平日における昼間と夜間の交通量のおおよその傾向を把握する指標とするに足りるというべきである。

2  大型車混入率

(一) まず、昭和五七年当時までの本件各市における幹線道路の大型車の交通量及び混入率は、原判決が説示するとおりである(一六六丁表一行目から同裏一一行目)から、それを引用するが、資料不足のため、当時の本件道路における大型車の混入率の傾向を把握するには不十分というほかない。しかし、なお留意すべき特徴的な点を挙げると、本件国道では年度を追うごとに混入率が高くなるというのではなく、一日平均でおおよそ上は三〇%を若干超え、下は二五%前後であり、本件県道では右をかなり下回り一五%前後であること、両者につき夜間の混入率の高いことを挙げることができる。

(二) 〈書証番号略〉によれば、昭和六三年の大型車の平日一日当たりの台数及び混入率は次のとおりであったことが認められる。

神戸市

本件国道 (東灘区御影塚町)

総交通量 六万七七二〇台

大型車 一万三七三四台

大型車混入率 20.3%

本件県道神戸線 (中央区新港町)

総交通量 九万四〇六八台

大型車 一万八九七一台

大型車混入率 20.2%

国道二号 (東灘区御影石町)

総交通量 三万五〇六五台

大型車 二一六四台

大型車混入率 6.2%

尼崎市

本件国道 (東本町)

総交通量 九万三七七六台

大型車 二万六七五六台

大型車混入率 28.5%

本件県道大阪線 (南城内)

総交通量 八万一五二七台

大型車 二万〇五七七台

大型車混入率 25.2%

国道二号 (杭瀬)

総交通量 四万〇二三五台

大型車 三八一八台

大型車混入率 9.5%

(三) 〈書証番号略〉の昭和六三年度道路交通センサスに基づいて大型車につき作成された表によると、近畿圏の主要道路三四箇所の二四時間合計の大型車混入率は、各箇所の混入率の平均値及び総合計台数から計算される混入率が、いずれも約二三%であること、右表記載の三四箇所のうち、混入率三〇%台が五箇所、四〇%台が三四箇所あり、五〇%を超える箇所も一箇所あることが認められる。

また、同号証によると、昼間(七時から一九時まで)の大型車混入率は、近畿圏の主要道路平均が21.2%、本件国道の四市五箇所の平均が27.7%であり、夜間(一九時から七時まで)の大型車混入率は、近畿圏の主要道路平均が27.5%、本件国道の四市五箇所の平均が21.2%であることが認められる。

次に、走行台数をみると、〈書証番号略〉の前同趣旨により作成された大型車の時間別交通量の表によると、近畿圏の主要道路の一日当たりの平均交通量は七八五七台であり、夜間一二時間の平均交通量は二九一四台であるのに対し、本件国道の四市五箇所の平均交通量は、一日当たりが二万一二五二台、夜間一二時間が四八六八台であることが認められる。

3  まとめ

以上を総合すると、本件道路の平日における大型車の混入率は、沿道各市により若干のバラツキがみられるものの、最近のかなり安定した数値を重視すると、総じて少なくとも二五%前後で推移していることは動かし難いところ、昼間に比して交通量が減少する夜間の混入率が相対的に高いことは注目に価する。そして、このことから、原告らも指摘するように、交通量が増加傾向にあるなかで、大型車の混入率の低下がないということは、大型車の絶対量の増加を意味することはいうまでもない。

四交通特性

〈書証番号略〉及び当審証人南部隆秋の証言によれば、平成二年三月二九日(木曜、曇り一時小雨)七時から一九時にかけて行われたプレートナンバー読み取りによる本件国道利用実態調査の一応の結果(したがって、本件県道、本件県道と名神高速道路のみを利用した交通は含まれていない。)によると、対象台数約七六万台(プレートナンバー読み取り不可能な約一八万台を除く。)につき、次の事項が判明した。

1  神戸市灘区から大阪市界までの約二〇Kmを一度以上利用した車は、延べ約四六万四〇〇〇台であった。

2  そのうち、内々交通(調査対象地域内のいずれかの調査地点で記録され、かつ、対象地域の境界調査地点では記録されなかったトリップで、地域内交通)は約二四万一〇〇〇台であり、さらにそのうち、各地区内の内々が約一二万三〇〇〇台(全利用台数の約26.5%)隣接市間が約九万九〇〇〇台(同約21.4%)である。

3  内外交通(調査対象地域から出ていった、あるいは入ってきたトリップ)は約二一万五〇〇〇台(同約46.4%)であり、その主なものは、尼崎と大阪の約五万九〇〇〇台、神戸東部と神戸西部の約五万八〇〇〇台であって、内外交通の約半数(約一〇万二〇〇〇台)は、本件県道や名神高速を利用し、本件国道はそのアクセス道路として利用されている。

4  通過交通(調査対象地域の境界に設定した調査地点で二回記録され、この地域を素通りするトリップ)は、一部で本件県道を利用するものを含めて約八〇〇〇台である。

5  通過交通のうち、東西の通過交通は、本件国道を一部利用するものを含めて約二〇〇〇台(同0.5%)であり、このうち、全区間を国道二号及び本件国道で通過するものは約三〇〇台(同0.1%)、そのうち本件国道だけを走行して東西に通過するのは約一三〇台である。そして、調査対象地域を通過する比較的長い交通は、高速道路が主に分担(本件県道利用の東と西間通過は約二万二〇〇〇台、本件県道から名神高速道路へ乗り継ぐ西と北間通過は約一万七〇〇〇台、本件国道利用の通過交通は約八〇〇〇台)しており、利用距離からみると、本件国道は四Km未満の利用が約六三%を占めていて、その平均的な利用距離は約4.9Kmであり、本件県道の平均利用距離は約14.9Kmである。

6  全利用交通の車種構成は、乗用車46.6%、小型貨物車26.9%、普通貨物車26.5%であること、また、各時間帯における交通量を車種別にみると、次の事実が見受けられる。

(一) 時間帯別の車種構成は、どの区間も同様の傾向がみられる。

(二) 朝は乗用車の比率が高く、また交通量も多い等、通勤利用が主体であるとみられる。

(三) 昼は、全体としての交通量は朝夕に比べて少ないが、普通貨物車の量と割合の増加がみられ、業務交通が中心になる。

(四) 夕方は、乗用車が昼より増加し、帰宅、帰社による利用増と見られる。

7  距離の長いトリップの方が、普通貨物車の割合が多いこと。

また、貨物車の構成比率は、尼崎地区、灘・東灘地区、西宮地区、芦屋地区の順となっており、これは比率の高い地区(尼崎、灘三〇%、西宮、芦屋二六%)沿道の土地利用が、工業地区、港湾地区であることと関連があると考えられる。

8  本件国道の高速道路出入口(本件県道や名神の各ランプ)を利用する交通は、約九万四四〇〇台(同20.3%)であって、高速道路利用率は、内々交通で0.5%、内外交通で41.2%、通過交通では55.1%(前述のとおり、本件県道、本件県道と名神高速道路のみを利用した交通は含まれていない。)である。

9  まとめ

以上のとおり認められ、右の調査結果によれば、本件国道は地域の実態と密接に関連する機能を担う典型的な都市内道路の特徴を備えているということになるものの、昼間一回だけの調査であり、しかも南部証人の証言によると、観測台数約九四万台のうち、プレートナンバー読み取り不能台数が約一八万台(約一九%)にも及ぶことが認められるのであるから、右をもって本件国道の利用傾向を速断することは相当でない。それにしても、右の調査結果は、本件国道が地域の、主として産業物資流通のための交通に相当の寄与をしていることを物語るものというべきである。

第六侵害状況等

一交通の実情

本件道路における自動車交通の実情は、前叙第五、二(一日当たりの交通量)、同三(交通量の時間変動及び大型車の利用状況)のとおりであるところ、〈書証番号略〉と当審証人南部隆秋の証言によると、近い将来のこととして、現に工事が進捗している大阪湾岸道路が供用開始の運びとなれば、同道路がバイパス道路としての機能を果たして、本件道路のいわゆる通過交通や海岸部から集中発生する交通を吸収し、本件沿道の環境改善に寄与するというのである。なるほど、大阪湾岸道路が開通すれば、交通の分散化はある程度期待できるであろうが、前叙のように交通量がなお漸増傾向にあることを考慮すると、当審証人加藤邦興も証言するように、本件沿道の環境改善に即効的に寄与することになるかは、なお疑問とせざるを得ない。

ところで、被告らは、本件道路の交通量等に比し、他に交通量等が上位の道路があるとして、それとの比較において論ずるところがあるものの、その意図は必ずしも明らかでない。しかし、他に交通事情の劣悪な道路があったとしても、そのことが直ちに本件道路における騒音等の評価を、低くからしめるものでないことは自明である。ただ、他の道路の交通量等を一瞥することは、本件を把握するうえで十分に意義があると解されるから、この見地に基づき本件各市を通る他の幹線道路等との比較にも触れると、昭和五七年当時までの交通量については、原判決の理由第四、一、1、(二)(一六五丁裏五行目から同一二行目)のとおりであり、また、同じ時期までの大型車の混入率については、右同第四、一、2、(二)(一六六丁裏末行目から一六七丁表七行目)のとおりであるから、それらを引用する。

次に、昭和五八年以降の一日当たり交通量は理由第五、二、2で既に認定済であるが、その概略は、別紙Cのとおりである(測定場所は理由第三、二、2のとおり。)。

以上、要するに、本件道路の交通量は、本件各市を通る他の幹線道路に比して極めて多く、昭和四〇年ころを境に増大したのであるが、本件県道の供用がさらに拍車をかけて、飛躍的に増大したこと、殊に、本件道路の大型車の混入率は全国的にも高く、もとより本件各市内の幹線道路の中では最高である。そして、この傾向は、さきに認定したその後の本件道路の交通事情に照らし、さらに増加していることは動かし難いし、このままでゆけば今後も増加することが十分に予想される。

ところで、原告らが主張する侵害のかなりの部分が、大なり少なり大型車に由来することは確かであるが、その点を具体的に一瞥すると、もともと車体自体が重量物であるうえ、さらに重量物を積載するため、強力なエンジンが登載されている関係上、発進、加速の際のエンジン音は八〇ホンを超えるレベルに達し、同時に燃料の関係もあって相対的に高濃度の排ガスを排出すること、しかも、右のような全体として重量物が高速で走行するため、タイヤが路面を擦過し、空気を切る音も相当なものであり、積載物の遊び等に伴い時に衝撃音を出す点も注目に値することである。

二騒音

1  日常生活騒音と騒音レベル

音を騒音と受け止めるのは、主観的感覚によるものであることはいうまでもないが、日常生活で体験する音のなかには、程度の差はともかくとして、騒音としか受け止めようのない種類の音がある(自動車の走行を発生源とする音がそれに属することはいうまでもない)。その種の騒音とか、それとの比較の材料となるその他の音等を客観化した数値で示すと、次のとおりである。

(一) 〈書証番号略〉によれば、地下鉄や国電の車内が八〇ホン、騒々しい街角や同じく騒々しい事務所の内部及び電話のベルが、いずれも七〇ホン、一般のレストランが六〇ホン、他方、静かな事務所の内部が四〇ホンないし五〇ホン、普通の会話が五〇ないし七〇ホン、静かな住宅地の昼間や図書館の内部が四〇ホン程度であることが認められる。

(二) また、〈書証番号略〉によれば、最近の電気製品は音量が低減化され、扇風機や電子レンジが五〇ホン、クーラー吹出音(強)やパソコンのフロッピイディスク作動音及びガスのレンジやコンロの燃焼音が、いずれも四五ホン、クーラー吹出音(弱)が三五ないし四〇ホン、冷蔵庫が三五ホン程度であることが認められる。

(三) なお、騒音の感覚量及び距離減衰の点は、原判決の理由第四、二、4、(一)、(二)(一七一丁表三行目から一七二丁表五行目)のとおりであるから、これを引用するが、要するに、騒音の感覚量は、騒音レベルが一〇ホン増すごとに約二倍となり、逆に一〇ホン減ずるごとにほぼ半減すること、道路騒音のような線騒音は、音源までの距離が二倍になるごとに三ホンずつ騒音レベルが減衰すること、なお、平坦道路に比して、盛土の方が近い範囲に限られるけれども、距離減衰が大きいのである。

(四) ところで、騒音が一般的に人間に与える影響は、聴力や睡眠への影響を初めとして、肉体的・生理学的影響及び精神的・心理学的影響など多様であり、また、さきに若干触れたところからも明らかなように、騒音の特性と人間側の条件によって大きく左右されるものであるが、その詳細は、原判決理由第七、二、1、(二)(二四一丁裏一行目から二四二丁裏一一行目)に説示のとおりであるから、それを引用する。

2  道路騒音と航空機騒音、新幹線騒音との比較

道路騒音の一般的特徴は、原判決の理由第四、二、1、(一)(一六七丁表一一、一二行目)のとおりであるから、それを引用するとして、その末尾に「もっとも、〈書証番号略〉により音響出力(音源の強さ)で比較すると、大型自動車に対し、エアバスは約一〇〇倍、ボーイング七二七型機は約一万倍、新幹線は約一〇〇〇倍であり、周波数構成で比較すると、自動車に比べ航空機や新幹線は高周波帯域の騒音レベルが多いところ、高周波帯域の音が「キーン」という金属性の音であることからすれば、高周波帯域の音の方が人に対する刺激性が強いといえる。

また、当審証人鈴木庄亮の証言によれば、航空機騒音、新幹線騒音は間欠音であるのに対し、道路騒音、特に幹線道路における騒音は、変動の激しい音であるが、定常音の要素も併せ持っていること、自動車は航空機や新幹線に比べると走行速度が遅いため、音の立ち上がりが短冊型ではなく、なだらかなピラミッド型となり、相対的に音の刺激性が弱いことが認められる。」を加える。

3  生活時間別騒音曝露量

個人の一日の生活、行動時間別の騒音に曝露されている量及び割合についての認定、判断は、原判決二四二丁裏末行から二四六丁表末行までと同一であるから、これを引用するとして、要するに、道路騒音などの屋外騒音の侵入による在宅時の曝露量の占める割合は一般に小さく、各人の全曝露量のせいぜい一〇数%以下である。

4  本件道路端における騒音量及び他の道路端における騒音との比較等

騒音に係る環境基準と要請限度についての判断及び昭和四五年ころから昭和五八年ころまでの本件道路端における騒音量と他の道路端における騒音量との比較は、原判決一六七丁表末行から一七一丁裏一行目までと同じであるから、これを引用するが、要するに、本件道路端における騒音レベルは、測定地点により多少の差があるものの、右期間全体を通じてほぼ横這いの状態にあるところ、平日の各時間帯ごとの騒音レベル(L50)は、朝方が七〇ホン前後から八〇ホン余り、昼間が七〇ホン台から八〇ホン余り、夕方が七〇ホン前後から八〇ホン、夜間が六〇ホン台から七〇ホン台の間を示し、その平均値は、朝方及び昼間が七〇ホン余り、夕方及び夜間が六〇数ホン、二四時間平均値は七〇ホン前後であって、殆ど全部の測定地点及び時間帯において環境基準を上回り、要請限度を上回ることさえ少なくないこと、しかし、全国の上位測定点より一〇ホン前後下回る、状況であった。

次に、右の時期以後の騒音の推移について若干補足する。

(一) 当審における鑑定の結果によれば、平成元年五月から八月にかけての本件道路端における騒音は、別紙Cのとおりであって、中央値の平均は、朝七三ホン(A)、昼間七三ホン(A)、夕七〇ホン(A)、夜間六七ホン(A)となっている。

(二) 〈書証番号略〉によると、本件各市の各測定地点における経年変化をみるに、前段のとおり大型車を含む交通量が増加しているのに、騒音レベルは昭和四七年ころから平成二年ころまで殆ど変化のないことが認められる。このことは、交通量の増加により騒音発生源の数が増加することになるものの、それは類似のレベルの騒音の競合量が増えるだけで、必ずしも騒音レベルの上昇と結びつかないという趣旨になるのであろうが、交通量の増加によって、少なくとも騒音が、限りなく定常音に近付くことは確かであり、程度にもよるが、情緒的にはより圧倒的ないし刺激的な雰囲気を醸成することになると思われる。

なお、被告らは、交通量の増加が必ずしも騒音レベルの上昇に結びつかない点を捉え、それにもかかわらず防音工事が進められたのであるから、原告らが実際に曝露を受ける騒音が減少していることになると主張するけれども、原告らが受けているLeqの屋外騒音レベルについていえば、後記のとおりであって、必ずしもいうほどの効果が挙がっているとも解し難い。

(三) そして、〈書証番号略〉によれば、環境庁の「道路周辺の交通騒音状況」の全国的な視野からの調査による昭和六〇年から昭和六三年にかけての騒音レベル上位測定点の状況は、別紙CないしCのとおりであることが認められ、本件道路はそれらの上位測定点に比べると一〇ホン前後低いといえる。

また、〈書証番号略〉によれば、平成元年度における環境基準の達成状況は、四つの時間帯(朝、昼間、夕、夜間)の総てが達成している割合は14.5%、いずれかの時間帯が達成している割合は34.4%、総ての時間帯が超過している割合は51.1%であり、同じく要請限度についてみると、四つの時間帯の総てが達成している割合は72.0%、いずれかの時間帯が超過している割合は24.9%、総ての時間帯が超過している割合は3.1%であること、環境基準の達成度は、大都市域がその他の地域に比してかなり低いこと、が認められる。

(四) 次に〈書証番号略〉によれば、平成元年版における大阪市の幹線道路の路線別騒音レベルは、昼間はおおむね六一ないし七五ホン、平均68.9ホンであり、夜間はおおむね五六ないし七〇ホン、平均63.3ホンであって、前記(一)の当審における鑑定の結果から認められる本件道路の四つの時間帯の各数値に近似した道路も、多数存在することが認められる。

5  原告ら居住地における騒音の実情

(一) まず、日常生活において原告らに曝露される騒音レベルの把握に当たり、屋外における騒音の実情を捨象するのは相当でない。なるほど被告らの指摘するとおり、日常生活の大部分が室内で営まれるケースでは、前叙のとおり道路騒音など、屋外騒音の曝露量はかなり少ないのであるが、それにしても、閉ざされた部屋に籠もったままの生活を想定するのは非現実的であり、当然のことながら毎日外出するとか、そうでなくても窓を開けた生活もあるのであるから、室内値のみを基準に騒音侵害を考えることが相当でないことは明らかである。それに騒音の侵入を軽減するため閉じ籠もった生活を余儀なくされることになれば、その面からの精神的苦痛が伴うことも無視できず、これが騒音による消極的侵害であることは、いうまでもない。

しかも、本訴における原告らの被害なるものは、主として精神的側面という情緒的な被害であるだけに、室内窓閉め、窓開け、屋外という物理的な枠組みによって画然と区別し、他との関連を捨象してその区分した断片ごとのレベルで侵害の有無を評価することも相当でない。むしろ、屋外殊に本件道路端で曝露された最大限の騒音レベルによる被害感が、精神的増幅を伴いながら、室内に持ち込まれ、その残影と室内で受ける騒音とが精神的に相乗的な悪影響を及ぼすことは、通常の事態と考えてよい。それに、〈書証番号略〉によると、日中の騒音が夜の睡眠に影響を与えるとし、その理由として、日中の騒音が夜間の睡眠による補償(疲労回復)を要求する一方、交感神経系の興奮があり、そのアンバランスが不快感を強めるためとする趣旨の報告があることにも留意すべきであろう。

(二) ところで、本件国道は、要所要所に信号機が設置されて交通整理が行われているため、車両の走行が分断されて、信号区間ごとに路線一杯のかなり縦に長い集団を形成し、その集団が信号に従って行動を共にすることになるのは当然の成行と解すべきところ、その集団中には何台かの大型車(多いときには一〇数台以上)が混入しているのが通常であろうから、それらが信号に従って我先にと一斉に発進・加速すると、前叙のようにそれぞれが八〇ホンを超えるエンジン音を発するのであり、それらの音が反響し合う様は、相当に刺激的かつ圧迫感を与えるのであって、喧騒と言って必ずしも言い過ぎではないと思われる。

(三) 本件沿道における騒音レベルの距離減衰、遮音壁等の効果、室内及び窓閉めによる減衰、防音工事、地上からの高さと騒音レベル、本件県道の建設・供用による変化及び交通規制による変化についての判断は、原判決一七二丁表六行目から一七五丁表四行目までと同一であるから、これを引用する。

(四) そこで、原告らに曝露されている騒音の実情について考察する。

(1) 原審における検証の結果(第二回)等により認められる昭和五九年九月の本件沿道の左記原告らの居宅の状況は、原判決二一三丁表六行目から二二二丁裏五行目までの通りであるから、これを引用するが、要するに中央値(L50)でまとめると、深夜間の室内騒音レベルは、開口部開放で四一ないし五六ホン、閉鎖で三三ないし三九ホン、早朝の室内騒音レベルは、開放で四四ないし六〇ホン、閉鎖で三二ないし四五ホンとなるのであり、本件道路端の騒音レベルと比較すると、深夜は開放で一二ないし二三ホン、閉鎖で二六ないし三三ホン、早朝は、開放で一〇ないし二三ホン、閉鎖で二四ないし三七ホンの差(減衰)がある。

なお、検証の対象となったのは、原告番号30絹脇房子、同65雑古ノブ、同123八木勇高、同16中井照一、同32瓦庄市、同80越智明彦の六戸である。

(2) 当審における騒音鑑定は、原告らのうち四七戸を対象として、各戸の室内窓閉め、窓開け及び屋外並びに個別事情によってはその敷地につき、それぞれ測定時間二時間(室内の測定は、窓閉時及び窓開時を各一時間連続して行い、一〇分間連続測定を各六回の合計一二回、屋外の測定は右時間帯の一〇回)、それとは別に右各戸の屋外につき、二四時間(各正時から一〇分間連続測定を二四回)の測定をした結果の報告であって、個別的に散見される首肯できないバラツキの点を別にすれば、全般的にいって測定に格別指摘されるような問題点は窺えないから、鑑定結果の平均値は、実情の一端を窺いうるものとして、基本的に尊重されてしかるべきである。しかも、それらの平均値は、そのまま鑑定対象原告らが日ごろ曝露を受けている騒音量の実情を反映しているとして一般化しても、それほどかけ離れたものではないかとも思われる(すでに触れたように(理由第五、二、3)当審における鑑定結果によると、平成元年五月一六日(火曜日)正午から翌一七日(水曜日)正午までの交通量は、他の日の約三分の二に過ぎず、この日に原告番号18、20、21、44、52、の五戸につき騒音量の鑑定が実施されているので、右五戸についての鑑定の数値が日常の騒音量を正確に反映しているかが一応問題となるが、右五戸について七月五日に実施された再測定の数値と殆ど変わりがないことからみて、右五戸の五月一六、一七日の数値も、日常の騒音レベルをほぼ正確に反映しているとみて差し支えないと考えられることも、本文の推測を可能にするといえよう。)。しかし、限られた資料に基づいて、できる限り日ごろ曝露を受けている騒音量を客観的かつ妥当に推認するためと、右のバラツキを補正する方法として、共通基盤により検討可能な各戸の屋外Leqの平均値を前提とし、鑑定対象原告らを屋外騒音の近似する変化要因に基づいて類型化して、そのグループごとにある程度近似する屋外平均値から上限と下限の数値を抽出し、その巾のある数値をもって、グループ内の原告らの日ごろの原則的な騒音屋外値とするのが相当というべきである(もっとも、顕著な個別要因があれば、それに即した修正を施す必要はある。)。

なお、ここでLeq値を前提とする理由について触れると、本件道路からの交通騒音のように、時間とともに騒音の大きさが不規則に変化する場合、このような変動する騒音が人間の生活環境に及ぼす影響を評価するのには、一定時間内の変動する騒音のエネルギー量を平均して対数変換を行ない、右時間内で等しいエネルギーをもつ定常騒音の騒音レベルで表現する方法が優れており、国際的にも採用されているもので、これが等価騒音レベル(Leq)である(他方、環境基準はL50をもって定められているが、騒音レベルの変動が少ないとき(例えば、最大値と最小値の差が五デシベル以下)はLeqとL50の差はほぼ一デシベル以内と考えてよいが、変動が一〇デシベル以上になるとその差は数デシベルになり、常にLeq値がL50値よりも大きい、といわれている。)。よって、交通騒音の特質からして、Leq値によって騒音の程度を評価するのが相当と考える。

(3) そこでまず、同鑑定の結果、〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨を総合し、次の分類を経て所期の数値を把握することとした。

ア 本件沿道を屋外騒音の近似する変化要因に基づいて、別紙Cのとおり、横軸に交通量によって、①深江交差点より神戸側、②同交差点から西宮インターチェンジまで、③同インターチェンジから尼崎側の三地域に、縦軸に道路構造によって、①標準部(本件国道の上に本件県道が設置されている部分)、②ランプ部(右標準部に本件県道への出入口等が設置されている部分)、③高架部(本件国道の高架構造部分)、④段差部(本件国道が周辺道路より盛り上がっている部分や同国道に遮音壁が設置されている部分)の四区画に、それぞれ分類する。

イ 次に、右両者の交錯により画定された右Cの各枠内に、両条件を充足する鑑定対象原告ら方を原告番号で位置づけすると、左記のとおりAないしS(基準点AないしDとは別の符号とする。)の一九グループとなった。

a Aグループ 深江交差点より神戸側の見通しのよい標準部の沿道

3、5、8、21、32、37、38、39、47

b Bグループ 深江交差点から西宮インターチェンジまでの見通しのよい標準部の沿道

62、63、64、65

c Cグループ 西宮インターチェンジから尼崎側の見通しのよい標準部の沿道

86、93、95、128、151

d Dグループ 深江交差点より神戸側の標準部で見通しのよい二列目以降

20

e Eグループ 深江交差点から西宮インターチェンジまでの標準部で見通しのよい二列目以降

75

f Fグループ 西宮インターチェンジから尼崎側の標準部で見通しのよい二列目以降

124、126

g Gグループ 深江交差点から西宮インターチェンジまでの標準部で見通しの悪い二列目以降

h Hグループ 西宮インターチェンジから尼崎側の標準部で見通しの悪い二列目以降

125

i Iグループ 深江交差点より神戸側の見通しのよいランプ部の沿道

12、15

j Jグループ 深江交差点から西宮インターチェンジまでの見通しのよいランプ部の沿道

85

k Kグループ 深江交差点より神戸側のランプ部で見通しのよい二列目以降

l Lグループ 深江交差点から西宮インターチェインジまでのランプ部で見通しのよい二列目以降

56、58、80

m Mグループ 深江交差点より神戸側のランプ部で見通しの悪い2列目以降

10、13、16

n Nグループ 西宮インターチェンジから尼崎側の見通しのよい高架部の沿道

88、102、111、114、116

o Oグループ 西宮インターチェンジから尼崎側の高架部で見通しのよい二列目以降

113、120

p Pグループ 深江交差点より神戸側の見通しのよい段差部の沿道

18、44

q Qグループ 深江交差点から西宮インターチェンジまでの見通しのよい段差部の沿道

52、61、73

r Rグループ 西宮インターチェンジから尼崎側の見通しのよい段差部の沿道

123

s Sグループ 深江交差点から西宮インターチェンジまでの段差部で見通しのよい二列目以降

50、55

ウ そこで、右と同じ手法により鑑定対象外原告らを、原告番号で別紙Cに位置づけすると、鑑定対象原告を含めた全員は次のとおりグループ分けされることとなり(Cの原告番号は、以上により位置付けされた結果の表示である。)、後記G、Hのグループを除き、右に推認したグループごとの屋外値が、そのグループに位置付けされた鑑定対象外原告らにも妥当するものと解すべきである。

a Aグループ

2、3、4、、5、6、7、8、21、22、24、31、32、33、34、36、37、38、39、40、41、45、46、47、48、49

b Bグループ

62、63、64、65、66、67、68、74、82、83

c Cグループ

86、89、90、92、93、94、95、96、97、128、129、132、134、135、136、137、138、139、140、141、151

d Dグループ

20、28、29

e Eグループ

75、76

f Fグループ

91、124、126

g Gグループ

72

h Hグループ

125、131

i Iグループ

11、12、14、15、17、23、25、26、30

j Jグループ

69、70、78、81、84、85

k Kグループ

1

l Lグループ

56、57、58、77、80

m Mグループ

9、10、13、16

n Nグループ

87、88、98、101、102、104、106、108、109、110、111、114、116

o Oグループ

113、115、120、121、143、149、151、152

p Pグループ

18、19、43、44

q Qグループ

51、52、54、60、61、71、73

r Rグループ

123

s Sグループ

50、55

エ ところで、交通量の多少の増減が、必ずしも騒音レベルの高低に影響を与えないと考えても、誤りとはいえないことは、前叙のとおりであるから、この点に着眼すると、地域間に騒音レベルの高低に影響を及ぼす程の交通量の増減を認め難いと解して妨げのない本件道路の場合には、この見地より右一九グループは、①A、B、C、②D、E、F、③G、H、④I、J、⑤K、L、⑥M、⑦N、⑧O、⑨P、Q、R、⑩Sの一〇グループに集約することができる。

オ 次に、このグループ別に、控え目の原則に従って、まず鑑定対象原告ら方の屋外値を推認し、それを同グループに属する原告らの被曝露量とした。なお、距離や測定場所等の事情に応じて個別に補正する必要性を認めた原告ら方については、それに即した補正を行った(当審鑑定の結果中の屋外での二四時間平均のLeq値及びL50値を右グループ別に分類したのが別紙Cである。)。

a A、B、Cのグループ

数値の低い原告番号3、5、32、35の各原告の測定値については、被告らも特異で例外として扱うべきものと主張しており、これらを除くと、ほぼ七〇ホン前後から七〇数ホンの範囲にあって、原告ら測定の数値〈書証番号略〉とも一致しており、本件道路からの距離(以下「距離」という。)も全員が数メートルから十数メートルと同じ条件にあると見なしても差し支えないといえる。よって、このグループは同じ量の騒音に曝露されていると推認するのが相当である。

b D、E、Fのグループ

原告番号75を除いて、測定された騒音量及び距離からみて、このグループはほぼ六五から七〇ホンの間という同じ条件下にあるとみられる(原告ら測定の数値によると原告番号29の数値が低いが、他の条件からみて、単に原告ら測定の数値が低いとの理由のみで別途補正すべきとする理由は見当たらないといえる。)。

原告番号75については、距離も遠く、Leq値は六五ホン以下であると認められる。

c G、Hのグループ

原告番号125(距離三〇m)は六四ホンである。

d I、Jのグループ

鑑定及び原告ら測定の数値によるとほぼ六五ないし七〇ホンの範囲内の騒音量と推認するのが相当である。

e K、Lのグループ

距離三二mの原告番号80を除き、六五ないし七〇ホンの範囲内の騒音量と推認するのが相当である。

f Mのグループ

いずれも騒音量はほぼ六〇ホン以下であり、距離は二〇m以上である。

g Nのグループ

鑑定の数値と原告ら測定の数値によれば、いずれの原告も六五ホンから七〇ホンの範囲内にあると推認するのが相当である。

h Oのグループ

いずれも騒音量はほぼ六〇ホンを超える程度と推認される。

i P、Q、Rのグループ

いずれも騒音量は七〇ホン程度と推認するのが相当である。

j Sのグループ

いずれも鑑定の数値どおり、原告番号50(距離26m)は六五ホン以下、同55(距離20m)は六五ないし七〇ホンと認定するのが相当である。

カ G、Hのグループについては、鑑定をした原告番号125(距離三〇m)は六四ホンであるところ、鑑定をしていない同72は距離四四mであるから騒音量はそれ以下であり、同131は同125より一三m近い距離一七mであるから、騒音量は六五ホンをやや上回る程度と推認するのが相当である。

なお、被告らは、ほぼ右と同様の手法により得られる数値を、憶測の域を出ないものと批判するが、失当というほかない。

(4) 屋内値について

当審における鑑定の結果によれば、鑑定を実施した四七戸についての屋内における窓開、窓閉の状態における騒音レベル(二時間のLeqの平均値)は別紙Cのとおりである。

三排ガス

後述のとおり被告国において大気汚染の防止対策が実施されて来たにもかかわらず、われわれの身辺で最もその実効が挙がっていないのは、自動車の排ガス中の窒素酸化物、殊に二酸化窒素対策と思われる。その原因を辿ると、一方で、その低減技術の開発が進んでいないところ、他方で、その大きな発生源である大型ディーゼル車等が増加したことによるものであって、その動向に強い関心を寄せざるをえないのである。

1  窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質の位置付け

自動車のエンジンの稼働自体により発生する大気汚染物質は、ガソリン車では一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(GmHn)及び鉛化合物であり、ディーデル車では一酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素、ばいじん及び硫黄酸化物(SOx)であること、そのほか、ブレーキ、クラッチ、タイヤ及び路面の磨耗により発生する浮遊粒子状物質も、自動車の走行に伴い発生することは、弁論の全趣旨により明らかであるところ、大気汚染防止法では、一酸化炭素、炭化水素、鉛化合物、窒素酸化物及び浮遊粒子状物質を「自動車排出ガス」と定めている(同法二条六項、同法施行令四条)ことは、明らかである。

しかしながら、①〈書証番号略〉「大気汚染と健康被害との関係の評価等に関する専門委員会報告、六一年四月」によると、我が国の大気汚染は、生体影響の観点から、二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)、浮遊粒子状物質の三つの汚染物質を、主な原因物質として取り上げることにしたことが認められること、②〈書証番号略〉によれば、大気中の一酸化炭素は環境基準を遥かに下回る低濃度であることが認められるし、〈書証番号略〉によれば、昭和五二年四月にレギュラーガソリンが無鉛化された結果、自動車が鉛化合物の発生源とはいえなくなったと認められること、③前掲②の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、二酸化硫黄あるいは硫黄酸化物の排出量は、工場や発電所といった固定発生源が大きな役割を占めているものの、環境基準を達成していると認められること、④もっとも、環境基準が達成されているからといって、健康に被害がないといえないのはもちろんであるが、本件訴訟において、原告らも排ガスによる汚染の重要な指標として二酸化窒素を中心に主張しているのに即し、以下においては、窒素酸化物及び浮遊粒子状物質を中心に、排ガスについて考察する。

2  環境濃度

〈書証番号略〉によれば、環境濃度(バックグラウンド)は、地球化学的意味では窒素酸化物0.001ないし0.006ppm程度、一酸化窒素〇ないし0.006ppm程度、二酸化窒素0.0002ないし0.005ppm程度であり、大規模な発生源のない町村などでは一酸化窒素0.011ppm程度、二酸化窒素0.014ppm程度であること、〈書証番号略〉によれば、我が国での浮遊粒子状物質の環境濃度は0.02ないし0.03mg/m3であることが認められる。

3  環境基準

〈書証番号略〉によれば、公害対策基本法九条に基づく環境基準は、現在、二酸化窒素については、ザルツマン試薬を用いる吸光光度計による測定値(ザルツマン係数0.72)の、一時間値の一日平均値が0.04ppmから0.06ppmの間またはそれ以下であり、浮遊粉じんのうち粒径が一〇μ(ミクロン)以下の浮遊粒子状物質については、濾過捕集による重量濃度測定方法またはこの方法によって測定された重量濃度と直線的な関係を有する量が得られる光散乱法による測定値の、一時間値の一日平均値が一m3あたり0.2mg以下であることが認められる。

なお、二酸化硫黄等の環境濃度や環境基準、二酸化窒素及び浮遊粒子状物質の改訂前の環境基準の詳細は、原判決一七八丁裏二行目から一八一丁裏一一行目までのとおりであるから、これを引用する。

4  測定値

(一) 昭和五六ないし五八年までの測定値

排ガスについての、一般局(一般環境大気汚染測定局)、沿道局(自動車排出ガス測定局)及び大気汚染測定車による昭和五六ないし五八年までの測定結果の各数値の認定及び右数値についての評価は、当裁判所も原審と同一であるから、原判決一八一丁裏一二行目から二〇〇丁裏三行目まで(原判決第四、四、2)をここに引用する。

(二) 右の時期以降の二酸化窒素及び浮遊粒子状物質の測定値

(1) 二酸化窒素

前述したように、新環境基準が、「年間における日平均値の低い方から九八パーセントに相当するものによって評価を行う。」とされていることから、以下においては、一日平均値の年間九八パーセント値と、0.06ppmを超えた日数をみることとする。

弁論の全趣旨によれば、被告ら主張の数値であることが認められる。

ア 神戸市東部(沿道局) (昭和四八年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五九年度 0.059ppm

〇日

昭和六〇年度 0.054

〇日

昭和六一年度 0.057

〇日

昭和六二年度 0.072

一七日

昭和六三年度 0.061

一日

イ 芦屋市打出(沿道局) (昭和四九年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五九年度 0.063ppm

八日

昭和六〇年度 0.061

三日

昭和六一年度 0.070

二五日

昭和六二年度 0.081

六八日

昭和六三年度 0.073

三二日

ウ 西宮市津門川(沿道局) (昭和四八年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五九年度 0.066ppm

五日

昭和六〇年度 0.061

二日

昭和六一年度 0.058

〇日

昭和六二年度 0.069

二一日

昭和六三年度 0.069

一七日

エ 西宮市甲子園(沿道局) (昭和五七年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五九年度 0.060ppm

〇日

昭和六〇年度 0.060

〇日

昭和六一年度 0.062

二日

昭和六二年度 0.063

六日

昭和六三年度 0.065

九日

オ 尼崎市武庫川(沿道局) (昭和五〇年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五九年度 0.052ppm

〇日

昭和六〇年度 0.059

〇日

昭和六一年度 0.057

〇日

昭和六二年度 0.067

一二日

昭和六三年度 0.067

一三日

カ 神戸市深江(一般局) (昭和四八年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五九年度 0.049ppm

〇日

昭和六〇年度 0.045

〇日

昭和六一年度 0.050

〇日

昭和六二年度 0.059

〇日

昭和六三年度 0.057

〇日

キ 西宮市役所(一般局) (昭和四八年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五九年度 0.048ppm

〇日

昭和六〇年度 0.052

〇日

昭和六一年度 0.052

〇日

昭和六二年度 0.058

〇日

昭和六三年度 0.059

〇日

ク 西宮市鳴尾公民館(一般局)(昭和四八年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五九年度 0.054ppm

〇日

昭和六〇年度 0.053

〇日

昭和六一年度 0.055

〇日

昭和六二年度 0.058

〇日

昭和六三年度 0.052

〇日

ケ 尼崎市域内高校(一般局) (昭和四八年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五九年度 0.055ppm

〇日

昭和六〇年度 0.051

〇日

昭和六一年度 0.053

〇日

昭和六二年度 0.061

一日

昭和六三年度 0.060

〇日

コ なお、継続二二測定局における二酸化窒素および一酸化窒素の年平均値の単純平均値の経年変化(昭和四六年度から昭和六三年度まで)のグラフは別紙Eのとおりであり、昭和六二年度と昭和六三年度の全国の測定局の二酸化窒素日平均値の年間九八%値の分布と二酸化窒素年平均値の分布の表とグラフは別紙EないしEのとおりである。

そして、〈書証番号略〉により、昭和六三年についていえば、本件道路の沿道局五局のうち、阪神地区二七局の平均値を超えているのは一局であり、その最も測定値の高い甲子園局でも二七局中一三番目であること及び京浜地区四四局の平均値を超えているのは一局であり、その最も測定値の高い甲子園局でも四四局中一四番目であること(阪神地区及び京浜地区の詳細は別紙E、E、阪神地区の範囲は大阪市、尼崎市、西宮市、芦屋市、神戸市の各全域、京浜地区の範囲は東京都特別区、川崎市、横浜市の各全域)が認められる。

(2) 浮遊粒子状物質

〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、本件道路沿道においても、昭和六二年度から西宮市甲子園局、昭和六三年度から芦屋市打出測定局において、浮遊粒子状物質の測定が開始されたこと及び右二つの沿道局と四つの一般局の、一日平均値の二%除外値の数値(一立法メートル当たりのミリグラム)と、環境基準である一日平均値0.1ミリグラムを超えた日数が次のとおりであることが認められる(なお、年平均値その他につき別紙Eのとおり)。

ア 西宮市甲子園(沿道局)

昭和六二年度 0.120

一八日

昭和六三年度 0.136

一九日

イ 芦屋市打出(沿道局)

昭和六三年度 0.128

二九日

ウ 神戸市深江(一般局)(昭和四八年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五八年度 0.075

二日

昭和五九年度 0.088

〇日

昭和六〇年度 0.071

〇日

昭和六一年度 0.080

〇日

昭和六二年度 0.095

三日

昭和六三年度 0.095

二日

エ 西宮市役所(一般局) (昭和四八年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五八年度 0.068

〇日

昭和五九年度 0.069

〇日

昭和六〇年度 0.075

〇日

昭和六一年度 0.069

〇日

昭和六二年度 0.068

三日

昭和六三年度 0.077

二日

オ 西宮市鳴尾公民館(一般局)(昭和四八年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五八年度 0.079

二日

昭和五九年度 0.083

二日

昭和六〇年度 0.095

〇日

昭和六一年度 0.080

〇日

昭和六二年度 0.087

〇日

昭和六三年度 0.076

〇日

カ 尼崎市城内高校(一般局) (昭和五〇年度以降の全体につき別紙Eのとおり)

昭和五八年度 0.126

二六日

昭和五九年度 0.154

三〇日

昭和六〇年度 0.130

二三日

昭和六一年度 0.138

三七日

昭和六二年度 0.153

三〇日

昭和六三年度 0.125

一二日

キ 全国の測定値

〈書証番号略〉によれば、全国で、昭和六二年度は九〇箇所、昭和六三年度は一一九箇所の沿道局で有効測定が実施され、昭和六二年度についていえば西宮甲子園局が高い方から三三番目、昭和六三年度についていえば西宮甲子園局が高い方から二八番目、芦屋市打出局が二九番目であることが認められる。

ク 大都市地域の測定値

〈書証番号略〉によれば、昭和六二年度は阪神地区で四箇所、京浜地区で一四箇所の、昭和六三年度は阪神地区で六箇所、京浜地区で一六箇所の沿道局で有効測定が実施されているが、本件道路沿道の年平均値は、両年度の両地区の年平均値の単純平均値をいずれも下回っており、順位も阪神地区においては昭和六二年度が高い方から四局中三番目、昭和六三年度が六局中同じく三番目と四番目、京浜地区においては昭和六二年度が一四局中低い方から二番目に相当し、昭和六三年度が一六局中同じく各七番目に相当していることが認められる。

5  尼崎市内の交通量の増減と二酸化窒素濃度の変化

尼崎市内には六箇所の一般環境大気測定所と八箇所の自動車排出ガス・騒音・交通量測定所が設置されている(その所在番地及び地図上の位置は別紙E、のとおり)が、市内主要五路線の自動車交通量の昭和五四年度から同六三年度にかけての経年変化及び右時期に対応する二酸化窒素濃度の経年変化によれば、本件国道の交通量の約三〇%の交通量しかない県道尼崎池田線沿道の二酸化窒素濃度が本件国道沿道の二酸化窒素濃度を上回っておるところ(ただし、昭和六三年度は同じ濃度)、このことは、道路沿道の二酸化窒素濃度は、道路を走行する自動車の大型車の混入率をも想定した量によって、必ずしも規定されるものではないことを示していると考えられる。

四振動

1  振動の一般及び高架道路における特徴等

道路振動の一般的特徴及び発生原因、距離減衰(距離が二倍になると約六デシベル減衰する。)、高架道路の特徴、防除方法、要請基準(第一種区域は昼間六五デシベル、夜間六〇デシベル、第二種区域は昼間七〇デシベル、夜間六五デシベル。)、遮音築堤等の効果(平均約2.8デシベル減少)、制限速度の変更による効果についての当裁判所の認定、判断は原判決と同一であり、その詳細は、原判決一七五丁表六行目から一七六丁裏八行目まで及び一七七丁裏六行目から一七八丁表八行目までのとおりであるから、これを引用する(ただし、一七五丁表七行目の「甲A第二九五号証」を「甲A第五七六、五七七号証」と改める。)。

2  検証の結果

原審第一回検証の結果によれば、昭和五二年七月二〇日午後に原告ら宅六戸につき検証が実施されたが、その総ての家屋について、「自動車走行に伴うものと思われる振動は感じられなかった。」ことが認められる。

右検証が行われた六戸は、原告番号8番藤原聖士、同27番鍬形みね子(当時)、同52番樋口善昭、同59番多田寛治(当時)、同61番遠山重雄、同97番南条みちえの各居宅である。(27番鍬形と59番多田については原告及び被告ら双方から控訴がなされていない。)。

3  測定値

(一) 昭和五七年度まで(尼崎市、西宮市)及び昭和五八年度まで(神戸市、芦屋市)の本件道路沿道の振動の測定値の認定及びこれに対する評価については、次に改めるほかは原判決一七六丁裏一一行目から一七七丁裏五行目までのとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決一七六丁裏一一行目の「第二九五号証」と一七七丁表一行目の「及び第一〇六号証」を削除し、一七六丁裏一二行目から一三行目にかけての「第三一八、三一九号証」を「第三一八号証の一ないし四、第三一九号証」と改める。

(2) 原判決一七七丁表四行目(別紙D①)の「四八年八月二九日」を「四九年八月二九日」と訂正する。

(3) 別紙D⑪の芦屋市呉川町欄、昭和五五年度「昼五二・夜五〇」を「昼五〇・夜五二」と、昭和五六年度「昼五〇・夜四七」を「昼五三・夜五〇」と、昭和五七年度「昼四九・夜四七」を「昼四六・夜四三」と訂正する。

(二) 昭和五八年度あるいは昭和五九年度から平成元年度まで(振動の単位はデシベル、いずれも道路端におけるL10)

(1) 尼崎市武庫川町(要請限度 昼六五、夜六〇)

〈書証番号略〉によれば、次のとおり認められる。

昭和五八年度 昼四六、夜四三

昭和五九年度 昼四七、夜四四

昭和六〇年度 昼四六、夜四三

昭和六一年度 昼四五、夜四三

昭和六二年度 昼四六、夜四三

昭和六三年度 昼四五、夜四三

平成元年度  昼四四、夜四三

(2) 西宮市久保町(要請限度 昼七〇、夜六五)

〈書証番号略〉によれば、次のとおり認められる。

昭和五八年度 昼五〇、夜四六

昭和五九年度 昼四九、夜四五

昭和六〇年度 昼四九、夜四六

昭和六一年度 昼五〇、夜四六

昭和六二年度 昼五〇、夜四六

昭和六三年度 昼四九、夜四七

平成元年度  昼五〇、夜四七

(3) 芦屋市(要請限度はいずれの場所も 昼六五、夜六〇)

〈書証番号略〉によれば、次のとおり認められる。

昭和五九年度 昼四八、夜四六 (平田町、本件国道沿線)

昭和六〇年度 昼四八、夜四五 (平田町、本件国道沿線)

昭和六一年度 昼三八、夜三三 (春日町、国道二号沿線)

昭和六二年度 昼四六、夜四五 (若宮町、本件国道沿線)

昭和六三年度 昼四〇、夜三六 (春日町、国道二号沿線)

平成元年度  昼四七、夜四五 (平田町、本件国道沿線)

(4) 神戸市東灘区青木(要請限度昼六五、夜六〇)

〈書証番号略〉によれば、次のとおり認められる。

昭和五九年度 昼四九、夜四七

昭和六〇年度 昼四九、夜四八

昭和六一年度 昼四八、夜四八

昭和六二年度 昼五二、夜四九

昭和六三年度 昼五〇、夜四七

平成元年度  昼五二

五まとめ

以上に説示したところからも明らかなように、本件道路が自動車の走行の用に供されることにより発生する騒音等のうち、原告らに対する直接的な侵害として認められる最も重要なのが騒音であり、これに浮遊粒子状物質が加わるのであるが、これらに付随し間接的な侵害作用を及ぼすのが、浮遊粒子状物質を除く排ガスであるというべきである。たとえば、排ガスの成分である窒素酸化物は刺激性を有し、それだけでも嫌悪感を招くのが通常であろうが、さらに、人の健康への被害をもたらす性質があるから、直接に被害を及ぼす程度に達するものでないにしても、それを受ける者に少なからざる心理的負荷をかけることは、否み得ないというべきである。したがって、これが騒音に伴うことになれば、騒音被害には情緒的要素があるから、その情緒を刺激することになるからである。

そのうちの騒音については、前叙のように屋内値、屋外値といった断片ごとのレベルで評価するのは相当でない。むしろ、情緒的な被害を想定する限り、一般的に被曝露時間の長い屋内値ではなく、基本的には屋外値を中心に据えて総合的に影響性を評価するのが、真相に合致すると解すべきである。

もっとも、かかる見地からの騒音による侵害の程度の評価は、さきに分類して推認した屋外騒音レベルに依拠して行わなければならない。

第七被害

一被害把握の観点

前叙のように、人は、平穏な環境の下で、健康かつ快適な生活を享受する利益を有するところ、騒音、排ガス及び粉じん等は、それ自体が身体的被害を招く危険性を孕んでいるのであるから、それらを排除ないし回避しながら、日常生活の円滑なリズムを維持するためには、かなり緊張した対応と努力を必要とすると思われる。

そこで、本件で最も問題になる騒音を例として、いま少し具体的に触れると、その曝露を受ける者にとって、その程度が仮に許容限度をかなり下回り、引用した原判決が指摘する「うるささ反応」程度の段階であったとしても、少なくとも不快の念を抱くのが通常であろう。殊に、連日、しかも最も静謐が望まれる休息の時間を中心として恒常的にその状態が続くとすれば、疲労の回復を遅らせるなど、それだけで不快の域を超えた心理的負担を受けたとしても不思議なことではない。さらに、かなり高レベルの騒音に、濃度はそれほどでないにしても排ガスが伴って、複合的に影響するとすれば、その悪循環により身体的被害を招くことが懸念される段階に達し、しかも、その状態の低減することが必ずしも望み得ない状況にあったとすれば、不安感を醸成するというにとどまらず、深刻な心理的影響を受けて精神的苦痛を被り、疲労の蓄積、食欲不振、内臓の働きの変調を来たして、日常活動の阻害を招くなどの生活妨害(以下単に「生活妨害」ともいう。)を生ずるに至ることは、十分に考えられるところというべきである(それだけに、騒音では情緒的影響を軽視することができない。)。

したがって、この段階に達すれば、現実の身体的被害が生じなくとも、その原因となりうる深刻な加害性をみてとるのが相当であり、それにより被る精神的苦痛は慰謝されるに価するというべきである。

のみならず、さらに進んで危険性が増幅し、身体的被害が生じることになれば勿論のこと、それを招く危険性が、相当の蓋然性をもって身に迫って来ることが予測されることになれば、その原因除去の対応が検討されなければならなくなることは、いうまでもない。

以下、右の見地から、原告らの主張する被害について検討する。

二因果関係把握の手法に関する評価について

本件のような事案において、原因と被害との因果関係を把握する手法としては、アンケート調査、疫学調査及び動物実験(特に大気汚染について)が用いられているが、そのいずれについても信頼性のある推論を導くためには、遵守されるべき内在的な制約が存すると共に、その推論の妥当性についても限界が存するところ、その点の手法と評価の詳細は原判決の理由七、一(二二三丁表一行目から二四一丁表一行目)のとおりであるから、それを引用する。

三騒音による被害

被告らも指摘するように、音に対する人の受け止め方は多様であり、主観的な色彩が強い。ただ、騒音は騒音としてしか受け止めようがないであろうが、受け止め方の強弱ないし影響度は、被曝露者の主観的な条件によって左右されるうえ、客観性に乏しいとの評を免れえないであろう。したがって、被告らが騒音被害について、陳述書等に依存せず、客観的な把握をして評価すべきであると強調することも、理解できなくはない。しかし、まず騒音による個々の被害の全貌を定量的に明らかにすることが殆ど不可能なことであるうえ、事柄の性質上、その主観的な受け止め方を度外視しては、騒音被害の実体を認識、把握することはできないという制約がある。それだけに、原告らの陳述書、アンケート調査等は、被害把握に不可欠な証拠資料といわなければならない。後述の睡眠脳波研究等にアンケート調査が併用されるのも、右の間の事情を物語るものというべきである。

もっとも、そのことはさきにも指摘したように、騒音に曝露されたときの影響の把握が主観的なものになることを意味しているのであって、本件に即していえば、不快感、いらだち等のストレスによる心理的、精神的な被害をはじめとして、睡眠妨害その他の日常生活における生活妨害まで広範であり、しかも各人の全体としての被害の内容・程度等も複雑、多岐かつ微妙で、一律に把握できない結果となりうる。しかしながら、同時に、一定レベルの騒音を前提として、それにより通常生ずる被害を、ある程度の巾をもって想定することは可能というべきであるから、その見地に基づく評価を加えて、類似した曝露条件下の原告らについて、性質及び程度において差異がないと認められる被害部分を把握しうると解されるのであり、そういった枠組みのなかでの主観の積み重ねにより最小限度の共通の被害を客観化して把握することは可能というべきである。

1  睡眠妨害

(一) 一般的知見

〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 睡眠の特徴と定義

睡眠とはどのような生理状態を指すのかが解明し尽くされていないから、その生理状態を厳密に定義づけることは困難であるが、騒音が程度はともかく、睡眠の妨害となりうることは経験則上明らかである。いうまでもなく、人間にとって、睡眠は、少なくとも生命を維持し、体力を回復増進させるうえで不可欠の休息であるところ、二四時間周期のリズムをもって繰り返されている活動及び休息の生活サイクルが、外部からの刺激、殊に聴覚刺激によって睡眠時間を減少させられ、あるいは睡眠のリズムの乱れを余儀なくされることになれば、人としての基本的な生活が大なり小なり阻害されることになるところ、騒音はこのような阻害を及ぼす可能性を秘めた刺激の一種であることに疑いはない。

(2) 睡眠時間の把握

ところで、騒音による睡眠妨害の有無、程度を検討するに当たっては、睡眠に当てられる時間帯と騒音曝露の時間帯との相関関係について考察しなければならないところ、昭和五五年は同四五年に比べ、日本国民全体の平日の起床時間と就寝時間のいずれもが遅くなってきてはいるものの、平日においては、平均的な睡眠量が七時間五二分であり、夜一〇時までに寝ている者累計三七%、一一時までに寝ている者累計七〇%、午前六時までに起きている者累計三八%、同七時までに起きている者累計八四%であることや、兵庫県知事が環境基準における本件沿道の夜間の時刻を夜一〇時から朝六時までと定めたことなどを併せ考えると、就寝夜一〇時、起床朝六時と想定して、その時間帯における原告らの睡眠に及ぼす本件道路騒音の影響を検討するのが相当であろう。

(3) 睡眠に対する騒音の影響

睡眠に対する騒音の影響を検討するに当たり、当然のことながら本件に即して騒音に対し、受動的に曝露される場合を前提にしなければならないところ、かかる騒音が各種の実験により、就眠妨害や覚せいの契機となるほか、睡眠深度を浅くし、睡眠中の血液や尿成分を変動させることが知られているが、その影響の発現とその程度は、さきにも触れたが、騒音側、人間側の様々な要因によって左右される。騒音側からいうと、音の大きさ(騒音レベル)、音質(周波数構成)、衝撃性(背景音からの立ち上がり)、持続時間、頻度などによってその影響の程度は大小様々であり、人間側についても、年令(老人は若い人よりも敏感になり、小さな音でも覚せいする。)、性(女性の方が敏感である。)、社会関係(騒音源に対する利害関係など)、心配事やストレス、暗示、健康度、その時々の心身の状態、個人の気質(感受性など)や体質などによっても左右される。また、寝室の温度、湿度、遮音性、光や気圧、季節、地形なども無関係とはいえない。

騒音の影響は、これらの諸要因が相互に関係しているものの、睡眠自体の生理が解明し尽くされていないこともあって、睡眠妨害の現われとその程度につき、どの因子が具体的にどのような役割を果たしているかについては、未だ十分に解明されていない。

そして、我国をはじめ、各国でも様々な環境基準等が提唱されているが、騒音の人体に及ぼす影響の複雑性のため、当該基準を超えると必ず何らかの被害が出るとか、当該基準以下であれば被害は発生しないとかの絶対的な数値は確立されていない。

(二) 他の地域における睡眠時の平均的騒音レベル

〈書証番号略〉によれば、次の事実が認められる。

名古屋市及びその周辺に居住する有職者(農業従事者を除く)一四二名の一日を主要な九つの行動に分類し、各行動別に等価騒音レベル(Leq)の平均値を算出した結果を示すのが別紙Cであり、名古屋市及びその周辺に居住する主婦五〇名、仙台市に居住する主婦四五名の一日を主要な一六の行動に分類し、各行動別に等価騒音レベルの平均値と標準偏差を算出した結果を示すのが別紙Cである。また、仙台市に居住する者または仙台市に職場を持つ有職者を六つの職種に分類し、六つの行動形態ごとの等価騒音レベルについて被検者間の算術平均値を算出した結果を示すのが別紙Cである。

測定期間は昭和五二年から同五四年、騒音曝露計は携帯用測定器、測定方法は、マイクロホンを肩口の襟にクリップで留めることとし、睡眠中は枕元に置くこととされた(なお、正面方向から音がくる場合は、両耳で聞いた方が片耳で聞いたときより六デシベル(A)相当だけ音の大きさが上昇する。)。

これらの各表によれば、睡眠時間中の曝露騒音レベルは、名古屋市の主婦がLeq44.7デシベル(A)、仙台市の主婦がLeq44.5デシベル(A)、仙台市内に職場を持つ有職者(したがって、市外に居住している者を含む)がLeq42.1デシベル(A)である(なお、当審における鑑定の結果及び〈書証番号略〉によれば、夜間における室内窓閉めの状態での騒音レベルは、Leq値で二五ないし四七デシベル(A)、平均三八デシベル(A)である。)。

(三) 従来のアンケート調査、実験研究等について

従来のアンケート調査、調査研究についての判断は、次に訂正、付加するほかは原判決二七五丁裏五行目から二九〇丁裏二行目までと同一であるから、これを引用する。

(1) 原判決二八三丁裏二行目から同七行目までを次のとおり改める。

「右実験の評価については、①同実験で曝露した騒音は間欠音であって、現実の道路騒音でないこと、②同実験のように、被検者に対して音響刺激を感じたかどうかを直接応答させるという実験方法では、右応答の必要性が被検者に心理的影響を与え、そのこと自体が就寝あるいは覚せい、睡眠深度に影響する可能性があり、実験室で得られた睡眠妨害になる数値としての四〇ないし四五ホンが、現実の道路騒音レベルに直ちにあてはまるとすることには問題があること、③右論文では四〇ないし四五ホンが睡眠に影響を与えると結論づけているが、ただ『我々の実験結果でも四〇ホンで既に睡眠障碍のきざしがうかがえる。主観的には四五ホンが限界であると被検者は訴えている。』とするだけで、具体的にどのような実験結果から右数値が導かれたのかの考察過程の記載がないため、例えば別紙C(〈書証番号略〉の第3図)を例にとると、三〇ないし四〇%の反応のある三〇ホンの音響刺激が睡眠影響がないとされるのに、なぜ、四〇%弱の反応がある四〇ホンの音響刺激で睡眠影響があるとされるのか、その根拠が不明であることを指摘することができる。」

(2) 原判決二八四丁裏四行目の次に、行を改めて次のとおり付加する。

「また、本実験でなされた騒音曝露は、後述の鈴木実験三、四でなされた間欠音曝露に近いものであることに留意する必要がある。」

(3) 原判決二八六丁表一一行目「いないこと」の次に、「、⑥昭和四三年という古い時期の実験であるため、現在では標準的な睡眠段階の判定方法として用いられているレヒトシャッヘンとケールズのアトラスによっておらず、右実験の数値をレヒトシャッヘンとケールズのアトラスに置き換えてみると、対照夜の睡眠深度が異常に深すぎる睡眠となり、対照夜の睡眠脳波の判定に問題があったのではないかとの疑いがあること」を付加する。

(4) 原判決二九〇丁裏二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(9) 鈴木の研究

〈書証番号略〉、当審証人鈴木庄亮の証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。鈴木庄亮(群馬大学医学部公衆衛生学教授)は、昭和五八年以前はアンケート調査のみをしていたが、アンケート調査だけではその回答が主観的な訴えについての参考資料程度にすぎず、睡眠妨害に関しての科学的裏付けのある結論を出すことはできないと考え、睡眠脳波研究にアンケート調査を併用して行った。

ア 鈴木研究で用いられた睡眠指標及び用語について

a 睡眠段階

睡眠には「深い睡眠」と「浅い睡眠」とがあり、脳波の上でもある程度区別することが可能であるが、その判定は一九六〇年代にレヒトシャッヘンとケールズによって造られた「レヒトシャッヘンとケールズのアトラス」(〈書証番号略〉)によっている。

右睡眠脳波アトラスによれば、睡眠段階はステージ1からステージ4までの四段階に分けられ、ステージ1に近づくほど浅い睡眠となり、ステージ4に近づくほど深い睡眠となる。その他にレム睡眠(ステージ・レム)、寝返り等の体動によって脳波の記録が不明瞭となった状態のMT(ムーブメント・タイム、体動)があり、覚せいしている状態をステージWとする。ステージ4では脳波中に高振動除波(デルタ波)が五〇%以上を占める最も深い睡眠であり、ステージ1では速波であるアルファ波が消滅し、うとうとしている状態で、速い眼球運動を伴わない。ステージWでは速波であるアルファ波が主体の覚せいしている状態である。

レム睡眠(逆説睡眠)とは、偶発的な急速眼球運動を伴う睡眠であり、いわゆる夢を見ている状態の睡眠であって、脳波の上からは目覚めかけているはずなのに、実際上はなかなか起こしても目覚めにくいという矛盾があるために逆説睡眠ともいい、レム睡眠以外の睡眠をノンレム睡眠(正睡眠)という。

b ホワイトノイズとピンクノイズ

音には通常様々な周波数成分が含まれているが、この様々な周波数成分を均等に含んでいる音をホワイトノイズといい、ピンクノイズは現実に近い軟らかい音をという要求から、ホワイトノイズに比べて低周波成分を多くして高低周波成分を少なくした音のことをいう。ホワイトノイズの方が人にとって刺激性が強い。

鈴木研究においては、試みの指標としてMTを除くステージW、ステージ1、レム睡眠、ステージ2、ステージ3、ステージ4についてそれぞれ〇、一、1.5、二、三、四の数値を与えてこれを数量化し、平均睡眠深度を求めたりしている。

しかし、睡眠脳波の測定は、実験室など自宅でない特別な場所で、脳波測定のための電極やネットを装備して眠るといった非日常的な条件下での測定にならざるをえず、通常と同様の睡眠がとれているか疑問があり、実験室においては通常より敏感に(すなわち、通常より低いレベルの騒音で)騒音刺激に対して反応する可能性が否定できないのではないかとの疑問、及び、各睡眠段階の間隔が等しいという根拠のない順位尺度である各睡眠段階を数量化して平均睡眠深度などを導きだすことは、方法論として相当でないのではないかとの疑問が残されており、実験結果の評価には、慎重を期する必要がある。

イ 鈴木実験一ないし六

a 鈴木ほか「騒音環境下の睡眠―六〇デシベル(A)ピンクノイズ終夜連続曝露下の睡眠脳波から―」(以下「鈴木実験一」という。)

騒音による睡眠脳波を指標とする睡眠への影響の研究を開始するにあたっての予備実験として、一終夜連続六〇デシベル(A)定常ピンクノイズを曝露し、脳波、眼球運動及びあごの筋電図を記録し、視察判定したところ、睡眠前半の平均睡眠深度の深化が認められた。しかし、予備実験的性格のものであって、被検者数(四名、もともと五名であったが、一名は煩わしいということで脱落)及び実験夜数(一夜)も限られていることから、この実験により直ちに何らかの結論を導くことはできていないし、アンケート調査の結果についても、まとまった結果は得られなかった。

b 鈴木ほか「騒音の睡眠への影響―第二報 三水準の定常音曝露における睡眠脳波上の変化の一事例―」(「鈴木実験二」。)

二八才の男子一名を対象に、四〇、五〇及び六〇デシベル(A)の定常ピンクノイズを順不同、それぞれ合計四、五夜ずつ一終夜曝露し、脳波、眼球運動及び筋電図を記録し、鈴木らが開発したマイクロコンピューターによる自動解析システムによって脳波の解析を行っている。また、対象実験として、同一人に同室で騒音を曝露しない環境での終夜脳波の測定を一〇日間連続して行っている。検討の対象とされた睡眠パラメーターは、ステージW、1、2、3、4、レム睡眠及びMTの出現率(%)、平均睡眠深度、回帰式の勾配とy切片、入眠潜時、一時間当たりの睡眠段階移行回数並びに主観的睡眠感である。

右実験によると、六〇デシベル(A)の定常ピンクノイズの曝露夜の方がその他の夜に比ベステージ2の出現率が高く、入眠が促進され、脳波上の覚せい期が減少し、睡眠前半の睡眠深度が深くなっていることが認められる。このことについて、騒音が定常音である場合には、大脳皮質が下位中枢の覚せい中枢である網様体賦活系に抑制的制御を与えている可能性が考えられ、その結果、覚せい中枢が興奮せずに逆に抑制されて深い眠りとなるのであって、この実験は、テープによる川や波の音を背景に眠るとすがすがしい眠りになったり、煩いはずの電車の中の方が逆に睡眠を促進したりする常識とも合致している部分があるとの解釈が示されている。また、被検者の主観的睡眠感の良否について、「終夜睡眠前半の睡眠の良否が関与している」とも解説する。

しかし、この実験によると、騒音レベルの上昇に伴ってステージ3及びレム睡眠が減少しており、このことは定常音曝露が睡眠に悪い影響を与えていると見ることもできる。なお、右とやや状況が異なるけれども、〈書証番号略〉によると、騒音により深い眠りの時間が増すことがある旨の報告と、それが睡眠阻害の二次的結果との疑問符を付した理解に触れながら、理由は明らかでないとしているのであって、この種の現象に対する定説のないことが窺える。いずれにしても、この実験結果だけからは、一概に定常音曝露が睡眠に良い影響を与えているとはいえないが、逆に、定常音曝露が睡眠に悪い影響を与えているともいいきれないと考えるのが相当であり、右の知見は仮説の域を出るものではない。

c 鈴木ほか「騒音環境下の睡眠―六〇デシベル(A)ピンクノイズ間欠曝露下の睡眠脳波から―」(「鈴木実験三」。)

現実の夜間の道路交通騒音は定常音ではなく、ピークをもった間欠音でもあるとして、本実験は六〇デシベル(A)ピンクノイズをピークレベルとして、次の実験四と同じく立ち上がりの急峻な間欠騒音の曝露実験である。

右実験では、被検者の全員につきステージ2及び3が減少して、レム睡眠が増加し、平均睡眠深度が減少して、定常音とは異なり、間欠音は睡眠を妨害することが認められた。

d 鈴木ほか「騒音の睡眠への影響―第三報 三水準の間欠音曝露による睡眠脳波上の変化の一事例―」(〈書証番号略〉、「鈴木実験四」。)本実験は、六〇、五〇、四〇デシベル(A)の間欠ピンクノイズを終夜曝露して、睡眠への影響を把握しようとしたもので、被検者は鈴木実験二と同一人物である。

右実験によれば、六〇デシベル(A)の間欠音曝露は明らかに睡眠に悪い影響を与えていたが、五〇デシベル(A)では目立った影響がみられていない。鈴木証人は、本実験につき、今回の間欠音曝露条件下では、ピークレベル五〇デシベル(A)と六〇デシベル(A)の間に睡眠影響閾値があると結論し、併せて、鈴木実験三及び四で曝露した間欠音は、各ピークレベルの騒音を一時間に一二回あるいは九回、各数秒ずつ曝露するというものであり、その立ち上がり速度は、一二六デシベル(A)/秒であるが、通常の自動車交通騒音は、完全な間欠音というより、定常音と間欠音の間の性質を持っており、また、自動車交通騒音の立ち上がり速度は、六デシベル(A)/秒程度で、実験での短冊型のような形の騒音ではなく、ピラミッド型であって、実験音に比べ刺激の少ない音といえるから、現実の道路交通騒音では、実験で得られた「ピークレベル五〇デシベル(A)と六〇デシベル(A)の間」よりも高い騒音レベルに睡眠影響閾値があるはずだと推認し、かつ被検者に五〇ないし六〇デシベル(A)で入眠促進と部分的睡眠深化が起こったとして、その機序を右レベル以上の定常騒音で網様体賦活系への抑制機構が働いたとも推測しているのであって、一応の根拠があるといえなくはないが、命題として一般化するには、さらに厳密なデータの蓄積を必要とするであろう。

e 鈴木ほか「道路交通騒音曝露による睡眠脳波の変化」(「鈴木実験五」。)

これまでの鈴木実験一ないし四で、定常騒音には催眠効果があること、立ち上がり速度の速い間欠騒音は睡眠に悪影響を及ぼすこと及びその間欠騒音による幾つかの睡眠影響の閾値が五〇デシベル(A)と六〇デシベル(A)の間にあることが示唆されたとして、これまでの実験が人工音によるものであったのに対し、今回は道路交通騒音(録音再生音)を曝露して、睡眠への影響を調べたものである。

右実験で使用された騒音は、前橋市内の国道バイパス沿いで冬季夜間(午後一一時二〇分から五〇分)の三〇分間に、車道と歩道の境界線から二メートル離れた地点で録音した道路交通騒音であって、道路は幅一二メートル、片側二車線、録音時の交通量は一時間六〇〇台程度、そのうち七〇%は大型トラックやダンプカーであった。

被検者の大学生四名に対しては、再生時に曝露騒音レベルがL5六〇デシベル(A)、L50四七デシベル(A)、Leq五三デシベル(A)(ピークレベルの最大値は六三デシベル(A))となるよう調整し、被検者の二八才の騒音研究者一名(K)に対しては、同じくL5六六デシベル(A)、L50五三デシベル(A)、Leq五九デシベル(A)(ピークレベルの最大値は六九デシベル(A))に調整して三〇分間周期で終夜曝露している。また、対照実験として、同一人に同室で騒音曝露しない環境での終夜脳波測定を行なっている。

鈴木証人は、右実験では、大学生四名に統計学的には有意の差は認められず、被検者Kについてはステージ3が減少したが、他の指標には有意な変化は認められなかったものの、本実験で使用した音は車道端から二メートル離れた地点の屋外で録音した音であり、実際に屋内で曝露される道路交通騒音に比べて高周波成分が大きく、騒音の立ち上がり速度も急峻となるので、より刺激的な音であることに加え、実験例数が少ないことも考え併せると、今回の実験のみではLeq五九デシベル(A)の道路交通騒音が睡眠妨害をもたらすとも、また、Leq五三デシベル(A)の道路交通騒音が睡眠妨害をもたらさないとも言えないとしている。

f 鈴木ほか「騒音の睡眠影響(6)―フィールド調査による騒音レベル、脳波睡眠パラメーター及び主観的睡眠感の関連性」(「鈴木実験六」。)

鈴木実験五を踏まえ、道路交通騒音の睡眠に対する影響を検討しようとして、現実の騒音に近い形で、かつ、被検者及び実験夜数を増やした形のフィールド調査(野外調査)が行われたのが、本実験である。

右実験は、騒音地域と対照地域とで睡眠の質に差異があるか否かを検討するため、二〇才から二三才の男子四名、三九才の男子一名、六六才の男子二名と六五才の女子一名につき、交通量の多い市街地幹線道路沿いのA地と郊外の静かな住宅地B地とで、それぞれ連続三日間睡眠脳波測定を行い、分析したものであり、翌朝起床後に測定夜の主観的睡眠感についてアンケート調査が行われた。

A地(騒音地区)及びB地(対照地区)の騒音レベルは、A地の寝室内はL50で平均43.1デシベル(A)、Leqは平均46.6デシベル(A)であり、B地の寝室内はL50で平均26.3デシベル(A)、Leqは平均27.7デシベル(A)であった。

右実験の結果につき、鈴木証人は、A地(騒音地区)ではB地(対照地区)に比べ、レム睡眠の減少とステージ3、4の合計値の増加がみられ、早朝覚せいが少なかったことなどからすると、A地でのL50で平均43.1デシベル(A)、Leqで平均46.6デシベル(A)の交通騒音の曝露は、睡眠に悪影響を及ぼさないといえると判定している。

ウ 鈴木は、右実験のうち、四、五を通じて実験室環境での睡眠への馴れ現象の有無またはその程度を試み、睡眠の馴れ現象は第五夜以降に現れ、平均的睡眠深度も同夜以降の安定が観察されたと報告する。そして、この馴れというのは、一種の順応とか、防御反応と理解できるものであり、そのメカニズムについて、聴覚の最終的な皮質の中枢から抑制のインパルスが出て、網様体賦活系が賦活されず、そのために深い眠りが少なくとも部分的に生じうると説明する。しかし、この点は、同証人の証言によっても、未だ仮説の域を出るものではない。

しかも、〈書証番号略〉によると、睡眠時には馴れが生じにくいとされ、右の馴れなるものは、実験への馴れとも理解できるのである(鈴木証言にも同旨の部分がある。)。

(10) バーバラ・グリーファンによる「夜間高密度道路交通騒音の限界負荷」について

〈書証番号略〉によると次の事実が認められる。

本実験は、これまでの実験が主として、飛行機や人工的騒音による単一の音の刺激を対象としていたのに対し、平均騒音レベルと最大騒音レベルの差が相対的に小さい高密度道路交通騒音の場合、Leqと全睡眠時間や各睡眠ステージの量、包括的な睡眠指標との関係の把握をすることがより適切であるとの見地から、男女各一八名の学生(二一才から三〇才まで)を被検者として、実験室での一二夜連続・四段階の高密度道路交通騒音(録音再生音)の曝露のもとでの睡眠につき、①脳波と眼球電位図、被検者の自らの睡眠の自己評価と翌日の作業量等によって示される右の騒音と睡眠妨害の関係の把握、②性別による違いの有無の判定、③夜間騒音曝露の限界負荷の判定を目的としておこなわれた。

右実験で使用された騒音は、等価騒音レベル(Leq)と最大レベル(L1)との差が六デシベル(A)を超えない市街地のハィウェーで録音したもので、Leqで①最大63.5デシベル(A)、最小59.5デシベル(A)、(L50で最大63.0デシベル(A)、最小58.5デシベル(A))、②最大56.5デシベル(A)、最小51.0デシベル(A)、(L50で最大55.5デシベル(A)、最小50.0デシベル(A))、③最大50.5デシベル(A)、最小44.5デシベル(A)、(L50で最大49.5デシベル(A)、最小42.5デシベル(A))、④最大44.0デシベル(A)、最小37.0デシベル(A)、(L50で最大38.0デシベル(A)、最小32.0デシベル(A))の四段階である。

右実験結果、①男女の被検者はどの指標においても異なった影響はなかったこと、②作業量は四段階を通じて差はなかったこと、③レム睡眠の時間がLeq四四デシベル(A)を超えた途端突然減少したが、騒音レベルの上昇に比例しては減少していないこと、④主観的睡眠感は、騒音レベルが増すごとに、被検者はよく眠れず、入眠潜時、覚せいの回数、疲労の程度及び断続的な覚せいの合計時間が増加したと訴えており、騒音に比例して睡眠評価に変化が生じていること、⑤他方、客観的数値である脳波のデータは、騒音レベルの増加につれて入眠がだんだんと遅くなるとの主観的睡眠評価を裏付けなかったこと、⑥脳波及びアンケートによると、実験に対する慣れが生じてきたことが明らかとなった。

バーバラ・グリファンは、これらの結果から、睡眠の評価は第一に騒音を意識していることによって決定される。すなわち、起きている間、被検者は妨害を感じ、すぐには眠れないと心配になるため、眠りに落ちる過程が難しくなり、入眠がおそくなったと感じることから、客観的な数値はそうではないにもかかわらず、主観的にはよく眠れないと評価している、よく睡眠がとれないという感じは、長時間には気分、安定、そして多分健康に直接影響をあたえる、レム睡眠の減少が精神安定上有害であるならば、レムの突然の減少は四四デシベル(A)以上の騒音レベルはもはや耐えられないことを示している、と判断し、平均騒音レベルと最大騒音レベルの差が一〇デシベル(A)に保たれている限り、高密度道路交通騒音にとって四〇デシベル(A)の限界が妥当であると結論付けている。

これに対しては、被告らから、厳しい問題点の指摘と批判がなされていることは、前叙被告らの主張の該当欄のとおりである。

(11) バーバラ・グリーファンらによる「騒音と自宅での睡眠、影響についてのフィールド調査」

〈書証番号略〉によると次の事実が認められる。

本実験は、交通量の多い道路の近くに一年以上居住している男女各一〇名の健康な被検者(二五才から六〇才まで)につき、自宅で、一二夜連続して、耳栓を使用したり、窓を開放することにより曝露レベルを変化させ、脳波(EEG)、眼球電位図(眼電図EOG)、と音圧レベルが測定され、睡眠への影響を調べたものであるが、各人の自宅での調査であるため、曝露騒音レベルを揃えることができず、この調査では睡眠に影響を与える閾値を求めることはされていない。なお、この研究の主要な結果では、完全な慣れは存在しなかったとされている。

(12) J・L・エバーハートらによる「連続的及び間欠的交通騒音の睡眠に及ぼす影響」

〈書証番号略〉によると次の事実が認められる。

ア この実験は、九名の男性(二〇才から二六才まで)につき、七週間にわたり実験室で録音交通騒音を再現し、① 連続騒音と間欠騒音のどちらがより睡眠妨害を与えやすいか、②Leqは睡眠妨害を示す指標になるか、③ 耳栓はどの程度まで騒音の睡眠に及ぼす影響を減ずるか、④ 寝室内で許容できる交通騒音の最高レベルはどの程度か、を明らかにすることを目的に行なわれた。

実験方法は、脳波(EEG)、眼電図(EOG)、筋電図(EMG)、心電図(ECG)、呼吸を、騒音レベルとともに連続して記録し、睡眠段階の分布及び覚せい的反応について分析された。

被検者は、全員、まず三夜連続して静かな条件(二七デシベル(A))のもとで眠り、四日目の夜に交通騒音に曝露された。一週間の間隔をおいて、実験室に戻り、そこで二夜連続して眠ったが、第一夜は慣らしのためであり、第二夜に交通騒音に曝露された。

先行の予備実験(一名)では、最大レベルが四〇デシベル(A)から七〇デシベル(A)まで五デシベル(A)きざみで変動する三種類の速度(五〇、七〇、九〇キロメートル毎時)のトラック走行音に曝露し、覚せい的反応について、どの程度の騒音レベルからどのような種類の反応が始まるのかを判別するための分析にもちいた。

主実験では、次の三種類の騒音、すなわち、① トラック走行時のみ騒音が発生し、その他は静か(二七デシベル(A))である、② 終夜にわたる連続交通騒音、③ ①と②の組合せが選択され(なお、交通騒音は、高速道路から二五メートル離れた地点で録音したもので、トラックの速度は五〇キロメートル毎時である。)、さらに実際の実験では次の七つのタイプの騒音曝露が選択された。

a 「I45」 背景騒音二七デシベル(A)で、最大騒音四五デシベル(A)、Leq二九デシベル(A)のトラック通過音を四分ないし一八分間隔で不規則に曝露したもの。刺激回数は一夜五〇回、消灯後三〇分で曝露開始。

b 「I55」 背景騒音二七デシベル(A)で、最大騒音五五デシベル(A)、Leq三六デシベル(A)のトラック通過音を四分ないし一八分間隔で不規則に曝露したもの。刺激回数は一夜五〇回、消灯後三〇分で曝露開始。

c 「I55(5)」 「I55」と条件は同じだが消灯後五分で曝露開始。最後の二五分は曝露なし。

d 「I55(5)」(plug) 「I55」と条件は同じだが耳栓使用。

e 「C36」 連続交通騒音三四デシベル(A)ないし三八デシベル(A)、Leq36デシベル(A)。消灯後三〇分で曝露開始。

f 「C45」 連続交通騒音四三デシベル(A)ないし四七デシベル(A)、Leq45デシベル(A)。消灯後三〇分で曝露開始。

g 「C45I55」 C45とI55の組合せ。

イ 実験結果は次のとおりである。

a 覚せい的反応

ここで覚せい的反応とされているのは、トラック通過音曝露後六〇秒以内の、覚せい、睡眠深度の浅化及び脳波、筋電図、心電図もしくは呼吸にあらわれる短い変化である。

(a) 交通騒音によってレム睡眠から覚せいに至る確率は、ステージ1及び2から覚せいに至る確率よりずっと低く、ステージ3と4の合計からの覚せいと同程度である。

(b) I55とI55(5)からみて、五五デシベル(A)の交通騒音は覚せいを引き起こす。

(c) I45において、睡眠深度が浅化する。

(d) 騒音レベルが四五デシベル(A)から五五デシベル(A)に増大すると、覚せい的反応が増加し、この増加は、睡眠段階の浅化や短い変化について有意であった。

(e) C45I55の方がI55に比べ三つの全ての覚せい的反応が減少していることからみて、覚せい的反応の発生には、騒音ピークレベルの絶対値よりも、背景騒音(暗騒音)からピーク騒音がどれだけ突出しているかということの方が重要に思われた。

(f) 耳栓の使用は、間欠交通騒音の刺激性を減少させる。

b 体動

連続騒音の曝露は体動の総数に影響を及ぼさないが、I55、C45I55、I45といった間欠騒音の曝露は体動の総数を増加させる。

c 睡眠段階の分布

I45においては、ステージ3及び4が減少した。

I55においては、I45より最大騒音レベルが一〇デシベル(A)増加したのであるが、それ以上にステージ3及び4が減少することはなかった。しかし、レム睡眠の持続時間の短縮と覚せい時間の増加が認められた。

C45においては、レム睡眠の開始が遅くなり、レム睡眠の量が大幅に減少した。

C45I55においては、ステージ4の開始が遅くなり、徐波睡眠(ステージ3、4)の持続時間が減少し、レム睡眠の開始も遅くなった。またステージ2が増加したが、これはレム睡眠及びステージ3、4が減少したことによるものであろう。

C45とC45I55においては、ステージW、ステージ1及びMTが増加した。

I55(5)とI55とは、消灯後曝露を開始する時間が異なるだけであり、ほぼ同様の睡眠への影響が認められた。

I55(5)(plug)においては、耳栓をした結果、対照夜と有意な差はなかった。

d 主観的睡眠感についてのアンケート調査

実験の翌朝のアンケートによれば、C45とI55(5)につき被検者は睡眠は悪くなり、かなりの疲れを感じている。I55とI55(5)については目覚めを自覚した回数が増加している。ただし、対照夜においても自宅に比べ目覚めが多く感じられている。耳栓をした夜の主観的睡眠感は、対照夜と有意な差を示していない。

ウ J・L・エバーハートらの考察

a 覚せい的反応

睡眠深度の浅化は、四五デシベル(A)のトラック走行音によって生じたが、他方、覚せい的反応をもたらすのは五五デシベル(A)であった。

b 睡眠段階

この実験の最も重要な結果は、低レベルの連続交通騒音(四五デシベル(A))は、レム睡眠に悪影響を及ぼし、間欠騒音は徐波睡眠(SWS、ステージ3、4)に影響し易いということであった。

c 体動

また、連続交通騒音では体動の回数は増加しなかったが、間欠騒音では有意な増加があった。

d 主観的睡眠感

客観的な睡眠の質の測定結果と比較すると、レム睡眠が妨害された場合には、主観的睡眠感は悪くなった。

e 騒音の指標と許容できる騒音量

この研究の一つの目的は、等価騒音レベル(Leq)を、睡眠妨害に関する騒音量を特定するのに用いることができるかどうかを評価することにあったが、実験に用いられた曝露騒音のタイプではふさわしくないように思われる。その理由は、同じLeq三六デシベル(A)でも、間欠騒音(I45)では徐波睡眠は妨げられるのに、連続騒音(C36)では睡眠にマイナス影響は生じないからであり、また、同じ等価騒音レベルの数値でも異なった睡眠影響が生じているからである(C45対C45I55、I55(5)対C36、別紙C)。

Leq三六デシベル(A)の連続交通騒音では睡眠妨害は生じなかったが、Leq四五デシベル(A)の連続交通騒音では生じており、このタイプの騒音に関しては、限界レベルはこの範囲のどこかに存している。間欠騒音の場合、最大値四〇デシベル(A)では睡眠妨害を生じないが、四五デシベル(A)で徐波睡眠を減少させ、睡眠段階の変化を生じさせた。

エ J・L・エバーハートらの結論

四五デシベル(A)を超える道路交通騒音によって男子若年成人の睡眠妨害が生じ、覚せい的反応及び睡眠段階のパターンの変化がもたらされる。このレベルの連続交通騒音は、レム睡眠を妨害し、主観的な睡眠感を悪化させるが、間欠騒音は徐波睡眠を妨害し、体動の総数を増加させ、浅い睡眠への変動をもたらす。Leq三六デシベル(A)の定常交通騒音では睡眠パターンへの影響は見られず、最大値四〇デシベル(A)未満の間欠騒音は、有意な睡眠妨害を生じさせなかった。

以上の検討により、Leq三五デシベル(A)をこえてはならないというWHOの推奨値と一致していると結論することができる。

オ 右実験の評価について、被告らは、当審の主張として掲記したように、「前提の異なる交通量の多い本件道路交通騒音において、最大値四〇デシベル(A)を超える騒音は避けなければならないとの結論は当てはまらない。」とか、他の実験結果等に基づき、要するに、現実に睡眠妨害が生じうる騒音レベルとしてLeq三五デシベル(A)を超えてはならないとするのは極端に過ぎる、と指摘している。」

(四) まとめ

騒音の睡眠に対する研究は、おおよそ右のとおりであって、その他本件にあらわれた全証拠によっても、特に量―影響関係については未だ十分解明されたとは言い難い状況にあるといわざるをえない。

そして、当審における鑑定の結果及び〈書証番号略〉によって認められる夜間の室内で窓を閉めた場合の騒音値(L50値で最高四三デシベル(A)、平均三五デシベル(A))からすれば、本件道路騒音が原告らに深刻な睡眠妨害を及ぼしていると断ずることについては、疑問が残る。

もっとも、道路騒音は、夜間に運行を中止する航空機騒音や新幹線騒音と異なり、一日二四時間休むことなく日夜連続して、時に激しく変動しながら続くのであるから、このような経験を重ねることによって、原告らの本件道路からの騒音に対する不快感が高まっていくことも容易に理解できるところであって、原告らの原審及び当審における本人尋問の結果並びに陳述書によって認められる原告らの睡眠妨害の訴えも、それなりに理由があるといえるものである。

右の意味において、原告らは、その家屋構造や生活形態等によっても異なるが、本件道路からの騒音によりなんらかの睡眠妨害を受けていると認めることができる。

なお、後記被告らの住宅防音工事によって、騒音の被害はある程度軽減されていることが認められるが、窓を開ける夏期などを考えると、防音工事によって睡眠妨害が解消したとまでは断じ難いものである。

2  聴覚障害(難聴と耳鳴り)

(一) 原告らの原審及び当審における本人尋問の結果並びに陳述書によれば、

原告らのうちかなりの人数が、本件道路からの騒音による聴力低下や耳鳴りを訴えている。

そこで、聴覚障害についての医学的知見や各種アンケート調査、勧告・実験等を検討するに、これらの点についての判断は、原判決が二四六丁裏二行目から二七一丁裏末行までにおいて説示しているとおりであるから、これを引用する。

(二) まとめ

以上のとおり、多数の調査研究結果によると、従来の職業性騒音曝露に加え、環境騒音曝露についても研究が進められているが、未だ騒音と難聴との定量的な関係については十分解明されたとは言い難いものがある。しかしながら、聴力保護のための許容値として、原審の説示どおりほぼ七〇ないし九〇ホンのレベルが推奨されているといってよいところ、前記認定にかかる原告ら居住地における屋外、室内の認定値、現実の生活様式(騒音に曝されている場所とその時間の割合)などを考慮すると、本件道路からの騒音によって少なくとも恒常的な聴力低下や難聴になる可能性は、殆ど考えられないといわなければならない。それに、原告らは、難聴の程度や態様を示す診断書等を一切提出しないので、原因はともかくとして、具体的にどの程度の聴力低下をきたしているのか不明であり、仮にこの点をしばらく置くとしても、前述のとおり各種研究によって、本件道路からの騒音レベルによっては難聴に陥る危険性を認めるに足りないことからすると、原告らの供述や陳述書による主観的な訴えのみでは、本件道路からの騒音が原因で聴力低下がもたらされたとするには、証拠不十分と言わざるを得ない。

次に耳鳴りについてであるが、〈書証番号略〉により若干補足すると、次の事実が認められる。

耳鳴りは聴覚障害の中のかなり重要なものの一つで、患者は時として難聴よりも耳鳴りを強く訴えることがあるところ、その種類は多様なものの、音源のある耳鳴り(他覚的耳鳴り、身体のどこかに実際の振動があり、それを聴覚機構が捉えて音として感じるもの。原判決のいう他覚的・振動性耳鳴り)よりも、音源のない耳鳴り(自覚的耳鳴り、物理的な振動がなく、耳鳴りの発生部位が内耳またはそれより高位の神経機構にあると考えられるもの。原判決のいう自覚的・非振動性耳鳴り)の方が圧倒的に多い。そして、耳鳴りは、音調、持続、強さ、聴力、部位などにおいて様々な性質を持っているが、あくまでも患者自身の自覚的、主観的なものであり、客観的に捉え難いということも関係して、その性質は疾患の部位や原因と殆ど対応しない。

なお、原判決が説示するとおり、耳鳴りの有無と病因との間にはかなりの関連性があると推察できるものの、統計上メニエール病をはじめ頭部外傷性、老人性その他いろんな原因がありうるといえる。したがって、原告らのうち多数の者が耳鳴りを訴えているとしても、前記耳鳴りの原因やその性質につき未解明な点が多いことと併せ考えると、本件道路からの騒音が原因となって原告ら主張の耳鳴りがもたらされたと認定するに足る証拠はないといわざるをえない。

3  その他の身体的被害

(一) 原告らの主張する身体的被害は、頭痛、貧血、めまい、鼻血がよく出る、動悸、息切れ、血圧変調、疲労感がとれない、自律神経失調症などであり、それぞれの訴えをしている原告らは原判決添付別紙F①表のとおりである。

(二) 騒音の身体に及ぼす影響は、非特異的・間接的であること、すなわち、騒音は呼吸促進、脈拍数の増加、血圧の上昇、唾液や胃液の分泌減少、胃潰瘍の発生率及び重症度の増加、副腎ホルモンの分泌増加、妊娠や出産などに影響するが、これらの一連の反応は、内臓の働きを調節する自律神経系が交感神経緊張に傾いた結果であり、これら一連の反応は、騒音のみならず、他の寒さ、痛み、怪我、精神的緊張などでも見られるものであって、騒音が精神的心理的ストレスとして働く結果起こるストレス反応であること、騒音の身体、健康に及ぼす影響については各種アンケート調査や実験がなされていること及び右各種アンケートや実験の詳細、以上の各点については、原判決二九一丁裏三行目「二二〇号証」の次に「第二二一号証」を加えるほかは、当裁判所の認定も原審と同一であるから、原判決二九一丁裏二行目から三〇〇丁裏一〇行目までの記載を引用する。

(三) まとめ

以上の説示で明らかなように、騒音の及ぼす身体的への主たる影響としては、自律神経系、あるいは自律神経―内分泌系へのそれである。これらの影響は、会話妨害や聴力に対する影響ほどには確定した知見であるとはいえない。すなわち、高レベルでの人間に対する曝露が難しいうえ、各実験条件についての検討はなお充分でなく、また、実験はいずれも一時的、短期的な結果であって、長期的、継続的なデータも少なく、騒音のレベル、頻度といった騒音曝露量と身体反応の量とのいわゆる量―反応関係についての関連を見出すことは極めて困難である。さらに、騒音曝露による生理機能の変化は、その殆どが精神的、情緒的影響の反映であるから、その人の過去の経験、知識、利害関係、年令、健康状態、前日の睡眠状態、士気、作業条件などと複雑にからみあった結果が出てくるものであり、精神的、情緒的影響に関係しない騒音の物理的特性のみによる、特異的な騒音の生理機能への影響は、まず不明であるといえるのである。

そして、前認定の本件道路からの各原告らに対する騒音量(とりわけ、生活の大部分を過ごす室内値)を併せ考えると、本件道路からの騒音が原告らに対し、身体的症状を発生させていると認めることは困難である。

しかしながら、騒音は、前記のとおり、物理的なストレス要因としての性質のほかに、生活妨害等を介在とした精神的ストレス要因としての性質をも帯有するのであって、道路の沿道に近いほど症状を訴える率が高い前記各アンケートの結果も併せ考えると、本件道路からの騒音が、沿道住民に対し、頭痛、胃腸の不調、高血圧等の自律神経失調症の一因を与えている可能性まで否定するのは相当でない。

したがって、原告らに負荷されているストレスと、原告らの訴えている個々の頭痛、胃腸の不調、高血圧等の身体的症状との具体的関連性は何ら明確でなく、個別に因果関係を肯認するに足る証拠はないといわざるをえないものの、前記のとおり道路騒音が沿道住民に対し自律神経失調症の一因を与えている可能性を考える時、こうした状況下にあることは、本件における被害を総体として把握するにあたり、ひとつの要素として斟酌する必要がある。

4  精神的被害

(一) 精神的影響についての一般的知見及び各種アンケート調査についての当裁判所の認定は、原審と同一であるから、原判決三〇一丁表一二行目から三〇五丁裏二行目までをここに引用するが、そのうち特に留意すべき知見は、騒音による生理的影響の殆どが精神的・情緒的影響の反映であるとも考えられること、騒音による不快感が騒音レベルや騒音の高さの上昇により増大し、変動の多いほど増大するとされている点である。

(二) まとめ

原告らは、原審及び当審における原告本人尋問の結果並びに陳述書において、いらいらする、腹が立つ、落ち着かない、神経過敏になった等の訴えをしている。しかしながら、騒音に対する不快感は一般的に騒音レベルが上がるにつれて増大するものの、個人的な要因や社会的関係によって複雑に変化し、環境庁昭和五〇年調査によると、L50が七〇ホン以下の地域では、騒音の推定物理量の上昇と騒音が煩い旨の訴え率が比例したが、七〇ないし八〇ホンの地域の方が六五ないし七〇ホンの地域より愁訴がむしろ低下したと認められるなど、量―反応関係に未だ確立した知見があるとはいえず、何ホン以上になれば睡眠妨害などの各被害を介在しない厳密な意味での直接的、感覚的な精神的影響が生じるとまでいうのは困難である。

しかしながら、日夜騒音に曝されて止むことのない渦中にある沿道住民が、苛立ちや不快感等の情緒的被害を訴えるのはそれなりに理解できないではなく、こうした苛立ちや不快感が毎日繰り返されることにより、さまざまな心理的影響が生じる可能性のあることも、もとより否定できないところである。そして、断片的にもせよ後述のとおり会話が妨害される、テレビの聞きたいところが騒音に邪魔される、仕事・勉強への集中が妨げられる、睡眠不足になるほか、その障害を克服するために特別の精神的緊張を余儀なくされる煩わしさなどの各種被害とそれらの悪循環は、当然一般的に精神的被害を伴っており、一旦妨害されると、その妨害音が消えてもなおしばらくは騒音への腹立しさや怒りが持続するなど、これらの被害は互いに密接に関連したものであって、各被害と一体となって被害を与えているとみるのが相当である。

5  生活妨害

(一) 原告らの訴え

原告らは、原審及び当審における本人尋問の結果並びに陳述書において、本件道路からの騒音により、家族や客との会話が妨害されること、そのため家庭の団らんが妨害されること、電話での通話が妨害されること、テレビやラジオ等の受信等が妨害されること、読書、思考、学習等が妨害されること、騒音のため声が聞こえないことにより子供が交通事故にあう危険性があること、親類等との交流が阻害されること、窓を閉ざしたままの生活を余儀なくされることなどを訴えている。

(二) 一般的知見、各種アンケート調査及び勧告、実験等

当裁判所の、会話等の聴取妨害及び思考等の妨害についての一般的知見、各種アンケート調査及び勧告、実験等についての認定は、原審の認定と同一であるので、原判決三〇六丁表三行目から三一三丁表七行目までと、同裏一一行目から三一九丁表二行目までをここに引用する。

(三) その他

(1) 会話、通話等の聴取妨害等

会話は、社会生活を送る上で必要不可欠な基本的要素のひとつであるところ、前記のとおり、会話妨害は、騒音のため正しく聴取出来なかった割合を調べることにより、これを数量化して把握することが可能であり、騒音と被害との定量的関係を明らかにした実験も幾つか存在する。アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)のインフォメーション〈書証番号略〉は、会話伝達を保護するためには、屋内でLeq四五ホン(A)以下(屋外ではLeq六〇ホン(A)以下)の確保が必要であるとしているが、同時に、通常の会話には重複などがあるから、九五%の文章了解度をもってほぼ充分であるところ、屋内では最高騒音レベルをLeq約六五ホン(A)以下(屋外ではLeq約八〇ホン(A))で右水準が維持されていること、しかし、右限界を過ぎると急激に文章了解度は低下することも明らかにしている。これは、騒音レベルが上昇しても、当初は聞き取り努力や話声の調節によって補われるため、文章了解度の低下は緩やかであることを示しているといえる。

これら前掲各資料と、前認定の日常生活の騒音レベルの状況から推定される支障の程度を総合すれば、Leq六五ホン(A)を超えると会話が妨害されると認定するのが相当である。電話による通話の妨害は、設置場所の移動によってある程度はその被害を緩和できると思われるが、反面、直接対面していないため、思わぬ誤解や了解不能があってもそのまま済まされるといった危険性もあり、弁論の全趣旨によれば直接の会話も電話による通話も、住民の被害反応に大差がなく、結局、通話も会話と同程度に騒音によって妨害されると認定するのが相当である。

また、これらの騒音によって家族の団らんが妨害され、あるいは友人、知人が訪問したり、宿泊するのを敬遠することが生ずることもありうると推認できる。

テレビ、ラジオは、現在の日常生活において、情報、娯楽の面からも不可欠といえるであろうが、一方的な伝達であって問い直しができないし、また音楽を楽しんでいるとき等を考えると、会話妨害よりも低いレベルの騒音で聴取妨害が生じることは明らかといえる。

なお、付言するに、原審における第一回検証の結果によれば、検証が実施された六戸の総ての原告宅において、窓の開閉にかかわりなく、いずれの場合も「同室する人との会話の聞き取りに支障はなかった。」との記載がなされていることが認められるが、だからといって、全原告宅において、一日の全ての時間帯にわたって、会話に支障がないとまで即断することは相当でない。

(2) 読書、思考、学習等の妨害

一般に、騒音が読書、思考、学習等の妨害になることは、経験則上明らかであるが、その量―反応関係については、作業内容の多様性、個人の能力や反応の仕方にも大きな差があることから、評価尺度を数量化することが困難であって、いまだ確立された見解があるとは言いがたいものである。ただ、各種の調査によれば、騒音レベルが五〇ホン台で作業能率の低下を訴える者の増加傾向がみられるが、それは心理的なものにとどまっていて、現実に作業に影響を与える騒音レベルは九〇ホン程度であるとの実験結果からすると、前記精神的影響とは別個の読書、思考、学習等の妨害を認めることは困難と言わざるを得ない。

(3) 子供が交通事故に遇う危険性

原告らが主張するように、騒音によって車の接近に気付くのが遅れ、あるいは注意の声が届きにくく、交通事故の危険性が増大することは考えられないではないが、具体的に、騒音が原因で事故が多発しているとか、事故が発生したと認めるに足る確たる証拠はない。

(4) 窓を閉ざしたままの生活を余儀なくされること

人は誰しも窓の閉ざされた生活を余儀なくされることは苦痛であるといえるところ、騒音を防止するために実施せられた防音工事を実効あるものにするために、あるいは一般的に防音の効果を上げるために窓を閉ざしたままの生活をせざるをえないことは、本件道路による被害を全体として評価するについての一つの要素となるといえる。

四排ガスによる被害

1  昭和五三年ころまでの窒素酸化物に関する調査、研究等

窒素酸化物の有害性(一般的知見、二酸化窒素の曝露実験、疫学調査等)、窒素酸化物の健康影響濃度についての各種の見解(昭和五一年のWHO窒素酸化物に関する環境保護クライテリア委員会の報告、昭和五二年に諮問され、翌五三年にまとめられた二酸化窒素に係る判定条件等についての専門委員会報告、二酸化窒素に関する諸外国の環境基準)、排ガス以外を原因とする窒素酸化物(窒素酸化物の発生源、住居内の空気汚染に関する研究、空気汚染による人体の窒素酸化物曝露量に関する研究報告書、室内空気汚染に関する研究、二酸化窒素の個人曝露濃度に関する研究、冬季における児童と家庭婦人のNO2個人曝露濃度について)についての認定、判断は、次に付加するほかは、原判決三二八丁表二行目から四二一丁表五行目までと同一であるから、これを引用する。

2  その後の調査、研究

(一) 自動車沿道汚染の人体影響(〈書証番号略〉)によれば、諸種の調査資料を分析して、自動車通行台数が一日三万台以上の道路で、沿道から五〇m以内(沿道の排気ガス濃度はおよそ五〇mで半減)の住民とそれ以遠の住民との間に有意の差がみられること、沿道住民の人体影響の解明は、呼吸器疾患症状にとどめない監視を要すること等、幹線道路沿道の大気汚染が沿道住民の喘息様症状・ぜん鳴症状に影響を与えていることが報告されている。

(二) 自動車排ガス等による環境汚染調査報告書(〈書証番号略〉)には、京都市東山区東大路通(一二時間交通量二万一〇〇〇台ないし二万二五〇〇台、昭和五三年一一月の平均値NO20.037ppm)の沿道地域と、沿道より五〇ないし一〇〇m離れた地域(大気汚染濃度は沿道の約二分の一)の三〇ないし三九才の住民を対象とした調査で、鼻、咽喉頭、呼吸器に関する自覚症状は沿道住民の方が高かったことが報告されている。

(三) 茨木市庄二丁目交叉点における自動車排ガスによる人体影響調査(〈書証番号略〉)には、昭和四六年九月から一〇月にかけて実施された健康調査票による自覚症状調査及び自覚症状のある者を対象にした検診では、同市内の幅五ないし七mの大阪府道の変形五差路の沿道一〇m以内に居住する住民は、それ以遠の住民に比べ、呼吸器その他粘膜症状についての自覚症状の訴えが一〇%以上高く、自覚症状の発現には自動車排ガスが影響を与えていると考えられるが、現時点では器質的、機能的な障害は認められないと報告されている。

(四) 環境汚染地域住民文献調査・要約(〈書証番号略〉)の昭和四九年度から三か年にわたり毎年九月に実施したアンケート調査等によれば、大阪市梅田地区において、交通量の多い汚染地区の大正町交差点付近の住民の方が、少ない東梅田地区の住民に比べ、目、鼻、喉、咳、痰等の症状の訴え率、夜眠れない、気持ちがイライラすることが多い等の精神的な症状の訴え率、いずれもが高いとの結果であった。

(五) 尿中HOP比を指標とする健康学童および成人への喫煙および大気汚染の影響に関する疫学的研究(〈書証番号略〉)によれば、沿道地区の方が気管支喘息・喘息性気管支炎・反復性気管支炎の有症率が高いことが報告されている。

(六) 国立公害研究所特別研究年報(昭和六二年度)所載の「複合大気汚染が及ぼす呼吸器系健康影響に関する総合的研究」(〈書証番号略〉)の調査結果によると、幹線道路では、NO2、浮遊粒子状物質で代表される局所的な汚染が存在し、これらの地域に居住する住民の間では呼吸器症状に関する訴えや呼吸器系の既往歴が高いこと、予備的検討としてであるが、家屋内の浮遊粒子状物質中に含まれる多環芳香族化合物濃度は屋外の濃度に比例しており、住民の発癌性物質曝露のレベルを低下させるためには、屋外の浮遊粒子状物質中濃度低減の配慮が必要であることが示唆されたことなどが報告されている。

(七) 国立公害研究所研究発表会予稿集(昭和六三年六月)所載の「沿道汚染と健康影響」(〈書証番号略〉)の調査結果によると、大気汚染は、沿道では、気象条件や交通量に対応して汚染濃度の日内及び日間変動が大きいが、NO、CO、浮遊粒子状物質濃度は道路端が最も高く、距離に比例して急激に、他方、NO2は緩やかに減衰すること、浮遊粒子状物質濃度は、二三万台走る交差点の中央で0.4mg/m3を超える高濃度の日もあったが、沿道家屋の屋外で0.06mg/m3であったこと、屋内・外の浮遊粒子状物質から発癌性物質が検出されたことなどが、報告されている。

(八) 花粉アレルギーの増加大気汚染(〈書証番号略〉)、ディーゼル排出微粒子のアジェバンド作用(〈書証番号略〉)、アレルギー性鼻炎と大気汚染(〈書証番号略〉)、からだの科学一四七号(〈書証番号略〉)、IgE抗体産出と環境因子(〈書証番号略〉)によると、排ガス殊にディーゼル車のそれが、最近激増しているがアレルギー性鼻炎(花粉症)に影響を与えることが指摘されていることが認められる。

(九) また、ニトロアレーンの重要性(〈書証番号略〉)、東京都の土砂中の変異原性とBap含量(〈書証番号略〉)、空気中の癌・変異原物質とその曝露評価手法の進歩(〈書証番号略〉)など、排ガスの成分も肺癌等の発生機序になるのではないかとする試論が多く発表されている。

(一〇) 当審証人野村和夫の証言と〈書証番号略〉によると、尼崎市南部の本件国道沿いには、粘膜刺激症状の患者が多いこと、野村医師は、本件国道の排ガスがその一因と考えていることが認められる。

3  東京都衛生局による「複合大気汚染に係る健康影響調査総合解析報告書」

右報告(〈書証番号略〉)は、窒素酸化物を中心とする複合大気汚染の健康影響を科学的に解明するため、東京都内幹線道路周辺地域住民を対象とし、昭和五三年度から昭和五九年度までの間、呼吸器系につき症状調査、疾病調査、患者調査、死亡調査、基礎的実験的研究の五分野に分けての調査研究の最終報告として、昭和六一年五月にまとめられたものであり、その内容は大要次のとおりである。

(一) 症状調査は、昭和五七ないし五九年の各一〇月の合計三回につき、ATS―DLD七八に準拠した同一の質問票を用いて、呼吸器の自覚症状と環境測定の結果をまとめたもので、老人と学童に関しては、昭和五七年調査、昭和五八年調査いずれにおいても沿道(道路端から二〇m以内の地区)でやや高い有症率を示した症状項目が多く存在していたが、統計的に有意な差は認められなかった、大気汚染の影響という面からみると、老人や学童は成人よりも重要な知見をもたらす可能性を持っているが、今回の調査では対象者数も少なく、確固とした結論を導くことはむずかしいと考えられる。

(二) 昭和五七年調査においては、道路端からの距離によって、〇mから二〇m、二〇mから五〇m、五〇mから一五〇mの三地区に分割して対象者を選び、有症率の差の比較を行ったが、主婦の有症率をみると、二〇mから五〇mの地区では沿道と同程度か、もしくはやや高率を示す症状項目もあり、結果からみると後背という表現は相応しくなかったということもできる。

(三) 昭和五八年調査においては、道路端からの距離によって、〇mから二〇mと二〇mから一五〇mの両地区に分割して対象者を選び、有症率の差の比較を行ったが、主婦に関しては、一部の項目を除いて沿道において有症率が高くなっていた。

(四) 昭和五七年調査と昭和五八年調査における結果を総合すると、昭和五七年調査の二〇mから五〇mの地区における有症率が高率である点や、統計的にみて有意差が認められた症状項目は一部に限られるなど、依然として考慮すべき点が残っているものの、多年度にわたり、複数の地域でほぼ一貫した結果が得られたことから考えて、幹線道路からの距離に依存して有症率に差が生じているとみなすのが妥当であろう。また、年令、居住年数、喫煙状況など呼吸器症状に関連するとみられる要因別に検討しても、有症率は同様の傾向を示していたことから、得られた有症率の差をそれらの関連要因の差によって説明することは困難であろう。

(五) 昭和五九年に実施した昭和五七年調査及び昭和五八年調査と同一対象者に関する調査結果をみると、第一回目の調査で症状のあった者のうち、第二回目の調査でも引き続き同一症状を訴えた者は約半数であった。このことは、本調査でとりあげた各症状は、個人レベルでみた場合には、ある程度変動していることを示すものと考えられる。

なお、一酸化窒素及び二酸化窒素濃度は、二〇ないし五〇m付近では五〇ないし一五〇m付近に近く、〇ないし二〇m付近よりも低いという距離減衰のパターンが、ある程度一般化して考えられる。

(六) 昭和五八年調査及び昭和五九年調査で実施した浮遊粉じん濃度測定結果においても、濃度の距離減衰の傾向が示されたことは、有症率の差を自動車排出ガスと関連づけて考察する場合には、窒素酸化物のみならず、浮遊粉じんなどの複数の自動車排出ガス成分を考慮する必要性を示唆すると思われる。

(七) 幹線道路からの距離に依存して認められた有症率の差を、自動車排ガスの影響であるとみなし、排ガスの中のどのような成分が主な原因物質であるかに関して疫学的に判断を下すためには、今後さらに周辺住民の自動車排出ガスへの曝露形態に関する調査・研究が必要であろう。また、粉じん中のベンゾ(a)ビレン等多環芳香族炭化水素・変異原性物質に関して距離減衰の傾向がみられたことはこれらの物質についてもモニタリングが必要であることを示すものと考えられる。

(八) 一酸化窒素濃度の距離減衰が明らかに認められ、二酸化窒素濃度は一酸化窒素ほど明確ではないが、全般的には距離減衰の傾向が認められた。浮遊粉じん濃度は、一箇所のみの調査であるが、特に粒径0.65μm以下の微小粒子側と11.0μm以上の粗大粒子側で距離減衰が認められた。

(九) これらの結果から、沿道地区を二〇m以内とし、それ以上を後背地と規定した次第であるが、他の諸報告と比較してもきわめて妥当な判断であり、このことが本調査の妥当性を高めた一因であるといえよう。

(一〇) 一日当たりの交通量が一万台を超える道路のなかでも、交通量の多い環状七号線、日光街道、甲州街道、川越街道を調査対象とし、道路から二〇〇mまでの地域を二五mごとに八区分し、「粗死亡率は道路に近づくに従って増加する」という仮説の検証を行うに当たり、死因としては全病死のみを取上げたが、〇歳、一ないし五歳、四〇ないし六四歳の昭和四八年ないし五一年の粗死亡率は、道路からの距離にかかわらず、ほぼ一様の死亡率分布を示し、「道路に近い程、粗死亡率が高くなる」という現象は観察されなかった。この調査の対象となった道路区間別人口は別紙H②のとおりであるが、死亡率の変動をみる母集団として十分な人口数であったかどうか、全病死のみならず、その後に行われた死因調査でみられたような、悪性新生物(特に気管・気管支・肺)、虚血性心疾患、慢性呼吸器系疾患などの死亡率ではどうなのかを検討する必要があろうが、サンプルサイズその他から考えて、むしろ、この圏域における死亡者の症例調査がより重要であると考える。

(十一) 右東京都調査については、昭和五七年調査及び五八年調査の対象者について、昭和五九年に繰り返し調査を行うことを目的として調査したところ、昭和五七年調査又は五八年調査において症状のあったもののうち、引き続き同一症状を訴えた者は約半数であって、個人レベルでの症状の持続性、再現性をみるには更なる検討が必要であることを考えると、本調査を評価するにあたっては、被調査者個人の主観による自覚症状調査である点に留意する必要がある。

4  中央公害対策審議会環境保健部会の大気汚染と健康被害との関係の評価等に関する専門委員会報告

右報告(〈書証番号略〉)は、昭和六一年四月に「環境庁長官からの諮問を受け、これまでの現時点で利用可能な大気汚染と健康影響の関係の資料を最大限収集し、これを基に可能な限りの検討を加え、知見の蓄積の程度などから判断し得るものとして、現状の大気汚染と慢性閉塞性肺疾患の関係についての評価を行い、結論を得た。」として、その内容を発表したが、この発表について当審証人柳楽翼は「大気汚染による健康影響に関する世界的文献を全て網羅して、専門家が検討を加えたもので最新の知見が収集・整理されている」と評価している。以下その内容を要約すると、次のとおりである。

(一) 大気汚染の推移と現状

(1) 二酸化硫黄

二酸化硫黄濃度を昭和四〇年から二〇年間にわたり継続して測定している測定局は全国で一五局あるが、その年平均値の単純平均値は昭和四二年度の0.059ppmをピークに減少を続けており、五九年度は0.012ppmとなっている。

(2) 二酸化窒素

二酸化窒素濃度につき国設大気汚染測定所でザルツマン法による常時監視が開始されたのは昭和四三年度であり、四五年度から一五年間にわたり継続して測定を行っているのは全国で一五局であるが、その一五局の年平均値は四八年度までは増加傾向がみられるが、それ以降はおおむね横這いの傾向にあり、一五局の単純平均値は0.025ないし0.028ppmの範囲内で推移している。

また、沿道に設置されている排ガス測定局の濃度を、昭和四六年度から継続して測定している二六局の年平均値でみると、五一年度までは増加傾向がみられるが、それ以降横這いの傾向にあり、五八年度の二六局の単純平均値は0.037ppmである。

(3) 大気中粒子状物質

大気中粒子状物質は、東京、大阪等においては昭和二〇年代から上昇したが、昭和三〇年代半ばから減少し、昭和四九年以降はおおむね横這い傾向にある。ただし、その粒径分布、成分についてはデータの蓄積が未だ十分とはいえない。

(二) 大気汚染の生体影響に関する知見の現状

(1) 二酸化窒素、二酸化硫黄、オゾン及びある種の大気中粒子状物質は呼吸器刺激物質であり、これらの汚染物質への暴露は呼吸器に対して様々な質の影響を与えることが知られている。これらの汚染物質の基本的影響像は、気道を刺激することによって起こる生理学的変化であり、また、これらの変化に関連して発生すると考えられる感染抵抗性の減弱も重要な影響像の一つである。しかし、これらの汚染物質の生体影響の機構及びその影響像は十分に解明されているわけではない。

(2) 二酸化窒素やオゾンのように生理学的液体に溶解性の低い物質は全気道に影響を及ぼし、更に深部気道に侵入し、細気管支や肺胞領域に影響を与えることが形態学的研究からも示されている。その程度は曝露濃度と期間に依存するが、都市大気中で記録される程度の濃度では、終末細気管支から肺胞領域にかけてが最も影響を受けやすい。我々の実生活で遭遇し得るような、毎日二時間一ppmのピーク濃度を伴った0.1ppmに六か月間曝露されたマウスでは肺気腫は顕著ではないが、細気管支及び肺胞道に形態学的変化がみられたという報告がある。他方、汚染物質への継続曝露下でも生体は正常状態に戻ろうとする修復機能があり、0.5ppmへの曝露の七週間後には気道粘膜上皮の過形成の修復がみられたという報告がある。しかしながら、低濃度暴露でも相当長期間曝露を行えば、肺気腫様の不可逆性の形態学的変化が起こることも事実である。

(3) 動物実験についてであるが、①現在の我が国の大気汚染の状況を念頭に置くと、原則的には低濃度・長期曝露実験を重視しなければならない、②運動をすると、換気量が増加することに加え、吸入経路が鼻から口・鼻に変わることから、下気道曝露がかなり大きなものになる可能性があるが、従来の動物実験ではほとんどが準安静下の動物によって行われている、③ 呼吸器疾患の臨床診断では、多くの場合、症状や主訴が一定の役割を果たしているが、動物実験からはこうした知見は殆ど求められないことから、動物実験の結果を「病因」との関係で呼吸器疾患と直接関連づけることは極めて困難である、④ いわゆる混合曝露については、ある種の可溶性塩のエーロゾルは、モルモットへの短期曝露実験において、二酸化硫黄の肺気流抵抗上昇作用を相乗的に増強するという実験がある一方で、サル、モルモットの長期曝露実験において、肺機能への影響や肺形態学的影響に関する限り、二酸化硫黄、硫酸ミスト及びフライアッシュの二種または三種混合物に相乗的効果は認められないとの報告もあり、さらに、EPAの研究グループもイヌへの自動車排出ガス長期曝露実験において、肺機能への影響・肺形態学的影響について、自動車排出ガスと二酸化硫黄間に相乗効果を認めておらず、これらの動物実験結果からは、複数汚染物質の作用は必ずしも相乗するとはいえないが、少なくとも相加するものと判断すべきであろう、といった点に留意して、様々な実験結果が報告されている。

(三) 大気汚染と健康被害との関係の評価

(1) 人への実験的負荷研究

動物実験結果は、人への適用に当たって種差をはじめ多くの困難な問題があるが、人への実験的負荷研究は不確定要因が比較的調整しやすく、かつ、直接人を対象としていることから、疫学研究結果から推定された特定の汚染物質の濃度と影響を確認するために行われたり、汚染物質の人体への急性影響の質的特徴像を明らかにし、その曝露濃度・影響関係を評価するために行われている。

しかし、人道上曝露濃度や曝露期間に制約があるため、濃度は都市大気中で記録され得る程度またはそれよりやや高め、曝露時間も数時間で、繰り返し曝露も数回に限定されているし、曝露される人々は限定された志願者で、様々な大気汚染に曝露されている年齢層や健康状態の異なる地域住民や大気汚染の影響を受けやすいと考えられる慢性閉塞性肺疾患患者群を代表していないこと、曝露環境も現実の大気汚染物質や気象因子との組合せや様々な生活環境を代表していないこと、また、通常の大気汚染の状態と違い、一般に温湿度一定の清浄空気に特定の大気汚染物質を希釈した空気に曝露された急性の影響であることなどに注意して評価すべきである。

(2) 疫学的研究

大気汚染の影響を観察しようとする場合、一般にその影響は地域の人口集団に反映されており、その地域集団の中の個人ごとの評価のみでは大気汚染の影響を検出することは困難で、集団としての分布の偏りをみる疫学的評価に頼らざるをえず、大気汚染の程度が異なる地域間で、性、年齢、喫煙歴、職業性因子、社会経済的因子、室内汚染等の因子がよく調整された集団を対象にした研究で、大気汚染の影響の推測が可能になる。

疫学調査においては、問題にしている影響に関与する因子が通常多種類にわたっているため、観察された影響と特定の大気汚染物質との関連を正確に判断することは困難な場合が多いことにも留意する必要があろう。

疫学的研究は上述のように大気汚染による急性及び慢性影響を評価するための研究方法であるが、交絡について十分に調整した結果といえども、現在行われている疫学の大部分は基本的には関連や相関をみているのであって、因果関係を直接みているものではないことに留意しなければならない。

また、集団を対象にして得られる結果は、ある質の影響に関して、異なった集団間の分布の差をみているのであって、一方の集団にその影響のみられたものの割合が有意に高いからといって、問題とする因子が直ちにその集団の中でみられるその影響を示す個人の病因とはなり得ないことにも注意すべきである。

(3) 動物実験及び人への実験的負荷研究の結果の評価

多数の報告を総合すると、① 二酸化窒素長期曝露による胚細胞の増殖を含む気道病変は、動物実験の結果から説明可能であり、実験動物において、0.4ppmないし0.5ppmで認められると評価される。② 各種の汚染物質は、一過性に気道収縮剤に対する気道反応性の亢進を来し、気道が過敏な気管支ぜん息患者については、二酸化窒素0.1ppmの短期曝露で気道反応性の亢進をもたらす可能性があると評価される。③ 長期曝露下では実験動物の気道感染抵抗性は二酸化窒素0.5ppmにおいて低下すると評価される。④ 二酸化窒素曝露による実験動物での肺の気腫性変化の成立は明らかであるが、曝露濃度がある程度高く、曝露期間がある程度長期間であることを必要とする。

(4) 疫学的知見のまとめ

ア 持続性せき・たん(成人)

慢性気管支炎の基本症状に対応する疫学的指標は持続性せき・たんであろう。

これについての、環境庁一九八六年a調査(昭和五七年から五八年度に小学生の両親、祖父母のうち居住歴三年以上でかつ三〇ないし四九歳の者三万三〇九〇人を対象)及び環境庁一九八六年b調査(昭和五五年から五九年度に小学生の両親、祖父母のうち居住歴三年以上の二〇歳代から六五歳以上を含む一六万七一六五人を対象)の結果は別紙H③ないし⑤のとおりであって、大気汚染と持続性せき・たんの有症率の関連に着目すると、一部に有意な関連がみられるものの、両者は必ずしも一致した傾向を示していない。

イ ぜん息様症状・現在(児童)

環境庁一九八六年a調査及び同b調査によると、児童については、ぜん息様症状・現在の有症率と大気汚染との相関は、浮遊粉じんの男で異なる結果を示しているが、二酸化窒素で男女とも、二酸化硫黄では女のみ共通して有意な相関がみられたもので、二酸化窒素を指標とした結果は別紙H⑥、⑦のとおりである。

この他、気管支ぜん息の受診率等を調査した環境庁一九八六年c調査によると、〇歳から九歳までの小児の気管支ぜん息の受診率及び一年間の新規受診率は、いずれも大気汚染濃度との間に有意な相関がみられていない。

ウ ぜん息様症状・現在(成人)

環境庁一九八六年a調査及び同b調査によると、成人については、ぜん息様症状・現在の有症率と大気汚染との間に有意な相関は殆ど認められず、特に二酸化窒素との間にはいずれも有意な相関が認められていない。環境庁一九八六年c調査では、八地域での四〇歳以上の成人の気管支ぜん息の受診率は、男女とも大気汚染濃度との間に有意な相関がみられる場合が多いが、一七地域での一年間の新規受診率は大気汚染濃度との間に有意な相関がみられていない。

(5) 現状の大気汚染と慢性閉塞性肺疾患との関係の評価

各種調査や実験から判断して、

ア 現状の大気汚染が地理的変化に伴う気象因子、社会経済的因子などの大気汚染以外の因子の影響を超えて、持続性せき・たんの有症率に明確な影響を及ぼすようなレベルとは考えられない。

イ 現状の大気汚染が児童のぜん息様症状、持続性ゼロゼロ・たんの有症率に何らかの影響を及ぼしている可能性は否定できないと考えられるが、大気汚染以外の諸因子の影響も受けており、現在の大気汚染の影響は顕著なものとは考えられない。

ウ 現在の知見から現状の大気汚染が、成人のぜん息様症状・現在の有症率に相当の影響を及ぼしているとは考えられない。

(四) 今後の課題

(1) 二酸化窒素及び微細な粒子状物質の第一義的侵襲部位は、末梢気道部であることは動物実験の結果から、明らかになりつつあるが、更に詳しく検討する必要がある。そして、末梢気道部の影響が慢性閉塞性肺疾患の自然史において、どのように位置づけられるかは必ずしも明らかになっていないのが現状であり、今後の検討が必要であろう。

(2) 気管支ぜん息の基本病態は、気道の過敏性にあると考えるが、現状の大気汚染下で通常観察されるような汚染物質の長期曝露によって、生体が気道の過敏性を獲得するかが、問題となろう。しかしながら、これを直接目的とした実験例がないため、気管支ぜん息やこれに対応した症状と大気汚染との関係の十分な解釈を困難にしていることは否めず、この面での研究の発展が望まれるところである。

(3) 大気汚染物質としては、化石燃料の燃焼に伴う二酸化硫黄、二酸化窒素、大気中粒子状物質に主に着目したところであった。環境大気中に存在するこの他の汚染物質、一酸化窒素、オゾン、硫酸塩、硝酸塩などの生体影響に関するデータは物質ごとに差があるものの、蓄積され、オゾンのように特徴的な影響像が見出されるものもある。しかしながら、これらの物質と地域人口集団の呼吸器疾患の関係を具体的に評価できるような知見は少なく、今後の検討が必要である。

(4) 主に動物実験等の分野で大気汚染物質の暴露に伴い、現時点では具体的な疾病像との関係で位置づけて解釈することが困難な影響が観察されており、これらには呼吸器以外の影響も含まれている。こうした影響についてもこれを体系づけ、大気汚染物質の生体影響の全体像を明らかにする努力が行われることが望まれる。

となっている。

5  まとめ

以上の各実験や研究、とりわけ、東京都及び中央公害対策審議会の各報告を検討すると、現状の大気汚染が直接に沿道住民らの健康に明確な影響を与えていると認める足りる証拠は、未だ十分でないと言わざるを得ない。

もっとも、原告らの供述及び陳述書から認められる排ガスを原因とする被害の程度及び道路端から二〇m以内を沿道地域とすることに合理性があるとの東京都の報告ならびに本件に現われたその他の証拠を総合すると、道路端から二〇m以内に居住する原告らは、排ガスにより洗濯物への被害をはじめ有形無形の負荷を受けていると認めるのが相当である。

なお、原告らも主張するように、最近、研究者(〈書証番号略〉)によって、排ガス中に発癌性物質の含有が伝えられつつある点も、早期の見きわめを必要とする課題である。

五振動による被害

1  振動の人間及び家屋に対する影響、各種アンケート調査についての認定及び評価は、原判決三一九丁裏四行目から三二七丁表八行目までのとおりであるからここに引用するが、そのいくつかを次に簡単に要約すると共に、(八)以下に若干敷衍する。

(一) 道路振動は、地面や床面を通じて身体へ伝達される全身振動であり、一般に振動によって心理的、生理的影響が生じるとされる限界値よりもかなり低い。

(二) 人間の振動感知の限界(閾値)は、五五ないし六〇デシベル程度、不快感を感じるのは約九〇ないし九五デシベルであるところ、地震の軽震(戸などがわずかに動くのが判る程度)で六五ないし七五デシベル、弱震(家屋が揺れ、戸等が鳴動する程度)で七五ないし八五デシベルである。

(三) 人体に有意な生理的影響を認めることができるのは、九〇デシベル程度とされており、木造家屋の振動増幅量は五、六デシベルとされている。

(四) 睡眠に対する影響は、その深度により異なるものの、一般に全く影響のみられない振動レベルは寝具上で六〇デシベル(地上五五デシベル)、睡眠に対する許容レベルは寝具上で六五デシベル(地上六〇デシベル)と考える実験結果がある。

(五) 騒音との関係で、「気分がいらいらする」旨の訴えの九五%信頼上下限界では、振動単独曝露で42.7ないし51.3デシベル、騒音との同時曝露では56.1ないし59.9デシベルであり、振動単独の方が低いレベルで反応が生じているが、「考えごとや読書等の邪魔になる」旨の訴えでは有意差はみられていない。

(六) 道路振動公害での訴えは、睡眠妨害が最も多く、次いで精神的障害、家屋の損傷の順になる。

(七) 環境庁が昭和四八年度から四九年度にかけて行った住民の面接調査によると、道路振動で「やや感じる」旨の訴え率が五〇デシベルで五〇%、「よく感じる」旨の訴え率が六二デシベルで三〇%、六九デシベルで五〇%であった。

(八) 地震のような一過性の振動により、一般的な家屋が物的被害を受けるのは、古くからの内外の多くの研究によれば、八五ないし九〇デシベル以上と考えられる(木造やプレハブ、レンガ造りの家の漆喰壁に小ひびわれ、壁がわずかに落ちるのが八五デシベルから、鉄筋コンクリート造りの家屋に同様の被害が生ずるのは九〇デシベルから)。

(九) 公害振動は、地震と異なり、振動継続時間が長く、発生頻度も著しいものであって、明らかに地震と同一には考えられないのであるが、環境庁の調査によれば、七〇デシベルを超えると多くの場合、建付が狂う等の軽度の損傷に対して被害感がみられることから、長期間にわたって発生する振動についての基準としては、住民に被害感を与えないという観点からも、七〇デシベル以下とすることが望ましいと判断された。

(一〇) 自動車の走行時に発生する振動が、家屋内で五七デシベル(地表で五二デシベル)以下であれば、振動はほとんど認知されない。

2  まとめ

以上によれば、被害発生に至る実験、研究の結果と前記侵害行為の項で認定の各道路端の測定値からみて、本件道路を走行する自動車から発生する振動が原告らに対し共通する被害を与えていると認めるに足らず、原審及び当審における原告ら本人尋問の結果及び原告らの供述書によっても右認定を左右するに足りないし、他に原告ら主張の被害を認めるに足る証拠はない。

ただし、本件道路からの振動の存在と原告らがそれに対し被害感を持っていることは原判決認定のとおりであるから、本件道路からの振動それ自体を独立の被害として認定できなくとも、被害の総体の一つの要素として考慮することはもとよりさしつかえないと考えられる。

六その他の被害

なお、原告らはその外にも、営業妨害、沿道南北住民の交流阻害、日照妨害、電波受信妨害、浸水妨害、落下物による被害などを主張するが、これらについての判断(沿道南北住民の交流阻害は地域環境の破壊の主張の一分野であろう)は原判決理由第八、二、2、(二)、(2)(四二九丁表五行目から同裏九行目)と同一であるのでこれを引用するが、要するに、独立の被害として認めることは出来ないというべきである。

七総まとめ

以上に説示したところを総合すると、原告らの共通の被害として把握されるのは、健康被害にまではいたらないものの、それに近接した段階の生活妨害ということになる。もっとも、この生活妨害によって原告らが被る精神的苦痛は、侵害の中心となる騒音レベルの程度によって異なると解すべきである。

第八違法性(受忍限度)

前認定のとおり、原告らの被侵害利益が、本件道路を走行する自動車の発生する騒音等によって侵害されているところ、被告らの責任を肯定するためには、違法性の審査として、被告らが主張するように、かかる騒音等の程度が、社会の一員として社会生活を送る上で受忍するのが相当といえる限度を超えているかどうかによって決せられるものといえる。もっとも、差止請求の場合には、損害賠償と異なり、社会経済活動を直接規制するものであって、その影響するところが大きいのであるから、その受忍限度は、金銭賠償の場合よりもさらに厳格な程度を要求されると解するのが相当というべきである。いずれにしても、この見地からすると、右受忍限度を判断するにあたっては、侵害の態様とその程度、被侵害利益の性質とその内容、侵害行為の公共性、発生源対策、防止策、行政指針及び地域性等について、総合的な判断が必要である。そのうち、侵害行為の態様とその程度及び被侵害利益の性質とその内容については、既に第六侵害状況及び第七被害の各項で説示したとおりであるから、以下ではその余について順次検討する。

一公共性

1  道路の公共性一般

一般論としての道路の公共性についての認定、判断は、次に付加するほかは、原判決四二九丁裏一二行目から四三〇丁表七行目までのとおりで、要するに被告らが道路の有する一般的な公共性として主張するところと同旨であるから、これを引用し、原判決四三〇丁表七行目の次に、行を改めて次のとおり付加する。

「(1) 自動車保有台数の推移など

〈書証番号略〉によれば、別表Bのとおり、我国の自動車保有台数(小型特殊自動車、被牽引車、二輪車を除く。)は、昭和二五年末には約三六万台であったものが昭和六三年末には約五二六四万台(約一四六倍)となり、交通量は、軽自動車を除いた自動車の走行台キロ(走行している自動車の台数に当該自動車が走行した距離を乗じたもの。)は、昭和二五年度には約三八億台キロであったものが昭和六三年度には約四七八三億台キロ(約一二六倍)にまで増大していることが認められる。

(2) 貨物輸送について

また、同じく〈書証番号略〉によれば、別表Bのとおり、我国の国内貨物総輸送量は、これを輸送トン数でみると昭和二五年度の五億二三〇〇万tが昭和六三年度には六〇億〇九〇〇万t(約一一倍)に、輸送トンキロ(輸送トン数に輸送キロメートルを乗じたもの。)は昭和二五年度の六四七億トンキロが昭和六三年度には四八〇七億トンキロ(約七倍)となっているが、そのうち、自動車輸送の占める割合は、輸送トン数の分担率でみると昭和二五年度の五九%が昭和六三年度には九〇%となり、輸送トンキロの分担率でみると昭和二五年度の八%が昭和六三年度には五〇%となっていること、他方、鉄道輸送の輸送トンキロの分担率は、昭和二五年度の五二%が昭和六三年度には五%となったこと、輸送している品物でみると、昭和六三年度において輸送トンキロの分担率四四%を占める海運は、主に石炭や金属、鉱物、セメント、石油製品など重いものや大量に安いコストで運ぶ品物を分担し、自動車はその機能性に即して、鮮度が重視されたり、値段の高い加工製品などを分担していること、距離別の自動車輸送の分担率でみると、〈書証番号略〉によれば、昭和六二年度の場合、輸送距離二〇Kmの場合は九九%、五〇Kmの場合は九三%、一〇〇Kmの場合は八六%、二〇〇Kmの場合は七二%、四〇〇Kmの場合は五二%となっており、近年、近距離輸送のみならず、長距離運送においても自動車輸送の占める割合が増加していることが認められる。

(3) 旅客輸送について

同じく〈書証番号略〉によれば、別紙Bのとおり、我国の国内旅客総輸送量は、これを輸送人でみると昭和二五年度の一〇〇億〇四〇〇万人が昭和六三年度には六〇三億〇二〇〇万人(約六倍)に、輸送人キロ(輸送人数に輸送キロメートルを乗じたもの。)は昭和二五年度の一一七一億二六〇〇万人が昭和六三年度には九九七八億三三〇〇万人(約8.5倍)となっているが、そのうち、自動車輸送の占める割合は、輸送人数の分担率でみると昭和二五年度の約一五%が昭和六三年度には約六五%となり、輸送人キロの分担率でみると昭和二五年度の約八%が昭和六三年度には五九%となっていること、他方、鉄道は輸送人数が約八四%から約三四%に、輸送人キロが九〇%から約三六%に減少していることが認められる。

(4) 右のような自動車保有台数の増加と貨物及び旅客輸送の分担率の上昇に伴い、本件道路沿道においても走行する自動車の台数は増え続け、ますます公共性が高くなるに至っている。」

2  本件道路の重要性

本件道路の重要性については、前叙第三(本件道路の沿革及び現況等)でも触れたのであるが、原判決四三〇丁表九行目から同裏末行までの説示を引用し、更に、右と重複する部分もあるが、弁論の全趣旨によって認められる当審における被告らの主張二、(四)の事実のとおりである。

二対策

1  発生源対策

(一) 騒音及び排ガスに対する法律による規制、その経緯及び効果

騒音及び排ガスの法律による規制、その経緯及び効果については、次に付加するほかは原判決第八の二の2の(二)の(5)のアの(ア)のa及びb(原判決四三五丁表一一行目から四三九丁表九行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決四三七丁裏六行目の次に、行を改めて、次のとおり加える。

「また、〈書証番号略〉によれば、大型車のうちのトラック、小型全輪駆動車及び軽二輪車について昭和六〇年一〇月から、大型特殊車について昭和六一年一二月から、小型二輪車について昭和六二年一〇月から規制が強化され、中央公害対策審議会の答申「自動車騒音の許容限度の長期的設定方策」(昭和五一年六月一五日中公審第一二九号)の第二段階目標値が全車種について達成された。

その結果、昭和四六年規制時に比べ、騒音のエネルギー量は、それぞれ乗用車及び中型車については二五%に、大型車については一三%に、小型車については二〇%に、小型二輪車については八%に、軽二輪車については一三%に低減された。」

(2) 原判決四三九丁表九行目の次に、行を改めて、次のとおり加える。

「また、〈書証番号略〉によれば、昭和五八年までに全車種について第二段階規制が実施され、その結果、未規制時に比較して、ガソリン、LPGを燃料とするバス、トラックについては約八一ないし七一%、ディーゼル自動車については、直接噴射式エンジンのものは約五一%、副室式エンジンのものは約四八%の窒素酸化物がそれぞれ削減されたことが認められる。

しかし、同号証によれば、自動車単体の排出量が減少しても、これら規制効果を上回る自動車台数の増大、交通量の増加によって、排出量は全体として増加していることから、より一層の窒素酸化物や浮遊粒子状物質の排出量低減を目指して、規制の強化が実施されることとなっており、具体的には次のとおりである。(数値は削減量ではなく、規制前と比べた比率)

a 窒素酸化物

(a) 短期目標(平成四年ないし六年規制によって以下のとおり低減する)

ⅰ トラック・バスのうちガソリン・LPG車の重量車(車両総重量が2.5tを超えるもの) 規制前に比べ二〇%(八〇%削減)

ⅱ トラック・バスのうちディーゼル車の副室式軽量車(車両総重量が1.7t以下のもの) 同二四%(七六%削減)

ⅲ 同直接噴射式中量車(車両総重量が1.7tを超え2.5t以下のもの) 同二六%(七四%削減)

ⅳ 同直接噴射式重量車 同三五%(六五%削減)

(b) 長期目標(出来るだけ早期に、遅くとも一〇年以内に低減する)

ⅰ トラック・バスのうちガソリン・LPG車の中量車 同一三%

ⅱ 同重量車 同一七%

ⅲ トラック・バスのうちディーゼル車の副室式軽量車 同一六%

ⅳ 同中量車 同二五%

ⅴ 同重量車 同四一%

ⅵ トラック・バスのうちディーゼル車の直接噴射式中量車 同一四%

ⅶ 同重量車 同二六%

ⅷ 乗用車のうち、ディーゼル車同一六%

b 浮遊粒子状物質

(a) 短期目標(平成五年ないし六年規制によって以下のとおり低減する)

ⅰ トラック・バスのうち軽量車0.2g/Km

ⅱ 同中量車 0.25g/Km

ⅲ 同重量車 0.7g/kWh

ⅳ 乗用車 0.2g/Km

(b) 長期目標(出来るだけ早期に、遅くとも一〇年以内に低減する)

ⅰ トラック・バスのうち軽量車0.08g/Km

ⅱ 同中量車 0.09g/Km

ⅲ 同重量車 0.25g/kWhKm

ⅳ 乗用車 0.08g/Km

c ディーゼル黒煙規制

(a) 短期目標(平成五年ないし六年規制によって以下のとおり低減する)

現行規制(昭和四七年規制)の八〇%

(b) 長期目標(出来るだけ早期に、遅くとも一〇年以内に低減する)

現行規制(昭和四七年規制)の五〇%」

(二) 道路の側における対策

(1) 交通規制

交通規制についての詳細は、原判決四三九丁裏一一行目から四四〇丁表四行目までのとおりであるから、これを引用するが、その要点は、本件国道の最高速度規制が順次強化され、毎時六〇Kmから昭和五二年三月以降毎時四〇Kmとされたこと、本件県道は現在毎時六〇Kmであること、また本件国道の夜間の自動車通行が、現在は中央四車線に限定されていることである。

(2) 道路構造面の対策

道路構造面については、原判決四四〇丁裏三行目の次に行を改めて次のとおり付加するほかは、原判決四四〇丁表六行目から同裏三行目までのとおりであるから、これを引用する。

「a 本件国道

(a) 〈書証番号略〉及び当審証人南部隆秋の証言並びに弁論の全趣旨によれば、昭和五〇年度より在来の車道一〇車線が順次八車線に削減され、跡地に遮音築堤(その上は緑地帯)や植樹帯が設置され、同六〇年ころに終了したことが認められる。なお、遮音築堤及び緑地帯の設置による騒音及び振動の軽減効果が、騒音で二ないし三ホン、振動で三デシベル前後であることは、原判決認定のとおりである。

(b) 路面の平坦

当審証人南部隆秋の証言及び〈書証番号略〉によると、近畿地方建設局管内の幹線道路(国道一号、二号、二四号、本件国道、一七一号、一七六号の六路線、延長約五〇〇Km)を対象とする平成元年度の調査で、一六mm以上のわだち堀れがあったのは、路線延長の12.2%、兵庫県国道工事事務所管内でも4.6%であるのに対し、兵庫県内の本件国道は重点的に補修が行われ、一六mm以上のわだち堀れがあったのは、路線延長の約二%、約四〇〇mに過ぎなかったこと、なお、本件国道では二〇mmを超えるわだち堀れは皆無であったが、その余の対象道路では、数こそそれほど多くはないが、二〇mmを超えるものが散見されたこと、したがって、本件国道の路面状況は、他に比較して路面の平坦性が保持されていることが認められる。

(c) 遮音壁設置による騒音の低減効果が平均三ないし四ホンであることは、原判決認定のとおりであり、当審証人南部隆秋の証言によれば、遮音壁はある程度の延長がないと効果がなく、逆に余り長いと沿道からの出入りが出来ないし、日照阻害とか沿道の商店などの都合などもあって、全区間にわたる設置はできず、それらの諸事情を総合的に考慮しながら、段差部、高架部を中心に可能な限り設置してきたところ、従来設置していた路面からの高さ二mの音を反射させる遮音壁に替えて、昭和五七年度からは一部の区間で路面からの高さ三mの遮音壁と音を反射せずに吸収する高さ二m吸音板への取替えが行われたことが認められる。

b 本件県道

(a) 〈書証番号略〉及び当審証人南部隆秋の証言によれば、本件国道併設区間19.6Kmのほぼ全区間にわたって遮音壁が設置済み(設置していないのは、日照阻害の問題で地元と協議の上設置に至らなかった区間のみ)であり、〈書証番号略〉によれば、その費用は平成元年度末で、本件県道神戸線は約一九億二〇〇〇万円、同大阪線は約一四億円であることが認められる。

(b) 〈書証番号略〉によれば、平成元年度までに環境施設帯(幅員一〇ないし二〇mでその中に植樹帯と歩道を設けてある。)は、右本件国道併設区間のうち、上下線併せて一六七〇m(設置率4.3%)であり、費用は約五一億三二〇〇万円であることが認められる。」

2  道路沿道の側における対策

(一) 住宅防音工事及び移転の助成

住宅防音工事及び移転の助成についての認定は、次に付加、差し替えするほかは、原判決四四〇丁裏六行目から四四一丁裏三行目のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決四四一丁表一行目「第一四四号証の一ないし三、」の次に「第一五六号証、第一六九、一七〇号証、第一七四号証、第一七五号証の一・二、第一七六号証」を、同行「乙1号各証」の前に「原審及び当審で提出の」を、同三行目「代表者尋問の結果、及び」の次に「当審証人南部隆秋の証言並びに」をそれぞれ加える。

(2) 原判決四四一丁裏三行目の次に、行を改めて「原審口頭弁論終結以後の状況を加味すると、結局、これら本件道路の助成済住宅に対する助成金総額は、原判決添付別紙G②表及びG⑥表のとおり平成二年度末で一四一億五六九六万円、一戸平均の助成額では防音助成額が約一四八万円、移転助成額が約四六九万円であり、原告ら一二八名のうち、平成三年三月末現在において助成を受けて防音工事を完了した原告宅は九八戸であって、原告らに対する助成金総額は平成三年三月末現在において約三億三七三〇万円である。

各原告別の実施状況は、原判決添付別紙G③表と新規に工事を行った五戸(別紙G⑦表)及び追加工事を行った二一戸別紙G⑧表のとおりである。なお、防音助成工事を実施していない原告についての理由は次のとおりである。

ア 助成基準値に満たないもの四戸

9 藤川美代子 13 吉田岩吉 22淵辺一雄 72 藤井隆幸

イ 任意にまたは被告公団の環境施設帯設置事業によって転出済みのもの二一戸 (転出日の認定は、前叙第二の二原告らの転出時期のとおり)

24 本田早苗 29 中村松子 51 三上玲子 97 南條みちえ(承継人南條孝一) 98 片山きぬえ 101 山本もりえ 109 後藤欣康 110 東吉博 131 岡本とし子 135 高好智王 136岩本幸子 137 森嶋千代子 138 榎俊子 139 森嶋邦子 140 有田ミサカ 143 瀬戸孝夫 149 原田久代 150 桂郁子 151 西村房子 152 坂本照子

ウ 被告公団から助成措置の通知があったが、契約成立に至っていないもの六戸(〈書証番号略〉)

40 薩谷泰資 (通知日昭和五七年三月二三日)

69 松浦進 ( 同昭和五三年一月三一日)

75 立花弘子 ( 同昭和五四年一一月一六日)

90 掘恭二 ( 同昭和五四年七月)

91 平井清 ( 同昭和六一年九月一六日)

120 松永葉子 ( 同平成三年四月一二日)」を加える。

(3) 原判決添付G①表を別紙G⑨表と差し替える。

(4) 原判決添付G②表の次に別紙G⑥表を加える。

(二) 日陰及び電波障害対策、住環境整備モデル事業

被告公団が、道路構造物による日陰によって生ずる暖房、照明、乾燥に要する費用及び高架道路によるテレビの受信障害解消のための共同受信設備設置等の費用を負担していること、被告らが二宮住環境整備モデル事業に協力していることは、次に付加するほかは、原判決四四一丁裏五行目から一一行目までのとおりであるから、これを引用する。

原判決四四一丁裏一一行目の次に行をあたらめて「〈書証番号略〉によれば、被告公団が、道路構造物による日陰によって生ずる損害等(暖房、照明、乾燥に要する費用)として平成元年度末までに四五七戸に対し、約二億四〇〇〇万円(一戸当たり約五二万六〇〇〇円)を負担したこと及び〈書証番号略〉によれば、被告公団が、受信障害対策費として平成元年度末までに九五四五戸に対し一七億八一九三万円(一戸当たり約一八万七〇〇〇円)を負担したことが認められる。

また、当審における鑑定の結果によれば、モデル住宅一階の管理人室における夜間窓閉時の騒音レベルは、本件道路に近い部屋でL50が二九デシベル(A)、奥の部屋で二三デシベル(A)であったことが認められる。」を加える。

三行政指針(環境基準、要請基準)

〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  公害対策基本法は、「人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」を定めることとしているもので、右環境基準は、許容限度あるいは受忍限度を画するものではなく、「望ましい数値」としての行政上の政策目標といえる。

(二)  しかしながら、騒音に係る環境基準の基準値を設定するに当たっては、聴力喪失など人の健康に係る器質的、病理的変化の発生を基礎とするものではなく、日常生活における睡眠妨害、会話妨害、不快感などをきたさないことを目的に、「うるささ」等についての住民へのアンケート調査や、各種実験の結果等を参考にし、一般住宅と商工業といった地域によって、また交通事情(対面している道路の広さ)によって異なった基準値を設けるなどの配慮もなされているもので、私法上の受忍限度の判断と共通する方法により決定されているといえる。

(三)  したがって、前述のとおり、環境基準を超えたからといって、健康が損なわれたり、当然に受忍限度を超えているといえないのであるが、基準設定の方法に着目する時、環境基準も受忍限度を判断する際の参考とすべきものといえる。

四地域性

地域性については、前記一公共性の箇所で認定したとおりである。

五まとめ

さきに認定した本件道路の建設に至る経緯と道路としての規模に照らすと、本件道路は、周辺住民の生活上の利便に資することを目的としたものではなく、阪神間をはじめとして、広域の産業物資の流通に寄与することを目的とし、相当大きな需要を見越して建設されたものであることは、動かし難いというべきである。殊に、本件の如く極めて大きい潜在的需要を秘めた地域に、大規模な道路が新設されれば、交通需要を刺激するに至ることは、見易い道理である。逆に、この点の読みがあればこそ、これだけの道路を新設したともいえよう。いずれにしても、この見地からすると、右に考察した最近の本件道路の交通事情は、おおよそ、その予測に沿うものとして、重要な公共的使命を果たしているといってよく、そのことが少なくとも設置者側にとって、当初の予測の範囲外の事象というのは、当をえないというべきである。そうだとすれば、当然に自動車の騒音等が周辺住民に及ぼす影響に意を配った構造にしなければならなかったのであり、この観点からすると、被告らが実施した環境対策も、本来当初から予定されてしかるべきであったのに、その点が度外視されて、住民の生活領域を貫通する本件道路が開設されたと評されても仕方がないというべきであろう。もとより、その後に行われた環境対策は、右に見たとおり巨費を投じ、真摯なものであったことは、評価できるのであるが、それにしても十分に実効を収めているとまでは評し難い。

以上の次第であって、原告らの一部を含む周辺住民が、結果的に本件道路により多少の反射的な利益を受けていることは、否定できないけれども、少なくとも本件道路を走行する自動車を発生源とする騒音等について、原告らに互換性を容認するような、立場の共通性がないことは明らかというべきである。

第九差止請求

以上の諸事情を総合して、まず、差止請求について検討するに、原告らの被害は、前記認定のとおり生活妨害に止まるものであるといわざるを得ない。これに対し、本件道路は、その公共性が非常に大きく、しかもこれに代替しうる道路がないこと等を考慮すると、差止請求の関係では、原告らの被害は、未だ社会生活上受忍すべき限度を超えているとはいえないものである。

よって、本件道路からの一定限度を超える騒音、排ガスの到達、侵入の差止を求める原告らの請求は、いずれも失当として棄却を免れないこととなる。

第一〇損害賠償請求

一被告らの責任原因

本件道路が高度の公共性を有すること、被告らが周辺住民に対して実施した被害防止対策は、全体として巨額の費用を伴う真摯なものであったことは、前叙のとおりであるが、その点を考慮に入れても、本件道路の供用によって原告らに相当の被害を与えていることは、すでに指摘したところである。

そうだとすれば、本件道路の公共性、経済的有用性は、原告らの犠牲の上に成り立っているにほかならず、無視できない社会的な不公正が生じているといわなければならない。

ただ、原告らの被害も、状況によってかなり程度の差があるから、その原因の中心となる騒音について、社会生活上受忍すべき程度を検討する必要がある。

そこでまず、騒音の環境基準及び要請限度であるが、原判決添付別紙A①及び②のとおり(L50・単位はホン(A))であって、

A地域のうち二車線を越える車線を有する道路に面する地域は

朝   昼間  夕   夜間

環境基準

55以下 60以下 55以下 50以下

要請限度

70以下 75以下 70以下 60以下

B地域のうち二車線を越える車線を有する道路に面する地域は

朝   昼間  夕   夜間

環境基準

65以下 65以下 65以下 60以下

要請限度

75以下 80以下 75以下 65以下

とされているところ、右の数値と、本件道路は、大部分が本件国道の上に本件県道が高架で重なっているという二重構造になっていて、大型車の走行台数及びその占める割合も少なくないという事情並びにこれまで各種の検討した結果を総合すると、敷地におけるLeqが六五以上の原告らについては距離の遠近にかかわらず、またLeq六〇を超える原告らについては距離が二〇m以内の原告について、道路からの騒音が受忍限度を超えるものと認めるのが相当である。

次に排ガスは、前認定のとおり、健康に悪影響がないとはいえないであろうが、本件訴訟においては、証拠上、いまだ、ある一定の数値を超えると健康を害すると認めるに足る証拠がないといわざるをえないこと前叙のとおりであり、同様にどの程度の数値を超えると受忍限度を超える被害を与えるかといった点につき認定するに足る証拠もない。しかし、浮遊粒子状物質に着目すれば、〈書証番号略〉(東京都衛生局による調査)によれば、道路から二〇m以内を沿道地域とすることに合理性があると認められ、洗濯物の汚れその他につき、受忍限度を超える被害を与えていると認めても差し支えないといえよう。

してみれば、本件道路の供用につき、右限度以上の原告らに対し損害賠償請求を許容すべき違法性が認められるというべきであって、これと抵触する被告らの主張は、いずれも排斥を免れない。

すると、営造物である本件道路には安全性の欠如があり、しかも利益衡量の結果違法性が認められるのであるから、その設置または管理に瑕疵があるといわなければならない。

したがって、被告国は本件国道につき、また、被告公団は本件県道につき、それぞれ設置又は管理の瑕疵による損害を賠償する責任がある。

二被告らの責任の態様

ところで、被告らの責任の態様であるが、本件県道が開設されるまでは、一応、被告国の単独責任であると解するのが相当であるが、その設置後においては、原判決も説示するように、本件国道と本件県道の各供用行為が関連・共同し、両者が一体となって被害を与えていると解して妨げないというべきであるから、被告両名は、民法七一九条の規定に基づき共同不法行為者として不真正連帯責任を負うと解すべきである。

三危険への接近

1  被告らは、本件県道神戸線の全線が供用開始された昭和四五年二月二三日以降に本件道路の沿道であるそれぞれ肩書地に居住を始めた原告ら一三名は、いわゆる道路公害としての騒音・排ガスが存在している事実及びこれらが問題とされている事情を充分認識しながら、あえて本件道路沿道を住居として選択したものであり、本件道路からの騒音・排ガス等はこれをやむえないものと容認ないし受忍して居住したものというべきであるから、被告らに対しこれらを理由として慰謝料請求することは許されない、と主張する。

仮に、これが侵害行為の違法性を全面的に阻却する被害者の承諾があったとの主張であれば、原告らには道路公害による被害を積極的に容認するような動機もなく、被告らにも被害の容認を期待しうべき特段の事情も認められない本件にあっては、違法性を全面的に阻却する当該原告らの承諾があったと認めることはできないものである。

しかし、本件における被害の内容が、直接生命、身体にかかわるものではなく、生活妨害にとどまるものであり、他方、侵害行為の公共性が極めて高いことに鑑みると、道路公害の存在することを知りながら、居住を開始した原告らがおるとすれば、その者については、居住開始後に騒音・浮遊粒子状物質などの程度が格段に増加したとか、被害を容認しないまま入居せざるをえない合理的な理由があるとか、いった特段の事情のない限り、損害賠償額の算定にあたり、そのような事情のない原告らよりも低く算定する一事由として考慮するのが相当である。

そして、いわゆる後住原告、危険への接近を考えるにあたっての基準時であるが、弁論の全趣旨によれば、昭和四七年九月には本件県道大阪線の建設工事の禁止を求める仮処分申請がなされ、これら一連の事実についても逐一報道され、さらに同四八年五月の右仮処分申請に対する決定が大きく報道されたことが認められることからして、右決定のあった月の翌月である昭和四八年六月一日をもって相当と考える。

2 被告ら主張の原告一三名のうち、左記の二名を除く一一名については、住民票の記載から窺われる居住開始時期は被告ら主張のとおりであっても、実際の居住開始時期はそれ以前であることは、前叙第二の一原告らの居住開始時期のとおりであり、昭和四八年六月以後に居住を開始したのは、次の原告番号38真殿キクエと同71嶋昭代の二名であるところ、右二名についての判断は、原判決四五五丁裏七行目の「ではないことが」を「ではないし、また、右一二月から現住居に住むようになったのは、それまで住んでいた長男夫婦が、こんな騒々しいところでは子供のためにも良くないといって転居したため、所有家屋を空き家にしておくわけにもいかず、代わりに入居したことが」と改めるほかは、原判決四五五丁裏三行目から四五六丁表三行目までのとおりであるから、これを引用する。

3  なお、〈書証番号略〉及び前記認定の騒音量によれば、原告番号58天野格は、転出した同59多田寛治(原審相原告)の土地建物を昭和五七年七月に買取り、同人宅を取り壊して車庫としたことにより、道路端からの距離も二一メートルから八メートルへと近くなり、敷地境界での騒音値もLeq値が約六八ホンから約七五ホンへと上昇したことが認められる。よって公平の見地から、賠償額の計算にあたっては、距離による加算は行わないこととする(別紙損害賠償認容額一覧表の注イ参照)。

四消滅時効

消滅時効の主張に対する判断は、原判決四五四丁表三行目から同裏二行目まで(ただし、表四行目の「同四〇年代の中頃から」を「同四八年六月頃には」と改める。)のとおり(なお、同丁表二行目の「同四九年」は原審裁判所の決定更正により「同四八年」とされている。)であるから、これを引用する。

五将来の損害賠償請求の適法性

原告らは、本件口頭弁論終結後に生ずべき被害についても、損害賠償を求めるところ、それが民訴法二二六条所定の将来の給付請求に該当することはいうまでもない。

ところで、将来の給付請求が許容されるための要件については、すでに説示のとおりであるから、その見地に則って、本件につき検討すると、本件道路について被害を防止、軽減するために、今後被告らによって実施される諸方策の内容や実施状況、原告らの個々に生ずべき種々の生活事情の変動等によって、原告らが将来本件道路から被る被害の有無、程度は変動することを免れないものである。しかも、これらの被害は、前述の諸要因を総合判断したうえ、被害者において受忍すべきものとされる限度を超える場合にのみ損害賠償が認められるのであるから、現時点において将来の具体的事実関係を見据えて、あらかじめ賠償すべき金額を具体的に認定することは不可能といわなければならないのであって、このような損害賠償請求権は、それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成立の有無、内容を判断すべきであり、かつまた、その成立要件の具備については請求する者においてその立証の責任を負うべき性質のものであるといわざるをえない。

よって、原告らの損害賠償請求のうち、口頭弁論終結の日である平成三年七月一九日の翌日以後に生ずべき損害の賠償を求める部分は、権利保護の要件を欠くものとして、却下されるべきものである。

六損益相殺

被告らの、原判決添付別紙G⑤記載の原告らが公害健康被害補償法による障害補償費を受けていることを前提とする損益相殺の抗弁に対する判断は、原判決四五六丁表五行目から同裏九行目までと同一であるから、これを引用する。

七具体的な額の算定

1  前述のように、原告らが騒音によって受ける被害は、グループ別に共通のものとして捉えることができる。

次に浮遊粒子状物質による被害を評価するに当たっては、前認定のとおり、道路端から二〇メートル以内に居住している原告に限って斟酌することとする。

また、原告らの損害が日々発生していることは、前記四「消滅時効」で述べたとおりであるが、慰謝料の算定にあたっては、原告らの請求が一か月を単位としていること、被害そのものもある程度の期間の継続によって現実化するともいえることに照らし、一か月を単位として算定することとする。

2  そこで、慰謝料額の算定に当たっては、騒音及び浮遊粒子状物質の内容程度と被害の高度の関連性、加害期間の長さとその間の原告ら側に現われた諸事情をいちいち慰謝料額に反映させることの不可能性、原告らによる本件請求が一律請求でなされていること、その他本件にあらわれた一切の事情を総合考慮し、一か月当たりの慰謝料額の基準を次のとおりと定めることとする。

(一) グループの別

・基準区分・金額

(1) aグループ(A、B、Cのグループ)

全員        甲 一〇〇〇〇円

(2) bグループ(D、E、Fのグループ)

(a) 原告番号75を除く原告ら

乙 八〇〇〇円

(b) 同75      丙 六〇〇〇円

(3) cグループ(G、Hのグループ)

(a) 同131      乙 八〇〇〇円

(b) 同125      丙 六〇〇〇円

(4) dグループ(I、Jのグループ)

全員        丙 六〇〇〇円

(5) eグループ(K、Lのグループ)

(a) 原告番号80を除く原告ら

乙 八〇〇〇円

(b) 同80      丙 六〇〇〇円

(6) gグループ(Nのグループ)

全員        乙 八〇〇〇円

(7) oグループ(Oのグループのうち距離二〇m以内の者)

原告番号113、120、121、149、150、152

丁 五〇〇〇円

(8) iグループ(P、Q、Rのグループ)

全員        乙 八〇〇〇円

(9) jグループ(Sのグループ)

(a) 同55      乙 八〇〇〇円

(b) 同50      丙 六〇〇〇円

(10) 防音工事の助成は、慰謝料額減額事由になると解すべきであるから、工事完成の日から、六五ホン対策がなされたものについては右(1)ないし(9)の二〇%、六〇ホン対策がなされたもの(六五ホン対策がなされていないものを含む)については四〇%を減額することとする。なお、助成する旨の通知を受けながら、助成の申請をしていない場合については、公平の見地から通知のあった日から一年後には助成工事の完成をみたものとして取り扱うこととする(別紙損害賠償認容額一覧表の注ウ参照)。

(11) モデル住宅に入居後の原告らについては、騒音及び距離の慰謝料額ともに、五〇%減額することとする(別紙損害賠償認容額一覧表の注ウ参照)。

(二) 道路端から二〇m以内 三〇〇〇円

(三) 受忍限度を超える騒音による被害と浮遊粒子状物質による被害をともに受けている原告らについては、右基準及び方法によって算出した各慰謝料額を合算するものとする。

3  月数計算は、次のとおり行うこととする。

月数は、一か月を単位として行うこととし、慰謝料増減事由が同一の損害賠償対象期間について、その始期は、当該期間の最初の日または転入、慰謝料増減事由の発生した日の属する月の翌月の初日からとし(ただし、防音工事の完了が月末日の場合、工事後の月数計算にあたっての始期は翌月の初日からとする。)、その終期は、当該期間の最後の日または転出、慰謝料増減事由の終了した日(したがって、その月は日割計算となる。なお、後記5、(四)を参照。)までとする。

また、慰謝料増減事由を考慮した月当たりの慰謝料額が一〇〇円未満の端数を生じるときは、一〇円の桁で四捨五入することとする。

4  原告らは、訴状送達の日である昭和五一年九月一三日までの損害賠償金に対応する弁護士費用として(本人あるいは承継前原告一人につき)二五万円と右金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和五一年九月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、弁論の全趣旨によれば、原告らが本件訴訟の提起、追行をその訴訟代理人弁護士らに委任したことは明らかであり、本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額等諸般の事情を考慮した結果によれば、原審及び当審分の各弁護士費用として、別紙損害賠償認容額一覧表の弁護士費用欄記載の各金額(全体の期間の慰謝料認容額の約一割五分相当額)を本件道路の設置・管理の瑕疵と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であるから、右の限度で原告らの弁護士費用に係る請求(遅延損害金を含む。)は理由があり、その余の請求(慰謝料認容分のない原告らについては全部の請求)は理由がないから棄却することとする。

5  以上により原告らに対する損害賠償額を計算すると、当審において認容額を変更すべき原告らについては別紙損害賠償認容額一覧表(一)、(二)記載のとおり(ただし、被告公団に対しては、同表(二)備考欄にアと記載のある原告らを除く。)となる。なお、原告らが本件訴状送達の日以前に生じた慰謝料請求権に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めていること及び被告公団の設置・管理にかかる本件県道のうち大阪西宮線の供用開始が昭和五六年六月であることから、右計算にあたり、時効が完成する最後の日の翌日から本件訴状送達の日までの期間(昭和四八年八月三〇日から昭和五一年九月一三日まで)をA期間と呼び、県道大阪西宮線の供用開始に関係する原告らについては、供用開始後をB期間と呼び、A期間及びB期間に生じた慰謝料額の合計をそれぞれの金額の頭に、と付記して同表の慰謝料額欄に記載した。

同表の記載要領について説明する。

(一) 賠償期間について

(1) 賠償期間は、当該期間の慰謝料月額が同一になるよう区分した。

(2) 期間の表示については昭和を省略し、平成年間については、計算の都合上、平成元年(昭和六四年を含む。)を64と、平成二年を65と、同三年を66と記載した。

(3) 期間の始期及び終期については、年月のみを記載した。

(二) 金額の単位は円であり、慰謝料月額とあるのは、慰謝料減額事由を考慮し、あるいは合算した後の金額である。

(計算例)

8,000×(1−20/100)+3,000=9,400(円)

(乙)×(65ホン対策)+(20m以内)=(慰謝料月額)

(三) 慰謝料額(小計)は、その数値の左の賠償期間中の慰謝料額(期間月数に慰謝料月額を乗じたもの)を示す。

(四) 総額は、右による計算を基礎とするが、それに止まらず、諸般の事情を考慮して、増額等をして算出したものである。

(五) 備考欄 別紙損害賠償認容額一覧表(二)の末尾に記載のとおりである。

6 本訴提起当時原告であって、その後死亡した原告らについて認められる損害賠償請求については、前記第二、二「原告らの変更」の項において認定したところに従い、各承継原告らがその相続分に応じてこれを承継したものと認められ、右認定に反する証拠はない。右各承継原告らが相続した額は、別紙損害賠償認容額一覧表(一)、(二)の該当原告欄記載のとおりである。

八まとめ

1  以上によれば、別紙目録(四)記載の原告らの損害賠償の請求は、当審における拡張部分を含めて理由がない。

2  次に、別紙目録(一)エ記載の原告らの損害賠償請求については、被告らのみが控訴しているのであるから、民訴法三八五条により原判決を被告らに不利益に変更することは許されず、結局のところ、同原告らに対する原審の判断は維持されることになる。

3  そして、その余の原告らのうち、

(一) 別紙損害賠償認容額一覧表(一)記載の原告らの被告ら各自に対する損害賠償請求は、同表総額欄記載の各金員並びにそのうち慰謝料額欄の及び弁護士費用欄の各金員につき昭和五一年九月一四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、

(二) 右同表(二)記載の原告らの被告国に対する損害賠償請求は、同表総額欄記載の各金員並びにそのうち慰謝料額欄の及び弁護士費用欄の各金員につき昭和五一年九月一四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、

(三) 右同表(二)記載の原告ら(ただし、同表備考欄にアと記載のある原告らを除く。)の被告公団に対する損害賠償請求は、同表慰謝料額欄のの金員の支払を求める限度で、

いずれも理由がある。

九民訴法一九八条二項の申立について

被告らは、別紙目録(六)アないしウ記載の原告ら(承継人を含む。)に対して民訴法一九八条二項の裁判を求める旨申立をし、その理由として主張した事実関係は同原告ら(現在住居所不明の109後藤欣康を除く。)の明らかに争わないところである。右事実関係と、本件記録によれば、右原告らは、仮執行宣言に基づき、昭和六一年七月一八日別紙目録(六)ア及びイの欄記載の金額を、原判決が仮執行宣言を付して支払を命じた昭和六〇年五月二三日までの損害合計金(原判決添付別紙目録(一二)及び(一三)の⑤欄の金員と同③欄の金員に対する執行文の付与を受けた日である六一年七月一七日まで遅延損害金の合計)として給付を受け、また、昭和六二年三月二五日別紙目録(六)イの欄とウ記載の金額の給付を受けたことが認められるところ、原判決中主文二、三項の給付を命じた部分が本判決主文五項の1・2記載のとおり変更を免れないことは前説示のとおりであるから、原判決に付された仮執行宣言が右変更により取り消される限度でその効力を失うべきことは明らかである。したがって、別紙目録(五)記載の原告らは被告らに対し、仮執行宣言に基づいて給付を受けた前記損害金と遅延損害金の合計額と、本判決で認容される主文五項の1・2記載の損害総額(ただし、期間の慰謝料額に対する当審判決言渡しの日である平成四年二月二〇日までの遅延損害金を付加した合計金)との差額である同目録記載の各金員をいずれも返還し、かつ、これに対する給付を受けた日の翌日である昭和六一年七月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による損害金を支払う義務がある。

第二結語

以上によれば、原告らの本訴請求のうち、別紙目録(一)ア、ウのA、B各第一表及び第三表記載の原告ら(原告番号2、65、70、78及び121の各1の原告を除く。)の本件道路の供用差止を求める請求は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと結論を異にし、同請求の訴えを不適法として却下した原判決は不当で、不利益変更にあたらないものと解するのが相当であるから、これを取消したうえ、同請求を棄却することとし、次に同A、B各第一表記載の原告ら(原告番号2、65、70、78及び121の各1の原告を除く。)の当審における口頭弁論終結の日の翌日である平成三年七月二〇日以降の慰謝料請求(いわゆる将来の請求)にかかる訴えは不適法で却下されるべきであるから、これと結論を異にする原判決をこれに即して変更し、同目録(四)記載の原告らの控訴及び当審において拡張した請求並びに被告らの同目録(一)エ記載の原告らに対する控訴は、いずれも理由がないから棄却し、同目録(一)ア及びウ記載の原告らの控訴及び当審において拡張した請求、被告らの控訴並びに同目録イ記載の原告らの附帯控訴に基づき、前記説示に従って原判決主文二、三項を主文五項1、2のとおり変更し、被告らの民訴法一九八条二項の申立については、別紙目録(五)記載の原告らに対して同目録記載の金員とこれに対する昭和六一年七月一九日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとする。訴訟費用の負担については民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用し、原告ら及び被告らの仮執行宣言の申立はいずれも必要がないと認めてこれを却下する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石田眞 裁判官福永政彦 裁判官古川行男)

目録 (一)エ

29   神戸市東灘区〈番地略〉

中村松子

31の1 同 市灘区水道筋〈番地略〉

佐々木八重

109   住居所 不明

最後の住所 兵庫県尼崎市〈番地略〉

後藤欣康

目録 (四)

9   藤川美代子

10   檜田八重子

13   吉田岩吉

16の1 中井ユリエ

72   藤井隆幸

115   真島義平

143   瀬戸孝夫

目録 (五)

原告番号 氏名    被告国   被告公団

14の1 濱田長次  一一万九六一〇円 一一万九六一〇円

17の1 湯浅芳子   七万〇三一〇円 七万〇三一〇円

25の1 坂本慶一  一〇万一六一〇円 一〇万一六一〇円

70の1 坂本修一   八万六八七〇円 八万六八七〇円

102の1 青木ナツ   五万三六九八円

149   原田久代  五一万七九四二円

損害賠償認容額一覧表(一)

原告

番号

氏名

賠償期間

期間

区分

期間

月数

基準

区分

防音工事

距離

慰謝料

月額

慰謝料額

(小計)

弁護士

費用

総額

備考

始期

終期

対策

ホン

減額

率・%

1の1

濱村和子

48

8

51

9

A

37

0

20

11,000

407,000

86,000

658,000

51

9

52

12

15

0

20

11,000

165,000

2の1

福本英晴

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

209,000

1,604,000

51

9

54

1

28

0

9

13,000

364,000

54

1

56

12

35

65

20

9

11,000

385,000

57

3

58

6

15

65

20

9

11,000

165,000

3

真木美佐子

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,745,000

51

9

54

1

28

0

9

13,000

364,000

54

1

66

7

150

65

20

9

11,000

1,650,000

4

佐々木元次

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,773,000

51

9

55

3

42

0

9

13,000

546,000

55

4

66

7

136

65

20

9

11,000

1,496,000

5

尾ノ道秋子

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,725,000

51

9

53

3

18

0

9

13,000

234,000

53

3

66

7

160

65

20

9

11,000

1,760,000

6

村上美信

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

1,964,000

51

9

54

1

28

0

9

13,000

364,000

54

1

60

8

79

65

20

9

11,000

869,000

7

山中勇

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

250,000

2,723,000

51

9

53

2

17

0

10

13,000

221,000

53

2

66

7

161

65

20

10

11,000

1,771,000

8

藤原聖士

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

250,000

2,745,000

51

9

54

1

28

0

10

13,000

364,000

54

1

66

7

150

65

20

9

11,000

1,650,000

9

水戸辰巳

48

8

51

9

A

37

0

6

9,000

333,000

223,000

1,710,400

51

9

53

11

26

0

6

9,000

234,000

53

11

63

9

118

65

20

6

7,800

920,400

12

浜田綾子

48

8

51

9

A

37

0

4

9,000

333,000

250,000

1,999,000

51

9

53

8

23

0

4

9,000

207,000

53

8

66

7

155

65

20

4

7,800

1,209,000

14の1

濱田長次

48

8

51

9

A

37

0

4

9,000

333,000

101,000

776,000

51

9

54

11

38

0

4

9,000

342,000

15

大塚ひさえ

48

8

51

9

A

37

0

5

9,000

333,000

250,000

2,002,600

51

9

53

11

26

0

5

9,000

234,000

53

11

66

7

152

65

20

5

7,800

1,185,600

17の1

湯浅芳子

48

8

51

9

A

37

0

6

9,000

333,000

112,000

855,400

51

9

53

2

17

0

6

9,000

153,000

53

2

55

11

33

65

20

6

7,800

257,400

18

井上綾子

48

8

51

9

A

37

0

9

11,000

407,000

250,000

2,378,200

51

9

54

3

30

0

9

11,000

330,000

54

3

66

7

148

65

20

9

9,400

1,391,200

19

山田あや子

48

8

51

9

A

37

0

10

11,000

407,000

250,000

2,340,600

51

9

54

3

30

0

10

11,000

330,000

54

4

57

2

35

65

20

10

9,400

329,000

57

6

66

7

109

65

20

10

9,400

1,024,600

20

櫻間正夫

48

8

51

9

A

37

0

20

11,000

407,000

250,000

2,357,400

51

9

54

2

29

0

20

11,000

319,000

54

2

65

7

137

65

20

20

9,400

1,287,800

65

7

66

7

12

60

40

20

7,800

93,600

21の1

三村千代子

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

192,000

1,470,000

51

9

54

3

30

0

9

13,000

390,000

54

4

57

4

37

65

20

9

11,000

407,000

22

淵辺一雄

48

8

51

9

A

37

0

5

13,000

481,000

250,000

3,045,000

51

9

66

7

178

0

5

13,000

2,314,000

23

広岡久子

48

8

51

9

A

37

0

6

9,000

333,000

250,000

2,007,400

51

9

54

3

30

0

6

9,000

270,000

54

4

66

7

148

65

20

6

7,800

1,154,400

24

本田早苗

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

113,000

867,000

51

9

53

6

21

0

10

13,000

273,000

25の1

坂本慶一

48

8

51

9

A

37

0

5

9,000

333,000

166,000

1,270,000

51

9

54

11

38

0

5

9,000

342,000

54

11

59

6

55

65

20

5

7,800

429,000

26

英賀正也

48

8

51

9

A

37

0

6

9,000

333,000

250,000

2,007,400

51

9

54

3

30

0

6

9,000

270,000

54

3

66

7

148

65

20

6

7,800

1,154,400

28の1

松本哲次

48

8

51

9

A

37

0

16

11,000

407,000

99,000

759,000

51

9

53

8

23

0

16

11,000

253,000

30

絹脇房子

48

8

51

9

A

37

0

6

9,000

333,000

250,000

2,007,400

51

9

54

3

30

0

6

9,000

270,000

54

4

66

7

148

65

20

6

7,800

1,154,400

32

瓦庄市

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,761,000

51

9

54

9

36

0

9

13,000

468,000

54

9

66

7

142

65

20

9

11,000

1,562,000

33

杉浦昭弘

48

8

51

9

A

37

0

6

13,000

481,000

117,000

897,000

51

9

53

8

23

0

6

13,000

299,000

34の1

岡本やエ

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

233,000

1,785,000

51

9

54

8

35

0

9

13,000

455,000

54

8

59

4

56

65

20

9

11,000

616,000

36

習田健二

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

90,000

688,000

51

9

52

6

9

0

9

13,000

117,000

37

住吉隆

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

250,000

2,547,000

51

9

54

12

39

0

10

13,000

507,000

54

12

64

11

119

65

20

10

11,000

1,309,000

38

真殿キクエ

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

250,000

2,703,000

51

9

54

8

35

0

10

13,000

455,000

54

8

64

3

115

65

20

10

11,000

1,265,000

64

3

66

7

28

60

40

10

9,000

252,000

39

竹田谷真一

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

250,000

2,815,000

51

9

56

12

63

0

10

13,000

819,000

56

12

66

7

115

65

20

10

11,000

1,265,000

40

薩谷泰資

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,727,000

51

9

58

3

78

0

9

13,000

1,014,000

58

4

61

8

41

65

20

9

11,000

451,000

61

9

66

7

59

60

40

9

9,000

531,000

41

魚谷耕二

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,639,000

51

9

54

3

30

0

9

13,000

390,000

54

3

61

12

93

65

20

9

11,000

1,023,000

61

12

66

7

55

60

40

9

9,000

495,000

43

時岡三郎

48

8

51

9

A

37

0

17

11,000

407,000

226,000

1,731,000

51

9

55

1

40

0

17

11,000

440,000

55

1

60

11

70

65

20

17

9,400

658,000

44

宇都洋

48

8

51

9

A

37

0

9

11,000

407,000

250,000

2,386,200

51

9

54

8

35

0

9

11,000

385,000

54

8

66

7

143

65

20

9

9,400

1,344,200

45

森政雄

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,625,000

51

9

55

3

42

0

9

13,000

546,000

55

3

60

5

62

65

20

9

11,000

682,000

60

5

66

7

74

60

40

9

9,000

666,000

46の2

後藤修

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

205,000

1,572,000

51

9

54

9

36

0

9

13,000

468,000

54

9

57

11

38

65

20

9

11,000

418,000

47

加尻巌

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,627,000

51

9

54

12

39

0

9

13,000

507,000

54

12

60

9

69

65

20

9

11,000

759,000

60

9

66

7

70

60

40

9

9,000

630,000

48

八木周三

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,613,000

51

9

54

7

34

0

9

13,000

442,000

54

8

60

7

72

65

20

9

11,000

792,000

60

7

66

7

72

60

40

9

9,000

648,000

49

田中フミエ

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,767,000

51

9

54

12

39

0

9

13,000

507,000

54

12

66

7

139

65

20

9

11,000

1,529,000

50

河野壽生

48

8

51

9

A

37

0

26

6,000

222,000

152,000

1,168,400

51

9

58

11

86

0

26

6,000

516,000

58

11

63

9

58

65

20

26

4,800

278,400

51

三上玲子

48

8

51

9

A

37

0

8

11,000

407,000

78,000

595,000

51

9

52

7

10

0

8

11,000

110,000

52の1

樋口賀子

48

8

51

9

A

37

0

8

5,500

203,500

80,000

615,300

51

9

53

12

27

0

8

5,500

148,500

53

12

57

3

39

65

20

8

4,700

183,300

52の2

樋口雅一

48

8

51

9

A

37

0

8

2,800

103,600

41,000

313,800

51

9

53

12

27

0

8

2,800

75,600

53

12

57

3

39

65

20

8

2,400

93,600

52の3

樋口昭子

48

8

51

9

A

37

0

8

2,800

103,600

41,000

313,800

51

9

53

12

27

0

8

2,800

75,600

53

12

57

3

39

65

20

8

2,400

93,600

54

麻生健治

48

8

51

9

A

37

0

9

11,000

407,000

250,000

2,311,000

51

9

54

1

28

0

9

11,000

308,000

54

1

63

3

110

65

20

9

9,400

1,034,000

63

4

66

7

40

60

40

9

7,800

312,000

55

建井一子

48

8

51

9

A

37

0

20

11,000

407,000

250,000

2,317,400

51

9

56

8

59

0

20

11,000

649,000

56

8

60

12

52

65

20

20

9,400

488,800

60

12

66

7

67

60

40

20

7,800

522,600

56

木矢佳延

48

8

51

9

A

37

0

25

8,000

296,000

227,000

1,742,200

51

9

55

11

50

0

25

8,000

400,000

55

11

66

7

128

65

20

25

6,400

819,200

57

永田健

48

8

51

9

A

37

0

15

11,000

407,000

250,000

2,410,200

51

9

55

11

50

0

15

11,000

550,000

55

11

66

7

128

65

20

15

9,400

1,203,200

58

天野格

48

8

51

9

A

37

0

21

8,000

296,000

226,000

1,733,200

51

9

55

6

45

0

21

8,000

360,000

55

6

57

7

25

65

20

21

6,400

160,000

57

7

66

7

108

65

20

8

6,400

691,200

60

横道利市

48

8

51

9

A

37

0

9

11,000

407,000

250,000

2,474,200

51

9

59

3

90

0

9

11,000

990,000

59

3

66

7

88

65

20

9

9,400

827,200

61

遠山重雄

48

8

51

9

A

37

0

9

11,000

407,000

250,000

2,378,200

51

9

54

3

30

0

9

11,000

330,000

54

4

66

7

148

65

20

9

9,400

1,391,200

62

井上宗弘

48

8

51

9

A

37

0

12

13,000

481,000

250,000

2,749,000

51

9

54

3

30

0

12

13,000

390,000

54

4

66

7

148

65

20

12

11,000

1,628,000

63

松田正人

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

250,000

2,749,000

51

9

54

3

30

0

10

13,000

390,000

54

4

66

7

148

65

20

10

11,000

1,628,000

64

清水勝巳

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,579,000

51

9

52

8

11

0

9

13,000

143,000

52

8

61

1

101

65

20

9

11,000

1,111,000

61

1

66

7

66

60

40

9

9,000

594,000

65の1

雑古清子

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

1,984,000

51

9

52

5

8

0

9

13,000

104,000

52

6

60

11

102

65

20

9

11,000

1,122,000

60

11

61

2

3

60

40

9

9,000

27,000

66

福嶋愛子

48

8

51

9

A

37

0

6

13,000

481,000

250,000

2,989,000

51

9

64

3

150

0

6

13,000

1,950,000

64

3

66

7

28

65

20

6

11,000

308,000

67

宮本貞子

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,757,000

51

9

60

7

106

0

9

13,000

1,378,000

60

7

66

7

72

60

40

9

9,000

648,000

68

瀧上六義

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,893,000

51

9

60

3

102

0

9

13,000

1,326,000

60

3

66

7

76

65

20

9

11,000

836,000

69

松浦進

48

8

51

9

A

37

0

8

9,000

333,000

250,000

2,005,000

51

9

54

1

28

0

8

9,000

252,000

54

1

66

7

150

65

20

8

7,800

1,170,000

70の1

坂本修一

48

8

51

9

A

37

0

9

9,000

333,000

223,000

1,711,400

51

9

59

9

96

0

9

9,000

864,000

59

9

62

4

31

65

20

9

9,400

291,400

71

嶋昭代

50

7

51

9

A

14

0

9

11,000

154,000

250,000

2,125,200

51

9

54

3

30

0

9

11,000

330,000

54

4

66

7

148

65

20

9

9,400

1,391,200

73

吉田重雄

48

8

51

9

A

37

0

10

11,000

407,000

250,000

2,378,200

51

9

54

3

30

0

10

11,000

330,000

54

3

66

7

148

65

20

10

9,400

1,391,200

74

森本千代

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,763,000

51

9

54

10

37

0

9

13,000

481,000

54

10

66

7

141

65

20

9

11,000

1,551,000

75

立花弘子

48

8

51

9

A

37

0

30

6,000

222,000

228,000

1,748,400

51

9

55

11

50

0

30

6,000

300,000

55

11

66

7

128

65

20

30

7,800

998,400

76

佐野壽重

48

8

51

9

A

37

0

15

11,000

407,000

250,000

2,319,000

51

9

54

1

28

0

15

11,000

308,000

54

1

63

8

115

65

20

15

9,400

1,081,000

63

8

66

7

35

60

40

15

7,800

273,000

77

森エイ

48

8

51

9

A

37

0

19

9,000

333,000

250,000

2,075,800

51

9

58

12

87

0

19

9,000

783,000

58

12

66

7

91

65

20

19

7,800

709,800

78の1

關川勇

48

8

51

9

A

37

0

14

9,000

333,000

219,000

1,679,400

51

9

53

8

23

0

14

9,000

207,000

53

8

63

6

118

65

20

14

7,800

920,400

80

越智明彦

48

8

51

9

A

37

0

32

6,000

222,000

170,000

1,301,600

51

9

58

7

82

0

32

6,000

492,000

58

7

63

7

60

65

20

32

4,800

288,000

63

7

66

7

36

60

40

32

3,600

129,600

81

古川駿雄

48

8

51

9

A

37

0

4

9,000

333,000

250,000

1,975,000

51

9

53

11

26

0

4

9,000

234,000

53

11

64

8

129

65

20

4

7,800

1,006,200

64

8

66

7

23

60

40

4

6,600

151,800

82の1

大久保節子

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

125,000

957,000

51

9

53

12

27

0

10

13,000

351,000

83

加藤寿子

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

147,000

1,124,000

51

9

54

1

28

0

10

13,000

364,000

54

1

55

1

12

65

20

10

11,000

132,000

84

瀧口とへ

48

8

51

9

A

37

0

10

9,000

333,000

250,000

2,005,000

51

9

54

1

28

0

10

9,000

252,000

54

1

66

7

150

65

20

10

7,800

1,170,000

85

瀧口勇

48

8

51

9

A

37

0

10

9,000

333,000

250,000

2,005,000

51

9

54

1

28

0

10

9,000

252,000

54

1

66

7

150

65

20

10

7,800

1,170,000

損害賠償認容額一覧表(二)

原告

番号

氏名

賠償期間

期間

区分

期間

月数

基準

区分

防音工事

距離

慰謝料

月額

慰謝料額

(小計)

弁護士

費用

総額

備考

始期

終期

対策

ホン

減額

率・%

86

安尾新三

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

250,000

2,777,000

51

9

55

5

44

0

10

13,000

572,000

55

5

56

6

13

65

20

10

11,000

143,000

56

6

66

7

B

121

65

20

10

11,000

1,331,000

87

阿部照子

48

8

51

9

A

37

0

10

11,000

407,000

250,000

2,397,400

51

9

55

3

42

0

10

11,000

462,000

55

3

56

6

15

65

20

10

9,400

141,000

56

6

66

7

B

121

65

20

10

9,400

1,137,400

88

西嶋一男

48

8

51

9

A

37

0

10

11,000

407,000

250,000

2,395,800

51

9

55

2

41

0

10

11,000

451,000

55

2

56

6

16

65

20

10

9,400

150,400

56

6

66

7

B

121

65

20

10

9,400

1,137,400

89の1

谷昌宏

48

8

51

9

A

37

0

10

13,000

481,000

82,000

628,000

51

9

52

2

5

0

10

13,000

65,000

90

堀恭二

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,781,000

51

9

55

7

46

0

9

13,000

598,000

55

7

56

6

11

65

20

9

11,000

121,000

56

6

66

7

B

121

65

20

9

11,000

1,331,000

91

平井清

48

8

51

9

A

37

0

17

11,000

407,000

250,000

2,132,400

51

9

56

6

57

0

17

11,000

62,7000

56

6

62

9

B

75

0

17

11,000

825,000

62

9

62

12

B

3

60

40

17

7,800

23,400

92

古田義一

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,767,000

51

9

54

12

39

0

9

13,000

507,000

54

12

56

6

18

65

20

9

11,000

198,000

56

6

66

7

B

121

65

20

9

11,000

1,331,000

93

中田正雄

48

8

51

9

A

37

0

8

13,000

481,000

250,000

2,783,000

51

9

55

8

47

0

8

13,000

611,000

55

8

56

6

10

65

20

8

11,000

110,000

56

6

66

7

B

121

65

20

8

11,000

1,331,000

94

大田久子

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,981,000

51

9

56

6

57

0

9

13,000

741,000

56

6

65

3

B

105

0

9

13,000

1,365,000

65

3

66

7

B

16

60

40

9

9,000

144,000

95

永吉笑子

48

8

51

9

A

37

0

6

13,000

481,000

250,000

2,767,000

51

9

54

12

39

0

6

13,000

507,000

54

12

56

6

18

65

20

6

11,000

198,000

56

6

66

7

B

121

65

20

6

11,000

1,331,000

96

前山美代子

48

8

51

9

A

37

0

12

13,000

481,000

250,000

3,045,000

51

9

56

6

57

0

12

13,000

741,000

56

6

66

7

B

121

5

13,000

1,573,000

97の1

南條孝一

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

156,000

1,196,000

51

9

55

4

43

0

9

13,000

559,000

98

片山きぬえ

48

8

51

9

A

37

0

21

8,000

296,000

123,000

941,000

51

9

56

6

57

0

21

8,000

456,000

56

6

56

12

6

0

8

11,000

66,000

101

山本もりえ

48

8

51

9

A

37

26

8,000

296,000

162,000

1,244,000

51

9

56

6

57

26

8,000

456,000

56

6

58

12

30

10

11,000

330,000

102の1

青木ナツ

48

8

51

9

A

37

0

10

11,000

407,000

205,000

1,570,400

51

9

56

6

57

0

10

11,000

627,000

56

6

58

7

B

25

0

10

11,000

275,000

58

7

59

1

B

6

65

20

10

9,400

56,400

104

土畑藤夫

48

8

51

9

A

37

0

10

11,000

407,000

250,000

2,527,000

51

9

56

6

57

0

10

11,000

627,000

56

6

61

12

B

66

0

10

11,000

726,000

61

12

66

7

B

55

65

20

10

9,400

517,000

106

佐藤秀夫

48

8

51

9

A

37

16

11,000

407,000

250,000

2,480,600

51

9

56

6

57

16

11,000

627,000

56

6

59

7

B

37

16

11,000

407,000

59

7

66

7

B

84

65

20

16

9,400

789,600

108

竹田義夫

48

8

51

9

A

37

0

10

11,000

407,000

250,000

2,480,600

51

9

56

6

57

0

10

11,000

627,000

56

6

59

7

B

37

0

10

11,000

407,000

59

7

66

7

B

84

65

20

10

9,400

789,600

110

東吉博

48

8

51

9

A

37

0

20

11,000

407,000

219,000

1,682,000

51

9

56

6

57

0

20

11,000

627,000

56

6

59

9

B

39

0

6

11,000

429,000

111

櫻井豊

48

8

51

9

A

37

22

8,000

296,000

250,000

2,192,200

51

9

56

6

57

22

8,000

456,000

56

6

59

3

33

9

11,000

363,000

59

3

66

7

88

65

20

9

9,400

827,200

113の2

天野惠太

48

8

51

9

A

37

15

8,000

296,000

97,000

745,000

51

9

55

5

44

15

8,000

352,000

114

畠山久次郎

48

8

51

9

A

37

50

0

147,000

1,125,600

51

9

56

6

57

50

0

56

6

58

11

B

29

0

19

9,000

261,000

58

11

66

7

B

92

65

20

19

7,800

717,600

116

桒原敬三

48

8

51

9

A

37

53

0

120,000

916,800

51

9

56

6

57

53

0

56

6

57

8

B

14

0

22

8,000

112,000

57

8

66

7

B

107

65

20

22

6,400

684,800

120

松永葉子

48

8

51

9

A

37

10

8,000

296,000

250,000

1,970,000

51

9

56

6

57

10

8,000

456,000

56

6

66

7

B

121

10

8,000

968,000

121の1

堅田志げ子

48

8

51

9

A

37

15

8,000

296,000

179,000

1,369,000

51

9

56

6

57

15

8,000

456,000

56

6

58

7

B

25

15

8,000

200,000

58

7

61

5

B

34

65

20

15

7,000

238,000

123

八木勇高

48

8

51

9

A

37

0

9

11,000

407,000

250,000

2,384,600

51

9

54

7

34

0

9

11,000

374,000

54

7

56

6

23

65

20

9

9,400

216,200

56

6

66

7

B

121

65

20

9

9,400

1,137,400

124の1

小野リクヨ

48

8

51

9

A

37

0

9

3,700

136,900

31,000

238,200

51

9

53

4

19

0

9

3,700

70,300

124の2

森田裕子

48

8

51

9

A

37

0

9

4,900

181,300

41,000

315,400

51

9

53

4

19

0

9

4,900

93,100

124の3

野上正樹

48

8

51

9

A

37

0

9

2,400

88,800

20,000

154,400

51

9

53

4

19

0

9

2,400

45,600

125の1

有田ミサカ

48

8

51

9

A

37

0

30

6,000

222,000

95,000

725,000

51

9

56

6

57

0

30

6,000

342,000

56

6

57

5

11

0

30

6,000

66,000

126

西尾あや子

48

8

51

9

A

37

0

13

11,000

407,000

250,000

2,391,000

51

9

54

11

38

0

13

11,000

418,000

54

11

56

6

19

65

20

13

9,400

178,600

56

6

66

7

B

121

65

20

13

9,400

1,137,400

128

田中孝三

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,765,000

51

9

54

11

38

0

9

13,000

494,000

54

11

56

6

19

65

20

9

11,000

209,000

56

6

66

7

B

121

65

20

9

11,000

1,331,000

129

李南述

48

8

51

9

A

37

0

12

13,000

481,000

242,000

1,853,000

51

9

54

10

37

0

12

13,000

481,000

54

10

56

6

20

65

20

12

11,000

220,000

56

6

59

9

B

39

65

20

12

11,000

429,000

131

岡本とし子

48

8

51

9

A

37

0

17

11,000

407,000

81,000

620,000

51

9

52

9

12

0

17

11,000

132,000

132

佐伯美津子

48

8

51

9

A

37

0

14

13,000

481,000

250,000

2,543,400

51

9

54

9

36

0

14

13,000

468,000

54

9

56

6

21

65

20

14

11,000

231,000

56

6

60

11

B

53

65

20

14

11,000

583,000

60

11

66

7

B

68

60

40

14

7,800

530,400

134

松村暢子

48

8

51

9

A

37

0

16

13,000

481,000

250,000

2,761,000

51

9

54

9

36

0

16

13,000

468,000

54

9

56

6

21

65

20

16

11,000

231,000

56

6

66

7

B

121

65

20

16

11,000

1,331,000

135

高好智王

48

8

51

9

A

37

0

16

13,000

481,000

195,000

1,495,000

51

9

56

6

57

0

16

13,000

741,000

56

6

56

12

B

6

0

16

13,000

78,000

136

岩本幸子

48

8

51

9

A

37

0

9

13,000

481,000

250,000

2,395,000

51

9

56

6

57

0

9

13,000

741,000

56

6

58

3

B

21

0

9

13,000

273,000

58

3

66

7

B

100

50

17

6,500

650,000

137の1

櫻井嘉子

48

8

51

9

A

37

0

6

13,000

481,000

166,000

1,271,000

ア・エ

51

9

55

9

48

0

6

13,000

624,000

138

榎俊子

48

8

51

9

A

37

0

6

13,000

481,000

133,000

1,017,000

51

9

54

4

31

0

6

13,000

403,000

139

森嶋邦子

48

8

51

9

A

37

0

6

13,000

481,000

250,000

2,395,000

エ・オ

51

9

56

6

57

0

6

13,000

741,000

56

6

58

3

B

21

0

6

13,000

273,000

58

3

66

7

B

100

50

17

6,500

650,000

140

櫻井嘉子

48

8

51

9

A

37

0

6

13,000

481,000

250,000

2,395,000

エ・オ

51

9

56

6

57

0

6

13,000

741,000

56

6

58

3

B

21

0

6

13,000

273,000

58

3

66

7

B

100

50

17

6,500

650,000

141

有田ミサカ

48

8

51

9

A

37

0

6

13,000

481,000

250,000

2,385,000

エ・オ

51

9

56

6

57

0

6

13,000

741,000

56

6

57

10

B

16

0

6

13,000

208,000

57

10

58

3

B

5

65

20

6

11,000

55,000

58

3

66

7

B

100

50

17

6,500

650,000

149

原田久代

48

8

51

9

A

37

7

7,000

259,000

88,000

676,000

51

9

55

8

47

7

7,000

329,000

150

桂郁子

48

8

51

9

A

37

18

7,000

259,000

70,000

539,000

51

9

54

3

30

18

7,000

210,000

151

西村房子

48

8

51

9

A

37

0

22

10,000

370,000

250,000

2,509,000

51

9

55

12

51

0

22

10,000

510,000

55

12

56

6

6

65

20

22

8,000

48,000

56

6

66

7

B

121

65

20

13

11,000

1,331,000

152

坂本照子

48

8

51

9

A

37

53

0

24,000

185,000

51

9

56

6

57

53

0

56

6

58

5

B

23

17

7,000

161,000

(注) 備考欄の符号は次のとおりである

ア B期間のない原告ら(主文五項2、(二)参照)

イ 原告番号58 天野格(理由第一〇、三、3参照)

ウ 防音工事の通知後一年経過ののち、減額した(理由第一〇、七、2、(一)、(10)参照)原告ら

エ 本件道路からの距離に変動がある(原判決添付別紙目録(四)参照)が、慰謝料額の算定に影響しないから、変動前の距離のみを記載した原告ら

オ モデル住宅入居後、騒音、距離の慰謝料月額をともに50%減額した(理由第一〇、七、2、(一)、(11)参照)原告ら

各種型化群の屋外騒音レベル

屋外騒音の変化要因から見た類型化

原告別防音工事実施状況一覧表(新規分)

原告

番号

氏名

防音工事助成関係事項

騒音測定

年月日

契約

年月日

工事完了

年月日

世帯

人数

対象

室数

助成金額

(円)

14

濱田大之助

52.9.20

61.6.30

61.9.26

6

(5)

4

(4)

二、一五〇、〇〇〇

(二、一一五、〇〇〇)

66

福嶋愛子

53.1.31

1.2.10

1.3.30

3

(2)

3

(2)

三、二〇〇、〇〇〇

(二、二五〇、〇〇〇)

67

宮本貞子

53.1.31

60.5.22

60.7.9

4

4

二、九〇〇、〇〇〇

94

大田久子

61.7.31

2.2.8

2.3.30

4

4

三、八八〇、〇〇〇

104

土畑藤夫

57.12.15

61.9.12

61.12.9

3

1

一、四〇二、〇〇〇

注1 原審最終口頭弁論終結日(昭和60年5月23日)以後に新たに防音工事を行った原告を原告別に示した。

2 原告番号66福島愛子及び同104土畑藤夫は65ホン対策、その他の原告は60ホン対策である。

3 ( )書は、原告本人もしくはその家族が所有し、他人等に貸している住宅の防音工事に係るもので外書である。

原告別防音工事実施状況一覧表(追加分)

原告

番号

氏名

防音工事助成関係事項

騒音測定

年月日

契約

年月日

工事完了

年月日

世帯

人数

対象

室数

助成金額

(円)

20

櫻間正夫

1.9.8

2.5.7

2.7.26

4

2

二、三〇〇、〇〇〇

21

三村千代子

1.9.12

3.1.11

3.3.29

6

2

二、三〇〇、〇〇〇

38

真殿キクエ

62.12.17

63.12.28

1.3.15

3

1

一、〇七一、〇〇〇

41

魚谷耕二

60.7.5

61.10.6

61.12.18

4

2

二、一六一、〇〇〇

45

森政雄

59.8.7

60.4.22

60.5.23

4(4)

1(4)

四〇一、〇〇〇

(三、六二五、〇〇〇)

46

加尻初次

59.8.7

60.7.9

60.9.24

5

1

一、三〇〇、〇〇〇

47

加尻巌

59.8.7

60.7.17

60.9.24

5

1

一、一〇一、〇〇〇

48

八木周三

59.8.7

60.5.23

60.7.2

6

1

一、三〇〇、〇〇〇

52

樋口善昭

61.10.15

63.8.30

63.11.10

4

1

一、〇七九、〇〇〇

54

麻生健治

59.11.6

63.2.29

63.3.31

4

3

二、六五〇、〇〇〇

55

建井一子

59.11.7

60.11.11

60.12.19

4

1

一、一一一、〇〇〇

58

天野格

54.12.21

59.5.29

59.8.20

7

2

二、二五〇、〇〇〇

64

清水勝巳

60.6.4

60.11.27

61.1.16

6

1

四八七、〇〇〇

65

雑古ノブ

60.6.4

60.9.11

60.11.29

4

1

八五九、〇〇〇

76

佐野寿重

62.6.25

63.7.14

63.8.30

5

2

二、二五〇、〇〇〇

80

越智明彦

62.6.26

63.5.31

63.7.26

4

2

一、三〇〇、〇〇〇

81

古川駿雄

62.6.26

1.6.13

1.8.10

4(4)

1(2)

五二四、二七〇

(一、八三四、四三〇)

111

櫻井豊

(61.12.24)

(62.6.5)

(62.7.14)

(4)

(1)

(九七一、〇〇〇)

115

真島義平

61.12.23

62.6.22

62.9.21

3

2

二、二五〇、〇〇〇

125

有田ミサカ

63.7.28

1.10.30

1.12.5

2

1

六三〇、三六〇

132

佐伯美津子

60.2.15

60.10.18

60.11.5

4

1

一、三〇〇、〇〇〇

注1 原審最終口頭弁論終結日(昭和60年5月23日)前に防音工事を行った原告のうち、同日以後に更に追加して60ホン対策として防音工事を行った原告を原告別に示した。但し、原告番号58天野格は65ホン対策である。

2 ( )書は、原告本人もしくはその家族が所有し、他人等に貸している家屋の防音工事に係るもので外書である。

騒音 室外 24時間 LeqとL50

番号枠

氏名

距離

Leq

L50

(A、B、Cのグループ)

B64

清水勝巳

9

78.4

77

C95

永吉笑子

6

76.8

74

B65

雑古ノブ

9

76.4

76

C86

安尾新三

10

76.4

75

A37

住吉隆

10

75.9

73

C93

中田正雄

8

75.9

73

A8

藤原聖士

10

75.8

72

C128

田中孝三

9

75.0

72

A47

加尻巌

9

74.2

72

C151

西村房子

13

74.2

72

B63

松田正人

10

73.0

72

A39

竹田谷真一

10

73.0

71

A38

真殿キクエ

10

72.9

69

(敷地境界で測定)

B63

松田正人

10

72.2

71

(敷地境界で測定)

A34

岡本やえ

9

71.7

70

B62

井上宗弘

12

71.6

71

A5

尾ノ道秋子

9

70.8

67

A21

三村千代子

9

68.8

66

A38

真殿キクエ

10

67.6

65

A3

真木美佐子

9

66.6

63

(D、E、Fのグループ)

F126

西尾あや子

13

72.8

71

D20

櫻間正夫

20

70.8

68

F124

小野リクヨ

9

70.7

69

E75

立花弘子

30

65.0

64

(G、Hのグループ)

H125

有田ミサカ

30

64.0

62

(I、Jのグループ)

I12

浜田綾子

4

68.1

66

I15

大塚ひさえ

5

66.0

64

J85

瀧口勇

10

65.4

63

J85

瀧口勇

10

64.6

62

(敷地境界で測定)

(K、Lのグループ)

L58敷

天野格

8

74.9

73

(敷地境界で測定)

L58

天野格

8

68.4

67

L56

木矢佳延

25

65.6

65

L80

越智明彦

32

63.2

62

(Mのグループ)

M16

中井照一

21

60.9

59

M13

吉田岩吉

50

58.0

57

M10

檜田八重子

40

57.6

56

(Nのグループ)

N88

西嶋一男

10

71.2

70

N102

青木ナツ

10

68.1

67

N111

櫻井豊

9

67.5

67

N116

桒原敬三

22

67.3

67

N114

畠山久次郎

19

66.8

66

(Oのグループ)

O113

天野芳江

15

61.4

60

O120

松永葉子

10

57.0

56

(P、Q、Rのグループ)

Q73

吉田重雄

10

73.6

71

Q52

樋口善昭

8

72.4

71

R123

八木勇高

9

72.3

71

P44

宇都洋

9

71.6

69

Q61

遠山重雄

9

71.4

69

P18

井上綾子

9

69.1

68

Q61

遠山重雄

9

67.2

66

(敷地境界で測定)

(Sのグループ)

S55

建井一子

20

69.9

69

(敷地境界で測定)

S55

建井一子

20

68.2

67

S50

河野壽生

26

64.2

63

鑑定のLeq値

原告番号

氏名

距離

窓閉平均

窓開平均

室外平均

A

3A

真木美佐子

9

46.9

59.2

69.7

A

3B

真木美佐子

9

43.9

54.6

69.7

A

5

尾ノ道秋子

9

44.8

63.0

74.4

A

8

藤原聖士

10

48.0

67.1

79.2

M

10A

檜田八重子

40

39.2

45.8

60.6

M

10B

檜田八重子

40

41.0

47.9

60.6

I

12

浜田綾子

4

38.1

62.0

71.6

M

13

吉田岩吉

50

39.9

52.6

59.3

I

15

大塚ひさえ

5

38.2

47.9

69.6

M

16A

中井照一

21

36.3

53.7

64.2

M

16B

中井照一

21

36.1

44.6

64.2

P

18A

井上綾子

9

42.0

62.0

70.8

P

18B

井上綾子

9

42.6

57.1

70.8

D

20

櫻間正夫

20

40.9

63.8

73.8

A

21

三村泰三

9

43.6

59.2

73.0

A

32

瓦庄市

9

45.6

54.8

63.4

A

34

吉本光江

9

46.1

60.2

74.8

A

37

住吉隆

10

45.3

65.8

77.5

A

38A

真殿キクエ

10

44.2

59.4

69.3

A

38B

真殿キクエ

10

43.2

55.0

69.3

A

39A

竹田谷真一

10

53.1

66.0

75.1

A

39B

竹田谷真一

10

40.4

52.2

75.1

P

44

宇都洋

9

47.4

66.2

73.6

A

47

加尻巌

9

47.4

65.6

75.6

S

50

河野壽生

26

37.0

54.7

65.4

Q

52

樋口善昭

8

45.0

62.8

74.3

S

55A

建井一子

20

40.6

59.7

69.2

S

55B

建井一子

20

39.1

56.8

69.2

L

56A

木矢佳延

25

38.6

47.2

68.1

L

56B

木矢佳延

25

39.5

52.1

68.1

L

58A

天野格

8

39.0

62.2

71.0

Q

61A

遠山重雄

9

46.3

62.2

73.8

B

62

井上宗弘

12

41.6

62.4

73.6

B

63A

松田正人

10

45.1

65.3

74.8

B

64

清水勝巳

9

46.4

67.6

80.4

B

65

雑古ノブ

9

48.4

68.1

78.0

Q

73

吉田重雄

10

39.8

63.0

75.2

E

75

立花弘子

30

45.2

55.6

67.2

L

80

越智明彦

32

34.2

51.0

65.8

J

85A

瀧口勇

10

38.4

54.6

68.1

C

86A

安尾新三

10

45.4

65.4

77.8

C

86B

安尾新三

10

47.4

61.6

77.8

N

88

西嶋一男

10

41.4

61.8

71.1

C

93

中田正雄

8

47.8

70.8

78.2

C

95

永吉笑子

6

52.3

70.0

79.4

N

102

青木真治郎

10

41.8

57.2

71.1

N

111

櫻井豊

9

44.8

58.8

70.3

O

113

天野峰三郎

15

41.4

55.0

64.0

N

114

畠山久次郎

19

40.2

47.8

70.2

N

116A

桒原敬三

22

42.7

60.0

70.4

N

116B

桒原敬三

22

42.8

58.2

70.4

O

120

松永葉子

10

40.2

48.1

60.3

R

123

八木勇高

9

47.1

63.7

75.0

F

124

小野春樹

9

46.2

61.0

73.1

H

125

磯俣トセノ

30

31.1

33.4

67.3

F

126

西尾あや子

13

45.0

66.8

75.6

C

151A

西村房子

13

47.4

63.2

76.4

C

151B

西村房子

13

45.4

49.2

76.4

(注)原告番号の次のA、Bは部屋の別を示している。

室外値が複数あるときは、高い方を記載してある。

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